映画監督・武 正晴の「ご存知だとは思いますが」 第40回『フレンチ・コネクション』


中・高・大と映画に明け暮れた日々。
あの頃、作り手ではなかった自分が
なぜそこまで映画に夢中になれたのか?
作り手になった今、その視点から
忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に
改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。近年の作品には『イン・ザ・ヒーロー』『百円の恋』がある。2017年秋に最新作『リングサイド・ストーリー』、2018年に『嘘八百』が公開。2018年11月より『』が公開予定。

第40回『フレンチ・コネクション

イラスト●死後くん
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フランスとアメリカを結ぶ麻薬密売ルート“フレンチ・コネクション”。その捜査に関わった実在の刑事の実績を元に作られた原作小説を脚色した刑事ドラマ。1972年のアカデミー賞では作品・監督・脚色・編集賞に加え、主演男優賞の5冠に輝いた。

原題 The French Connection
製作年 1971年
製作国 アメリカ
上映時間 104分
アスペクト比 ビスタ
監督 ウィリアム・フリードキン
脚本 アーネスト・タイディマン
製作 フィリップ・ダントーニ
撮影 オーウェン・ロイズマン
編集 ジェリー・グリーンバーグ
音楽 ドン・エリス
出演 ジーン・ハックマン
        ロイ・シャイダー
        フェルナンド・レイ
        トニー・ロビアンコ
   フレデリック・ド・パスカル他
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7月7日にクランクイン予定の作品のロケハンに追われてる毎日だ。ワールドカップの日本選手の奮闘などと例年より早すぎる梅雨明けなどで既に夏バテ状態だ。指名手配の容疑者の顔を覚え、街中に佇み、顔を探す、なんとも奇妙な職能の警察官達を描く予定だ。顔を見つけ、尾行して、逮捕に繋げる。実にタフな気の遠くなる忍耐仕事だ。

現代映画からは 生まれ得ない主人公

1977年の4月15日、小学4年生の僕は『フレンチ・コネクション』をゴールデン洋画劇場のテレビ放映で見ている。無茶苦茶怖く、面白かった『エクソシスト』の監督ウイリアム・フリードキン作品だったのと、僕の父親が「今日はポパイの映画があるぞ」と言っていたので見た。 

マンガの『ポパイ・ザ・セーラーマン』ではなく、「ポパイ」と渾名されている、いかつい刑事が主人公の映画だった。サンタクロースの格好をしたジーン・ハックマンと露店ホット・ドック売りの格好をしたロイ・シャイダーが黒人容疑者をブルックリンの路上を追っかけ回す登場シーンがおかしかった。

本作は実際のニューヨーク市警のエドワード・イーガンとサルバドール・グレッソが体験した麻薬密輸事件がモデルとなっていて2人が映画のアドバイザーとして協力している。

ジーン・ハックマンが事前に仕込んだ2人から聞いたネタをアドリブセリフで披露する。「お前、足の指の間をこすっただろう!」と黒人チンピラに訳のわからない尋問を強要してブン殴り、認めさせると「お前を足の指の間をこすった容疑で逮捕する」というアドリブにロイ・シャイダーが思わず噴き出しているのが見てとれる。コンプライアンスの問題で規制されている現代映画からは生まれ得ない傑作、主人公ポパイ刑事。ジーン・ハックマンは41歳で“ポパイ”ジミー・ドイル役で主演男優のオスカーをゲットしている。

麻薬グループと刑事の対比を描いたシーンは秀逸

トルコからフランスのマルセイユ経由でニューヨークに密輸されるヘロインのルート、“フレンチ・コネクション“。マルセイユの大元締め、“ヒゲのシャルニエ“がブルックリンでのマフィアとのヘロイン取引のために入国する。協力者のフランス映画プロデューサーのセダンに忍ばせてヘロイン40kgを船で持ち込む。

ヒゲの尻尾を掴もうと連日、張り込み、尾行を続ける、ポパイと相棒の”クラウディ“バディ・ルソー(ロイ・シャイダー)の日常が生々しく描かれていく。豪華ホテルに泊まり、高級レストランで宜しくフルコースをパクつくマルセイユ、ヒゲグループ。それを眺めながらレストラン対岸のブルックリンの刑事コンビは寒さに震えたまま、冷めたピザをかじり、クソ不味いコーヒーを啜る。秀逸な名場面だ。苦みばしったジーン・ハックマンの名演に拍手だ。

尾行シーンの撮影・編集は 今見ても斬新で勉強になる

ニューヨークのストリートを刑事達がヒゲを尾行する場面。撮影、編集は今見ても斬新で勉強になる。ブルックリンの冬の風景は終始憂鬱なルックに支配されている。薄汚い70年代のブルックリンの記録。今や大変貌を遂げているのだろうか? 行ったことないから知る由もない。

撮影は名匠、オーウェン・ロイズマン。フリードキン監督とは『エクソシスト』でも凄かった。ヒゲが巧みに尾行を巻き、執拗に追いかけていくポパイのリズム、編集が見事だ。地下鉄でポパイがヒゲにまんまと尾行を巻かれる場面は映画史上最も痛快な名場面のひとつだろう。

もう一つの名場面はヒゲの片腕、ハゲ頭の殺し屋ニコリとのチェイス場面だ。ブルックリンの高架線を行く電車で逃げたハゲ頭を、高架下を車で追って行く、前代未聞の名場面。ジーン・ハックマン自らも運転しながらの狂気の撮影シーン。DVDの特典メニューのフリードキン監督によるオーディオコメンタリーが傑作なのだ。お時間あればぜひとも。

『エクソシスト』で逃した オスカー監督賞を本作でゲット

高架下を爆走するカメラカーの車上にスピーカーを設置して、車内のフリードキンがマイクで怒鳴りながら撮影したそうだ。「危ないぞ! どけどけ!」てなことだったのか? 『エクソシスト』は恐ろしい場面の連続だったが、一番の恐怖はフリードキン監督の存在そのものだったそうだ。

狂気の監督は『エクソシスト』で逃した監督賞のオスカーを本作品でゲットした。狂気のフリードキンの映像を編集のジェラルド・B・グリーンバーグが見事にさばき、編集賞のオスカーをゲット。この人の『サブウェイ・パニック』の仕事ぶりも『フレンチ・コネクション』に通じるものがあり、地下鉄映画の名匠だ。

ラスト5分は凄まじい

映画の終盤、強迫観念にも近い、ポパイ刑事の執念が凄い。フランス映画プロデューサーの車の解体場面が凄い。ヘロインのありかを探すための解体ショー。『カンバセーション盗聴』のラストシーンに繋がるハックマン狂気の熱演。ヒゲグループを追い込んで行くポパイ達。

この映画のラスト5分は凄まじい。ポパイ刑事の狂気は、創り手のフリードキンの狂気か。ラストカットには唖然呆然だった。日本の刑事ドラマでは絶対に描かれることのない結末に震えた。次週のゴールデン洋画劇場で放映された『フレンチ・コネクション2』が待ち遠しかった。

この予定されていなかった続編も凄まじい。ポパイがいよいよマルセイユに乗り込むのだ。監督は職人、ジョン・フランケンハイマー監督。続いての狂気の監督登壇だ。またしてもコンプライアンス優先の現代映画では描くことのできない、予測予断ならない作品だった。こちらのラストも凄い。思わず声が出た。

ヒゲとポパイの物語が、僕に映画を創ることを諦めさせない

2020年開催のオリンピックの影響もあるのか東京での撮影許可がでない場所が日に日に地図上で増えていく。コンプライアンスの問題もあり、今の僕達には『フレンチ・コネクション』のような映画を創ることは不可能だろう。

しかしながらフリードキンとフランケンハイマーが残してくれた、ヒゲとポパイの物語が僕に絶対映画を創ることを諦めさせないのだ。僕はロケハン中のバスの車窓から、建設中のビル群が乱立し、ますます狭くなる東京の空をしばらく眺めていた。

ビデオSALON2018年8月号より転載