航空カメラマン・野口克也の 前略、空からお邪魔します vol.44「西ノ島の撮影や釣り番組で学んだ 船舶からのドローン運用」


vol.44 西ノ島の撮影や釣り番組で学んだ 船舶からのドローン運用

文●野口克也(HEXaMedia)

東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/

 

様々なシーンでドローン撮影を行なっていると、いろいろと変わったシチュエーションでの離発着、操縦などの要望が増えて来ています。その中でも今回は、はじめての方は戸惑うことが多いであろう、船舶からの運用について触れてみます。釣り番組の撮影や西之島、南硫黄等、筆者の経験の範囲での可能な限りの知識を語ります。

 

船舶での撮影の第一歩は まずは酔わないこと!

筆者は元々実機ヘリの空撮カメラマンとして、揺れる中モニターを見ながら撮影を続けてきたため、滅多なことでは酔いません。それでも、前線通過中の締め切られた船内などではさすがに気分が悪くなり、吐き戻した経験があります。撮影者が酔ってしまうと、これ以降のどんなアドバイスも全く役に立ちません(笑)。「まずは酔わないこと」を第一優先に考えます。

酔う原因は様々ありますが、酔わないポイントは、まず前日の睡眠をしっかりとること。そして空腹でも満腹でもない状態を維持。小型の船舶であれば、外や見晴らしのいい場所にいるようにし、水平線を意識してください。そして、適切な予防薬の使用。筆者は酔い止め薬をあまり使わないですみますが、周囲のアンケートによると市販薬では「アネロン」がおすすめだそうです。酔い止めの副作用はボーッとしやすいのですが、アネロンはそれが比較的少なく、そして効果もきちんと感じられるとのこと。

あとは、頭を下に傾けている時間を少なくすること。モニターなどを見ている時間を最低限にして、なるべく遠くの水平線や、動かないものを見ている時間を増やしましょう。それでも酔ってしまったら、我慢しないで一回吐き戻してしまうとスッキリすることもあります。

また、酔ったら嫌だなぁなどと弱気にならないこと。「しっかり寝たから大丈夫!」とできるだけポジティブに考えて、業務に集中できるといいですね。

 

金属製の船舶では コンパスエラーが起こりやすい

小型のFRPなどでできている船舶以外では、ドローンに大抵「コンパス※1キャリブレーションせよ」と警告が出ます。ですが、船上でキャリブレーションをするのはできる限り避けたいことです。

というのは、船上でいくらコンパスキャリブレーションをしても、船体構造は金属製の大きな物体が多く、地磁気とずれた磁場がそこここにできています。こうした状況では、どうしても正確な較正は望めません。機体のコンパスは混乱し、船舶から離れた瞬間にまた「コンパスキャリブレーションせよ」と要求し続けることになります。しかし、場合によってはキャリブレーションが完了しないと、どうにもドローンが離陸できず、撮影そのものができないことがあります。

では、キャリブレーションエラーが出ないようにするためにはどうするか。それは船上の金属製のものと距離を取るしかありません。具体的にはアルミなどの非鉄金属製の台の上から離陸したり、ハンドリリースなどで対応することが挙げられます。安全運用的に地上では全くオススメできないハンドリリースですが、船の上でも安全面ではやはり推奨はしないもののコンパス問題の解決としては有効な手段です。

ただし、大型船上で大型ドローンで…となると、どちらも有効ではなく、しょうがなく船上でコンパスキャリブレーションをすることもあります。すると大抵は離陸したら、すぐに警告音。ドローンに文句を言われます。こうなると、安全確認だけはしっかりしつつ文句は無視して(笑)、どうにか撮影を終わらせてしまいます。

また、電源を入れてから船が旋回していないことも重要です。 船自体が旋回していると、たとえFRP船でも、確実にコンパスがおかしいと文句を言われます。当然ですよね、地面が回転している前提でドローンは設計されていないので…。

※1/機体の方向を正しく把握するためのセンサー。コンパスがずれていると機体が方向を正しく認識できず、あらぬ方向に飛んでしまうなど誤作動の原因になる。

 

波で揺れる船では IMUエラーも発生しやすい

大抵の船は波によって揺れています。揺れたままだと、IMU※2が正常に水平を検知できず、IMU異常、もしくは姿勢の異常等のエラーが出て、機体を離陸させることができません。水平を維持する離発着専用台が使用できれば素晴らしいのですが、そんな環境はあまりないものでしょう(西之島のNHK撮影では、大型のものを利用しました)。

船のサイズ、波の高さ、種類などで一概には言えないのですが、一般的な撮影だと、「ドローンを支持する人が可能な限り水平を保持してのハンドリリース」が一番有効です。そしてエラーメッセージが出ない最速のタイミングで離陸させる必要があります。

船に直接機体を置く場合でも、揺れの合間や揺れがおさまったとき等、IMUの誤差範囲内に入る瞬間を狙って、素早く離陸させましょう。Attitudeモード※3で離陸できる機種はそれを使って、GPSの補足を待たず、最短時間で離陸をさせられる準備と技量が必要です。

※2/inertial measurement unitの略。角速度センサーで機体の傾き、加速度センサーで慣性検知する。

※3/空撮用ドローンはGPSを利用することで位置を計測し、ホバリング時も安定して飛行できる。AttitudeモードはGPSをOFFにした状態。

 

Attitudeモードでの離発着が おすすめなワケ

船の上ではGPSモードではなくAttitudeモードを勧める理由は3つあります。①GPS補足を待たずに、最速の時間で離陸させるため。②船舶での離発着の場合、障害物検知機構自体が障害になる場合が多いが、Attitudeモードに入れるとモードスイッチで同時にセンサーもOFFにできるため。③GPSモードでホバリングする機体に、船舶本体が波風によって移動して激突するのを防ぐため。

船は水上にある限り、止まっているように見えても惰性で動いていたり、風や潮で流されたりしています。考えなしにGPSで離陸させるとドローンは空中の絶対的なポジションで静止しようとするので、船の構造や方向によっては、船体や手すりに、まるでドローンが飛び込んでいくように激突してしまうこともあります。

船上の空間での機体コントロールは、地球上の絶対的なポジションに機体を止めるのではなく、相対的に動いている船に、さらに相対的な舵を打ちながら離陸、着陸する必要があるということです。

離発着時は船長さんに船の構造の開けた方向が風下側になるように調節してもらい、Attitudeで機体を投げ捨てるように離陸させるとうまくいきます。離陸させたら、ただちに船の磁力の範囲外まで離し、そこでGPS補足を待って通常の撮影に入ります。

 

ペラが止まるまで気を抜くな

着陸時もAttitudeモードで着陸させます。大切なポイントは、一旦無事に接地したように見えても、ペラが完全に止まるまで操縦し続けることです。波の影響で急に船体が下がると、ドローンは空中のその高度にとどまろうとして、ペラの回転を上げます。

ドローン的には空中の一点にとどまろうとしているだけなのですが、船に乗っている人から見ると、接地したはずなのにまた急に機体が上昇したように見えるわけです。ドローンとしては正常な機能なのでそこまでを想定して、プロペラの回転が全停止するまで気を抜かないようにしてください。

地上ではドローンの脚が地面についた瞬間ほっとしたりできますが、船上ではその瞬間こそが一番気の抜けない魔の時間なのです。

 

▲気象庁の観測船から離陸させるDJI M600。空中磁気測量装置を曳航している。

▲噴火中の西之島をM600で撮影。

▲同じく西ノ島。こちらはInspire 2で撮影。鉄甲板の船舶はコンパスエラーが起こりやすいが、木甲板は比較的エラーが出づらい。

 

ビデオSALON2019年9月号より転載