文=長谷川修(大和映像サロン会長)
タイトル=岩崎光明
あるクラブの上映会の挨拶に「ビデオの編集が楽しくて仕方がありません」という一言がありました。個人的には編集作業は大なり小なり苦しい作業の連続なので、「編集が楽しい」と言える境地になりたいものだと反省したものですが、どうやらそういう意味ではないことが、作品の上映後に分かりました。
編集の楽しさとは、テロップを自由自在に使い、画面転換にトランジションを多用し、画面に効果(エフェクト)をかけることの楽しさ、面白さだったようなのです。これはビデオ編集ソフトを覚えたての方や、新しい編集ソフトを使い始めたばかりの人に見られる傾向なのかもしれませんが、とにかくエフェクト満載だったのです。
編集ソフトの基本的な操作を覚えると、ステップアップの段階でエフェクトや場面転換、ピクチャー・イン・ピクチャーなどを習得していきますが、ひと通り習得しますと、実際に試してみたくなるじゃありませんか! マウスの操作ひとつで画面がひっくり返ったり遠くへ飛んで行ったり、いや~面白いのなんのって、たまりません。そしてこれを観た人は「凄い! まるでプロみたい!」と褒めてくれますから、ますます使いたくなりますよネ。
ある知人が『トランジション50連発』という作品を作ったことがありましたが、それも新しい編集ソフトの場面転換効果をぜ~んぶ使ったものでした。使いたいものは飽きるまで、一度徹底的に使ってみるのもいいかもネ!
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ズームレンズが出始めた頃、めったやたらとズームをする人がいましたが、確かに望遠鏡代わりに使えて面白い! 右側で犬がワンと鳴くとそちらへパンしながらズームアップ、左で子供が何か言うと左へパンするが上手くファインダーに補えることができないのでズームバック。被斜体を見つけたのでズームアップするがピンボケ…。でも楽しかったな~ズームレンズって!
「ズームを意味なく使ってはいけません」とか、「カメラは動かさない」とか言うよりも、飽きるまで使ってみて、船酔いの辛さを経験するのもいいかもしれません。自分の撮影したものをじっくり見て、すべてはそこからがスタートなのです。
♪誰でも一度だけ経験するのよ…確か百恵ちゃんの歌にありましたね?
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私のクラブの例会で、ある会員が多感な少年期を描いた創作ドラマを上映した時のこと。回想場面で、浜辺で遊んでいる子供たちから寄せては返す波にオーバーラップして場面転換します。観終わって各自感想を述べ合ったのですが、会員の一人が「波打ち際の子供たちに波がオーバーラップするカットがあったが、あれは良くない! 私には子供たちが波にさらわれたように見えた!」とのKさんの発言に「そうは見えなかった!」「そんなカットあったっけ?」なんて無責任な発言もあり会場は騒然と。結局その場面を再度上映して確認するという事件?がありました。
この作品のロケ地が「真白き富士の嶺」で有名な七里ガ浜だっただけに、さらに混乱。何とか一件落着しましたが、これは観る人によっていろいろな見方ができるというサンプルでしょう。単なる場面転換効果でも、その使い方をひとつ間違えると、とんだ騒ぎになりますからご注意を!
基本的に場面と場面の繋ぎはカット繋ぎであるべきとされ、小津安二郎の映画が引き合いに出されます。これはオーバーラップやフェードなどは使わないという手法です。そうは言っても、作品の流れとして季節の変わり目や場所の移動、回想シーンなど、カット繋ぎだけでは表現が難しい場合がありますよネ? そんな時はむしろオーバーラップなどのトランジションを使ったほうが良いと思います。何と言っても判りやすいことが大切ですからね。
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話は飛びますが、8mm映画がまだダブルエイトの頃、オーバーラップをする方法はAというカットを撮影した後、暗箱を使うか押し入れの中に入り、手探りでフィルムのリールを勘で巻き戻し、今度はBというカットを撮影して実現したのです。これは上手くいったらお慰み…みたいなものでしたから、多用することはできず、カット繋ぎをせざるを得ませんでした。
フェードアウトなんかもシャッター開角度が変えられず、完全な暗転ができませんでした。そのための〝フェード液〟も発売されたものです。バットに満たしたフェード液にフィルムを左右に動かしながら黒く染めていくのですから、気が遠くなりましたネ!「サロンフェード液※」懐かしいな~。
※撮影済みのフィルムにフェードをかけられた玄光社のオリジナル商品。50CCで500円だった。
またワイプなんかもフィルムを重ねて剃刀の刃で斜めに切り、セロテープで貼ってワイプもどきを作ったりもしましたよ。そのような苦労があったので、自然と小津安二郎的?な編集になったのです。
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最後に、編集ソフトにある各種トランジションによる場面転換の「効果」とは別な話をひとつ。それは、メインタイトルの前にプロローグを使う手法が実に効果的である…という話なのであります。物語の展開をスムーズに観客に理解してもらえる効果と、全体の尺を短くする効果があるのです。映画は省略の芸術である…なんて言われますものね。私の作品の多くは、このプロローグ手法を使っています。
プロローグが雪のシーンであっても、メインタイトルの後なら夏のシーンにつなげても、時間の経緯や場所の移動など、観る人に違和感なく伝えることができるのです。トランジションを多用するよりも効果的ですので、私のい・ち・お・しデス!