映画監督・武 正晴の「ご存知だとは思いますが」 第41回『ストリート・オブ・ファイヤー』


中・高・大と映画に明け暮れた日々。
あの頃、作り手ではなかった自分が
なぜそこまで映画に夢中になれたのか?
作り手になった今、その視点から
忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に
改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。近年の作品には『イン・ザ・ヒーロー』『百円の恋』がある。2017年秋に『リングサイド・ストーリー』、2018年1月に『嘘八百』、11月17日より『』が公開。

第41回『ストリート・オブ・ファイヤー

イラスト●死後くん
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硬派なアクション監督として知られるウォルター・ヒルが監督を手がける。1984年の公開当時、“現代版西部劇”、“人が一人も死なないアクション映画”ということで、アメリカよりも日本で熱狂的な人気を博した。ライ・クーダーの手がける楽曲の評価も高い。

原題 Streets of Fire
製作年 1984年
製作国 アメリカ
上映時間 93分
アスペクト比 ビスタ
監督 ウォルター・ヒル
脚本 ウォルター・ヒル
   ラリー・グロス
製作 ローレンス・ゴードン
   ジョエル・シルバー
撮影 アンドリュー・ラズロ
編集 フリーマン・デイヴィス
音楽 ライ・クーダー
出演 マイケル・パレ
   ダイアン・レイン
        ウィレム・デフォー他
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7月21日から映画『ストリート・オブ・ファイヤー』デジタルリマスター版の上映が始まっている。猛暑酷暑の中、連日の刑事劇を撮影中の僕は34年ぶりの上映を観に行く術もないが…。

人生で2番目にひどい 暗黒時代を映画が救ってくれた

34年前、僕は高校2年生で、人生で2番目に酷い暗黒時代にいた。1984年といえば、『ナチュラル』『ライトスタッフ』『アマデウス』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』などの映画に僕は救われた。映画は確実に人を救う。間違いない。

夏休みに友人と人魚映画『スプラッシュ』を目当てに名古屋駅前の劇場に行ったのだが時間が合わず、隣の名鉄東宝という劇場でダイアン・レイン主演の『ストリート・オブ・ファイヤー』を観た。

『がんばれ ! ベアーズ』でテイタム・オニール、『タクシードライバー』でジョディー・フォスターにやられてしまっていた僕は『リトル・ロマンス』という映画で14歳のダイアン・レインと出会い、イカレてしまっていた。僕の2年先輩のダイアン・レインが、4年後にはロックンロールの歌姫となって、スクリーンに光臨した。全くノーマークの映画との奇跡の邂逅に僕と友人は歓喜に包まれた。幸福の93分だった。

 

オープニングから圧倒される

 “ロックンロールの寓話”、“いつか、どこかの場所”とクレジットされ、この映画は始まる。監督は『ウォーリアーズ』で僕らボンクラ少年のハートを掴んだ不良映画の名職人ウォルター・ヒル。名場面『ウォリアーズ』のオープニングを彷彿させる映画の冒頭から引き込まれる。

 架空の街、リッチモンドの地元凱旋ライブでステージに上がるロックの歌姫エレン・ハイム(ダイアン・レイン)。オープニング曲『Nowhere fast』のステージ場面から圧倒される。「どこまでも駆け抜けろ」とご機嫌なナンバーを歌い終えるとともに、ストリートギャングのボンバーズが歌姫をかっさらう。

 

B級はB級でも超一流のB級

50年代のアメリカをモチーフとした架空の現代。この歌姫を救うべき、歌姫の元彼、トム・コーディ(マイケル・パレ)が電報を受け、街に帰って来る。サスペンダーがよく似合うアウトローの帰還。構成は完全に西部劇だ。悪党にヒロインをさらわれて、ヒーローが腐敗した街に還って来る。保安官も(警察も悪党達の言いなりだ)。仲間達と悪党のアジトに乗り込み歌姫を奪還。そして悪党のボスとの一騎打ち。ストーリーは完全なるB級映画。

ところが、名職人ウォルター・ヒル監督一家の手にかかれば、超一流B級映画になる。この仕事振りに溜息が出てしまう。ダイアン・レインのステージ衣装にジョルジオ・アルマーニが参戦。

ハンガリー出身の撮影監督アンドリュー・ラズロは『ウォーリアーズ』同様に夜のストリート、地下鉄を圧巻のルックで捉えている。

特筆すべきはオープニングとラストの2つのエレン・ハイムのステージシーンだ。その撮影は今見ても震えるし、僕はいつになったらこんな場面を撮れるのかと畏怖してしまう。この場面が観たいがために、僕は次の週にも1人劇場に駆け込んだ。

 

1年後、級友たちと視聴覚室に忍び込み上映した

1年後、高校の自習時間に『ストリート・オブ・ファイヤー』のVHSビデオを級友たちと視聴覚室に忍び込み上映した。ステージシーンを皆喜んでくれたのが、嬉しかった。劇伴に使われたライ・クーダーのギターがクールだった。ライが参戦した『パリ・テキサス』も1984年作品だった。『ストリート・オブ・ファイヤー』のサントラはカセットテープが擦り切れるくらい聞きまくった。

 

当時無名だった俳優が大活躍

ダイアン以外は無名の俳優達が大活躍だ。マイケル・パレはB級映画の主役として活躍を続けるが、やはり本作のトム・コーディは永遠だ。変てこリーゼント頭のボンバーズのボス、レイヴェン役のウィレム・デフォーは、今作が出世作となった。色白の気色の悪いボス役は秀逸で、その後の『プラトーン』のエリアス軍曹役でオスカーをゲットし、今や世界中の名監督から引っ張りだこだ。特にウェス・アンダーソン監督との仕事の数々は実に楽しそうだ。

エレン・ハイムのマネージャー役のリック・モラニスは『ゴーストバスターズ』『ミクロキッズ』『リトル ショップ・オブ・ホラーズ』で人気者になった実力者。男勝りの女兵士役マッコイは僕の1番のお気に入りだ。トム・コーディの相棒としてエレン・ハイム奪還でボンバーズのアジトに殴り込みをかける頼れる姐御。「銃を向ける時は撃つ時」と名台詞を演じたエイミー・マディガンは、あの名優エド・ハリスの奥さんだ。

『フィールド・オブ・ドリームス』でトウモロコシ畑を野球場に変えてしまうケビン・コスナーの理解ある奥さん役で再会した時に、この人の役の幅広さに感心した。当初マッコイ役はメキシコ人男性の設定だったそうだが、彼女の存在が役設定を変えた。エレンとトムとの微妙な三角関係も生じて大成功だ。

もちろんウォルター・ヒル監督はラストにマッコイのために粋な場面を用意してくれている。僕はこの作品以降、ウォルター・ヒルの名前で映画を観に行くようになった。

 

あらゆるテクニックを駆使したラストシーン

エレンの歌う『Tonight is What it Means To be Young 』という曲と共に映画は終焉を迎える。「若さを証明するのは今夜だ」と熱唱するエレンの視線が客席のトムを捉える瞬間僕の身体が震えた。撮影、照明、美術、衣装、音楽、編集のあらゆるテクニックを駆使したステージシーン。ウォルター・ヒル監督の手腕が凄い。 大団円とはこういうことだ。

撮影当時18歳のダイアン・レインのエレンはエンジェルだ。闇の中にいるからこそ光が見える。17歳の僕はこの年人生で2番目に多くの数の映画を映画館で観た。

あれから34年、いまだに上映を求められる幸福な映画。8月一杯、僕は猛暑酷暑の中、仲間達と幸せな撮影が続く。9月になって少し涼しくなったら撮影も終わる。少し寂しくなってしまう頃に『ストリート・オブ・ファイヤー』を観に行こう。それまで上映が続いてくれてるといいなと願うばかりだ。

ビデオSALON2018年9月号より転載