文=長谷川修(大和映像サロン会長)
タイトル=岩崎光明

ビデオを撮ったけど、BGMにどんな曲を使ったら良いのか分からない! という相談を受けることがあります。特にビデオを始めたばかりの方に多いですネ。クラブやサークルに入会していれば、ある程度キャリアを積んだ方の作品を観てBGMの使い方を学ぶことはできるものの、いざ自分の作品となると悩んでしまうのでしょうね。その気持ちよく分かります、分かりますヨ。

プロの場合は編集や選曲それぞれに専門の担当者がいますが、アマチュアの場合はワンマンプロダクションですから、すべて一人で処理しなければなりません。日頃音楽にはあまり縁がなかった人にとって、選曲は大きな悩みなのです。

ビデオを始めたばかりの方の撮影対象の傾向として、我が家の記録、子や孫の記録、地域の行事、お祭り、神社仏閣巡り、国内外旅行等が多いようです。最近では各社から、それらの作品に合いそうな著作権フリーの音楽集が発売されています。テーマ別に選べますから、概ね失敗することはありませんのでお薦め致します。また海外旅行の場合は、現地の曲を購入して使用するのも良いと思います。その土地ならではの雰囲気が作品を盛り上げてくれますから!

私の経験から申しますと、コンテストで音楽の良否について言及する審査員はあまりいません。あくまでも作品の内容についての論評です。まあBGMの流しっぱなしを指摘されるくらいでしょうか? だからと言って、ないがしろにしてもいいと言っているわけではありませんよ。

また、ある上映会で全編音楽なし…の作品を拝見致しました。それでも違和感なく、というよりも音楽のことなぞ忘れて最後まで観入ってしまいました。BGMを使わない…という選択もあるのですね。

著作権への配慮は必要ですが、アマチュアのビデオ制作の楽しみのひとつとして、好きな曲や美しい音楽を自由に使うこと…も大いにありなのです。…おっと話が脱線しましたのでもとへ戻しましょう。

曲を選ぶ時に迷った挙句、曲名が作品のテーマに合っているからとの理由で、選曲する例が多く見られます。実際にあった例をご紹介致しましょうか? 桜の名所、吉野山の千本桜の作品のBGMに、滝廉太郎の名曲「花」を使った作品を拝見したことがあります。桜をバックに美しいメロディーが流れますと、観ている人は無意識に歌詞を思い浮かべてしまいます。♪春のうららの隅田川 上り下りの舟人が…ありゃ?

また8mm映画全盛の頃、ある上映会で越後八海山登山の作品で、雄大な山頂からのパノラマ撮影のカットに、ナレーションは「私は暮ゆく山々をいつまでもいつまでも眺めていたのでした」。バックには当時大ヒットした映画『シェーン』のテーマ曲〈遥かなる山の呼び声〉が流れると、会場から爆笑が起こりました。これらは曲名から選曲した失敗例です。

また失敗ではないのですが、むしろ選んだ曲が余りにもピッタンコ過ぎるのも「?」…という例もありますョ! 多いのがお正月の作品に使われる宮城道雄の「春の海」、童謡「お正月」(♪もういくつ寝ると お正月)、春の作品には「春の小川」や「ひなまつり」等があります。

いえいえ、決して使ってはいけないとか悪いとは言っていませんよ、誤解のないように! ただ多くの人が使う曲なので「あぁ、またか!」といった受け止め方をされてしまう危険性があります。いわゆる定番中の定番、即ちBGMのスタンダードナンバーを使うとその傾向があるようなのです。

また、有名な曲を使った場合、観る側に固定的なイメージが出来上がっている場合が多いですから、時には作者の意図とずれて伝わる懸念が出てくるのですね。ある程度作品づくりの経験を積みますと、そこに気がつき、次第に自分なりのBGMを選び使うようになってきます。こうなればしめたもの、立派な音楽監督の誕生です!

ここで、選曲というよりは、あくまでも私個人の音楽の使い方を公開しましょう。まあ大したことではありません。ポイントは相撲用語ではありませんが〝三所攻め(みところぜめ)〟です。ここで言う三所とは(1)メインタイトル、(2)見せ場、(3)エンディング、の三カ所を指します。

その作品のイメージに相応しい曲が見つかったとしましょう。まずはドーンとメインタイトルにその曲を使います(ボリュームもそれらしく上げます)。次に作品の山場で同じ曲を使います。そしてエンディングに再びその曲を使い、作品全体を盛り上げて終わります。

お分かりだと思いますが、このような音楽の使い方は単に背景に流すだけのBGM、即ちバック・グラウンド・ミュージックではなく、その作品の立派なテーマ音楽になっているということです。そしてもう一言加えるとするならば、作品の終りはその曲のまさに終りの部分を使って終わらせたいものですね。曲の途中でプッツンなんてことにならないように気を付けましょう。

7~8分の短い作品の場合は三所攻めにこだわらず、導入部(メインタイトルを含む)とエンディングに使うだけでも立派なテーマ曲になりますヨ!

月刊「ビデオサロン」2016年3月号に掲載