「レフ機」は終わるのか? 高い完成度のEOS 90Dを試しながら考えた。

Report◎斎賀和彦

とあるカメラ専門店では、全体として売れているのはミラーレスだけど、単独の機種としてはニコンD850、キヤノンのEOS 5D Mark IV、そして最近はEOS 90Dだそうです。フルサイズも出揃ってミラーレス全盛に思える中、私たちはどうしてレフ機に惹かれるのでしょう。二桁EOSの最終型とも噂される90Dを触りながら考えてみました。

▲EOS 90Dは一眼レフだが意外とコンパクトだ。下にあるのがiPhone Xs Max。

 

EOS 80Dから3年半ぶりのモデルチェンジとなるだけに、90Dは斬新な新機能こそないもののあらゆる部分で的確に機能、性能を向上させた1台に仕上がっています。APS-C EOSのフラッグシップ機とされるEOS 7DIIよりも機能・性能は高く(唯一シングルスロットなのがミドルクラスらしい部分)、APS-C EOSの最終型という言い方も宜なるかなと感じます。

ただ、単純にスペックだけなら同社のミラーレス EOS M6 MarkIIの方が連写速度は上(でコンパクトかつ安価)。オリンピックに向けて開発発表されたEOS-1D X Mark IIIは別格としてもミドルクラスではミラーレスの優位性が出てきています。

しかし実際に90Dを構えると、適度なサイズと重さ、深めのグリップによるホールディング性の確かさ、長年かけて最適化されてきた操作ボタンの配置、が高い完成度で実装されていると分かります。
ミラーがある分、(ミラー動作を含む)シャッター音はミラーレスより大きめ。
しかし、その小気味よい音と微かな振動が「撮る」という行為の官能性を実感させてくれます。

カメラは撮影のための「道具」なので、そこに過剰なロマンを求めないようにしていますが、自分の手の延長と感じられる機械に惹かれるのはクルマでもカメラでも同じでしょうか。ただ、その思い入れは幻想かも知れません。若い世代のクルマへの興味が薄れているように、カメラもスマホで十分と考える層にシャッター音がね、と言っても共感を得るのは難しい。さらに動画はもともとミラーを必要としないので、ムービー派のひとにはレフ機への感傷もないでしょう。いや、ホールディング性すら重要ではないかも。手持ちで使うこと、少ないですしね。事実、近年、動画は専用のシネカメラへ移行している傾向が感じられ、11年前ニコンD90に始まる一眼レフによる写真と動画のマルチロール(多用途)機は再びそれぞれ専用機に分かれていく気配。

しかし、とわたしは思うのです。

大きな仕事ならスチルとムービーは別スタッフでもいいでしょう。一方わたしが関わるクラスの仕事だと両方混在する場合も多く、まして趣味では両方を両立させたい。

親指でレバースイッチを切り替えるだけで画角変動(クロップ)のない4K動画にスイッチでき(電子ISオンでは画角変動あり)、同じレンズの画角や被写界深度を活かしたまま写真と動画を撮り分けることができる。このマルチロール的な万能性が一眼動画の魅力であり、フォトグラファーとビデオグラファーの交差する場所だったと考えるわたしには、動画カメラは専用機に・・・という流れが残念なのです。EOS 90Dはスチルとムービーを両立させるEOSの伝統が受け継がれていて素晴らしい。

・・・と手放しで褒められない部分が実はあります。EOS 5D IVやEOS Rでは動画は、オート/絞り優先/シャッター速度優先/マニュアルの4モードがあるのに、90Dや6DIIはオート/マニュアルしかないのです。

上位機と中級機で機能差を付けるのはキヤノンの悪いクセですが、動画の楽しさを知っていくステップとしてオートの次がマニュアルというのは飛躍が過ぎます。動画でも絞り優先でボケをコントロールする面白さを体感しつつ、高度な操作に入っていく、といった成長の導線が用意されていないのはとても残念に思います。ただしマニュアルモードでシャッター速度を固定(1/60〜1/100)しISO感度をオートに設定することで、擬似絞り優先オート的に使えるのは、覚えておいて損はないと思います。

ミラーレスのEVFも進化の著しいデバイスですが、レフ機の光学ファインダーに惹かれる人も多く、わたしもそのひとりで、ミラーレス機も愛用しつつファインダーは光学が良いなあ、などと思う人なのですが、実は90D、ライブビューで撮ると顔認識&瞳AFの精度と速度が素晴らしいのです。さらに90Dで復活したマルチコントローラー1で複数の顔や瞳がある場合、AF対象を直観的にシフトしていける操作感が素晴らしく、せっかく光学ファインダーがあるのについついライブビューで撮ってしまったのは、矛盾ですね。このインターフェイスは動画時も同じです。

レフ機の時代からミラーレス機の時代へ、この大きな流れ自体は変えられないし、ミラーレスによってひらかれる次世代のスチル/ムービーもたくさんあると思います。

そんな時代の境界線に現れたEOS 90Dは長く活躍する名機になりそうです。

3年に渡ったアフターファイブ連載も今回が最終回。ありがとうございました。よければ、続きはブログでお会いしましょう(笑)
https://mono-logue.studio

 

▲ライブビュー時、最高11コマ/秒の連写速度は二桁EOSの頂点とも言える高性能。AF追随性も高い

▲4K動画からカメラ内で任意のコマをJPEG書き出し可能。そのままスマホに無線転送してSNSアップも可能。

▲ハイフレームレート(スローモーション)撮影は、上位機の5D4やEOS Rが120P/HDなのに、90Dは120P/FHDと1DX2同等の性能。REC直前まで瞳AFが動作するがHFR録画中はAFできない。
(モデル 夢子)



▲ライブビュー撮影時の顔認識は複数の顔を捉え、マルチコントローラーで直観的に対象をシフトさせることが出来る。写真2〜3でその方法でフォーカス送りを行っている。(ステージ:恥御殿)

 

◉参考動画

 

ビデオSALON2019年12月号より転載