vol.45「ドローンビデオ空撮のカメラワーク(前編)」

文●野口克也(HEXaMedia)

東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/

 

ドローン空撮について(正確にはドローンのみではないのですが)3年半あまり、連載を書いている中で気が付きました、「ドローンのカメラワークについて書いている回が少ない」ということに…。というわけで数回に分けて、ドローン空撮の(一部は実機の空撮にも言えることですが)カメラワークについて語っていきたいと思います。

 

①空撮全般の心得

筆今、自分が撮っている空撮映像が何のためのものか。映像媒体の仕事としてのものなのか、自分のYouTubeに公開するためのものか、FPVドローン等によるほぼ空撮で構成された映像なのか…などによって、おのずと心得は違ってくるものですが、今回は映像制作に関わる空撮の撮影をするという前提で文章を書きます。

映像制作の中の空撮パートの場合、全カット空撮やワンカット空撮長回しなどのような特殊な場合を除いて、必ず空撮カットには相応の役割があります。おおよそは地上カメラでは補足できないようなカメラアングル、動きを作り出すものです。

大抵の場合、一般の映像を見ている人は、その映像をどんな道具で撮影しているかには興味がありません。 興味があるのは撮影対象のモノ、人、場所、景色などです。つまりドローンは、単なる3次元的に移動することができるカメラ。

視聴者の見たいものはドローン操縦技術ではなく撮影対象です。このことをまず頭に叩き込みましょう(自分がドローンを操縦していることを自慢したい場合や映像制作に関わる人間など、撮影機材に興味を持っている人にはこの限りではありませんが)。

 

撮影対象を知る…「愛」を持つ

これは地上の撮影でも全く同じことが言えるのですが、「撮影対象に関する知識量」は、カットを決める上でとても役立ちます。撮影対象によって事前の準備や知っておくべき事項は様々です。

例として、お城を撮影することになった場合には、どんなことを予習しておくとよいでしょうか? 城の歴史、規模、造り、そして城主と民衆とのかかわり合い方、そして気候などでしょう。

「ここに城を支える城下町があった」とか「こちら側から何勢に攻め込まれて守り通した」、「現在は堀が埋められて街になっているが、城の敷地は以前はもっと広かった」など空撮でしか説明できないような重要なカットになることが多々あるので、ポイントとなる知識を予め知ることはとても重要です。

また、アイドルのMV等だったとしても、「Aメロの後の間奏10秒の間にこんな感じの空撮を入れ込みたい」「Bメロは手の動きが特徴的だから、それがうまく表現できるような空撮カットを入れたい」等。  そもそも昨今のアイドルグループは何十人もメンバーがいて、全員の顔と名前と動きを一致させるのもなかなか難しかったりするのですが…(笑)

こういったアイドルでも城でもなんでも撮影対象にしっかりと興味を持ち、予備知識を身につけることを我々は「愛がある」と表現します。単なる頼まれ仕事に終わらない映像を撮るためには、そんな「愛」が必要なのです。

 

撮影カットをあらかじめ決める

映像の天才的なセンスがあるならともかく(おそらくそういう人でも事前準備は相当しっかりしています)あらかじめ、どこからどんなカットを撮影するかを事前に決めておきましょう。

どこからどう飛ばして、どのカットをどの順番で撮影するか自分なりの絵コンテをイメージします。それによって現場でどう動くかがおのずと整理されてきます。

キチンとした撮影現場ではそういったことをロケハンで確認するのですが、そうでない場合はせめてGoogle Mapsやストリートビューなどで可能な限りのバーチャルロケハンをしておくことをおすすめします(過去の記事●http://bit.ly/sorakara21)。この場合、撮影ポイントと離発着の位置も要確認です(過去の記事●http://bit.ly/sorakara31) 。こうして撮影カット内容がだいたい決まると必要なバッテリー本数や所要時間がわかります。撮影場所によっては許可の関係で時間制限もあるので、とても有効です。

 

②空撮の構成要素

空撮の構成要素の詳しい説明は連載のVol.4(http://bit.ly/sorakara4)で詳しく説明しています。誌面をお持ちでない方もWebでご覧になれます。

ドローンは空間での移動の自由度が高いカメラです。この自由度を振り切った状態で撮影すると移動が激しくなりすぎ、大画面などでは見るに堪えない映像になります。そこであえて、要素を絞った動きにするというのがVol.4の内容です。

FPVドローンにしても、独りよがりでなく、撮影対象をきちんと見せるのが上手い人のカットは無駄なトリックが少なかったり、無駄な舵が少なかったりするものです。加えて、撮影対象が画面の中であまり動かないので、撮影対象をずっと見ていられます。

つまるところ、空撮の対象をよく見せる、きちんと説明することに徹することが必要です。番組などで空撮映像カットを使う場合は、何度も言いますが、視聴者が観たいモノは撮影方法ではなく、撮影対象なのですから…。

 

前後の尺を必ずとる

業界用語的には「のりしろ」と呼ばれています。今どきの世代の方には馴染みは少ないかもしれませんが、昔、紙工作で立体物を作る際に二次元の紙と紙をのりで接着するために本来の造形よりもあえてはみ出して、のりをつける部分を「のりしろ」と言って、それが由来になっています。

撮影者=動画編集者である場合は重要度が下がりますが、分業になる場合は、必ず必要とされるカットの頭と終わりに、余分な尺の映像を回しておきます。

全体の尺に合わせるために空撮を本当は12秒入れたいところを、10秒しか素材がないと困るわけです。髪の毛と一緒でカットするのは容易ですが、伸ばすのは難しい…(笑)。

そのため、常に必要な時間よりも長めに撮影しておきます。どのくらい必要かは一概に言えませんが、映像頭で5秒、終わりで10秒程度でしょうか。映像バックにナレーションが入ったり、エンドロールになったりする可能性がある場合は、さらに長めに回としておくこともあります。

 

空撮映像の出来を左右する5大要素

▲筆者が空撮を行う際に意識している5つの要素。一つ一つの要素に変化をつけるだけでも被写体の見え方が変わる。その違いを意識することで狙いある画を撮ることができる。

 

ビデオSALON2019年10月号より転載