文=長谷川修(大和映像サロン会長)
タイトル=岩崎光明

私達日本人にとって、最も縁の深い食事は「カレーライス」と「ラーメン」ではないでしょうか。それに対して、ビデオ大好き人間の最も縁の深い作品は「旅の記録」と「祭り・イベント」です。それは本誌の各クラブの活動報告欄に並ぶ作品名を見れば一目瞭然。「○○の旅」「××紀行」「△△祭」の多いこと。これは8ミリフィルム時代から変わることのない永遠の撮影願望であり、制作目的なのですね。

旅の記録については「山川地蔵」と呼ばれていたこともあり、格下に見られる向きもありました。旅を愛する人たちにとって「山川地蔵」とは失礼千万な話ですよね? 準備と計画さえキッチリとしていれば、立派な旅の作品や祭りの作品ができるのです。山川地蔵大いに結構、胸を張って作っちゃいましょう!

そもそもビデオ撮影をするようになった動機は、旅行に持って行き、楽しい思い出を映像として残したい。その映像を参加した人に観てもらいたい! できれば他人にも観てもらいたい! なのではないでしょうか。まさにその通りなのです。

旅の作品を観ると、良い作品がある反面、つまらない作品も確かにあります。なぜつまらないのか、一言でいえば観る人に共感してもらえなかったり、感動を伝えられなかったから…なのです。じゃあ、いったいどうすれば、その共感とか感動とかを伝える作品が作れるの? 教えてよ! さあ、さあ、さあ、さあ…おっと、そうせかさないでくださいな。待てば海路の日和あり~。え? 待てない? ではわかりやすく説明致しましょう。

え~旅にもいろいろありまして、国内旅行に海外旅行、豪華客船クルーズの旅、傷心のひとり旅(センチメンタルジャーニー)、ご夫婦二人旅、団体ツアーに趣味の仲間のグループ旅行などがございます。不倫旅行? これはいけませんな。わざわざ証拠を残すようなビデオは撮らないに限ります。それと目的によって楽しみ方が違います。食べ歩きや神社仏閣城巡り、名湯秘湯めぐりから各地巡礼まで、様々な楽しみ方がございます。

いずれの場合でも、長すぎるのは禁物です。同行した仲間にとっては貴重な旅の思い出ですので、30分でも1時間でも喜んで観てくれます。しかし、それ以外の方に見せる場合は10分程度に再編集することです。でも、これが大変難しい作業なのですョ! どのカットにも思い出があり、しかも画面が抜群に綺麗となれば切れません。ことわざの意味とは異なりますが、「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」の心境です。こうして苦しみ抜いて編集した作品は、見違えるほど旅の楽しさ、素晴らしさを伝えてくれるはずです。

8ミリ映画時代の話ですが、とある初心者が「家族で長野へ旅行に行った時に撮ったものを公開映写会に出したい」と例会へ作品を持って来ました。200フィートのリールにギッシリ巻かれた作品(約13分)は手ブレや類似カットの連続で、このままではちょっと公開上映の作品としては「?」マーク。

そこでベテラン連中が手を出し、口を出して、仕上がった作品は50フィート程の小品となってしまいました。その小さなリールを見て本人は「なんでこんなに小さくなっちゃたの…」と驚くやら嘆くやら。しかし『初秋の信州』と名付けられたその作品は好評で、それに自信をつけたのか、素敵な作品を作る若手会員となりました。

旅の楽しさを伝えるには、美しい風景はもちろんですが、現地の変わった風習や人物など、自分が興味を持ったものを映像にすると、他人も興味をそそられるものです。ひと昔前は、JALのバッグを肩に掛けるのがステータスであり、『兼高かおる 世界の旅』で海外の風景にわくわくした時代でありました。しかし今は、テレビで世界中の映像を観ることができますし、国内旅行よりも安く海外へ行ける時代です。それだけに自分だけの旅、パーソナルな楽しみ方をアピールする作品づくりができれば、胸を張った「山川地蔵」の完成です。

私だけの箱根の旅をテーマに作品を作ったことがあります。テレビの旅番組で取り上げられる類型的な箱根紹介ではない、パーソナルな箱根を描くのが目的でした。幸いにも自宅から箱根までは、勤務先の東京・秋葉原よりも近いという立地条件に恵まれ、休日のほとんどを撮影に費やし、あまり知られていない箱根を四季を通して描いた典型的な「山川地蔵」作品になりました。

撮影地が近いということは、何度でも気に入るまで撮影できるし、四季を描くこともできる。そのようなテーマを見つけることもぜひお薦めしたいと思います。

最後に基本的なことをひとつ。地理的説明や地名の読み方など、充分にチェックするようにしましょう。読み方の間違い、テロップの文字の間違い(最近ではパソコンの変換ミスが多い)、英文のスペルの誤りなどは作品を台無しにします。「念には念を入れよ」ですよ! ご用心、ご用心。

胸を張った山川地蔵作品の一例 『箱根逍遥』(13分57秒)

▲2000年、CFCサロン主催「全国映像コンクール」旅の部門、JTB賞受賞作品。1年を通じて記録した「私的」旅の記録である。

月刊「ビデオサロン」2015年5月号に掲載