映画監督・武 正晴の「ご存知だとは思いますが」 第44回『ロンゲスト・ヤード』


中・高・大と映画に明け暮れた日々。
あの頃、作り手ではなかった自分が
なぜそこまで映画に夢中になれたのか?
作り手になった今、その視点から
忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に
改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。近年の作品には『イン・ザ・ヒーロー』『百円の恋』がある。2017年秋に『リングサイド・ストーリー』、2018年1月に『嘘八百』、11月17日より『』が公開。

第44回『ロンゲスト・ヤード』

イラスト●死後くん
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ポール・クルーは八百長問題で引退することになったアメリカンフットボールの花形選手。車を強奪した罪で刑務所へ。刑務所では、アメフトチームの育成に執念を燃やす所長と戦いを繰り広げることに…。第32回ゴールデングローブ賞作品賞受賞。

原題 The Longest Yard
製作年 1974年
製作国 アメリカ
上映時間 122分
アスペクト比 ビスタ
監督 ロバート・アルドリッチ
脚本 トレイシー・キーナン・ウィン
制作 アルバート・S・ラディ
撮影 ジョセフ・F・バイロック
編集 マイケル・ルチアーノ
音楽 デイヴ・グルーシン
出演 バート・レイノルズ
   エディ・アルバート
   エド・ローター
   マイケル・コンラッド
   ジム・ハンプトン他

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9月6日、バート・レイノルズの訃報が飛び込んできた。酷暑の刑事劇の撮影を終え、次回作の1980年代エロゴト師達の群像劇に向けて『ブギーナイツ』を見直していたところだった。僕は小、中、高校とバート・レイノルズを見ながら育った。『トランザム7000』シリーズ、『グレート・スタントマン』は小、中学で『シャーキーズ・マシーン』は高校生で。オープニングの空撮のカッコ良さは今だに夢に出てくる。『キャノンボール』はバート・レイノルズとジャッキー・チェンが出ているだけで劇場に駆けつけた。大学時代に名画座で観た『脱出』は心底恐ろしい映画だった。女に迎合しない女にモテる男の中の男。コミカルな茶目っ気たっぷりの駄目男。僕の目標だったが、遠く及ばず、諦めた。

 

男だらけの男臭い映画が 観たければアルドリッチに限る

バート・レイノルズ出演作品で最も繰り返し観ているのが『ロンゲスト・ヤード』だ。中学三年の時に「日曜洋画劇場」で見たのが最初だった。僕はこの映画でロバート・アルドリッチ監督の名前を意識した。あの『カリフォルニア・ドールズ』の監督だったのかと合点がいった。『攻撃』『飛べ! フェニックス』『北国の帝王』『特攻大作戦』『クワイヤボーイズ』と今まで見てきた大好きな作品は皆この監督作品だった。男だらけの男臭い映画、俳優が観たければ、アルドリッチに限る。

 

かつてのNFLスーパースターの転落から映画は始まる

アメリカンフットボールの“スーパースター”ポール・クルー(バート・レイノルズ)は八百長疑惑でNFLから追放され今やヒモ生活。すけべな金持ち女の豪邸のベットルームからこの映画は始まる。酒浸りのスーパースターは女に別れ話を切り出し、女を床に叩きつけ、手切れ金がわりに高級車をかっぱらって豪邸から、ヒモ生活からの逃走を図る。女の通報を受けたパトカー軍団との猛烈なカーチェイスの末ポリスに囲まれあえなく御用。懲役3年の判決を受けテキサスの刑務所にやってくる。映画が始まり僅か十数分、ここからラストまで刑務所内のお話だ。

 

刑務所でアメフトチームを コーチすることに

万年2位の刑務所看守によるセミプロのアメリカンフットボールチームを優勝させるべくコーチしろと、刑務所の独裁者へイズン所長(エディ・アルバート)に頼まれる。交換条件として減刑を姑息にちらつかせる。エディ・アルバートはアルドリッチ監督の『攻撃』で無能なクーニー大尉を演じていた人。この映画での敵役は、この所長であるとはっきりわかる。サディスティックなクナウナア看守長(エド・ローター)はフットボール看守チームの主将。所長の依頼を断るようにポール・クルーを痛めつける。『荒野の七人』や『夕陽の群盗』などのアウトローの名脇役のエド・ローターをアルドリッチ監督は大抜擢し、エド・ローターもそれに応えて、映画史に名を残した。

ヘイズン所長と看守長との板挟みで、刑務所内で理不尽な仕打ちを受ける“スーパースター”。所長から囚人達のアメフトチームを作り、練習相手、噛ませ犬的なチームを作るように持ちかけられ、条件を呑まないと懲役を増やすと脅される。そうして集められた素人のアウトロー達が個性的で素晴らしい。死刑囚の兵隊達を集めて、ナチスドイツの敵陣に殴り込みをかける『特攻大作戦』ばりの展開が痛快だ。

巨人“サムソン”役のリチャード・キールは『007』シリーズの“ジョーズ”役でお馴染みだったし、悪人顔の名脇役大集合の囚人チーム“ミーン マシーン”が結成される。“ミーン マシーン”とはスラングで、“男のいちもつ”とか“ゲスども”、“ドブネズミ野郎“などの意味があるとのこと。字幕では”殺人戦車“なんて訳していたけど、日本の事なかれ主義には呆れるばかりだ。

 

特筆すべきは38分に及ぶ アメフトの試合シーン

看守達をぶちのめせるとのことで囚人チームの結束は固い。一方、サディスティック集団の看守達も手強いセミプロフットボーラーだ。この映画で特筆すべきは38分間にわたるアメフトの試合シーンだ。38分といえば122分の作品の1/3に及ぶ。アメフトのルールがわからなくても楽しめるスリリングな展開。主人公ポール・クルーの葛藤と熱烈ぶり、登場人物を敵味方共に主要人物を回収していく手腕はアルドリッチ監督の独壇場だ。

アルドリッチ監督の盟友であり撮影監督のジョセフ・F・バイロックの職人ぶりがすごい。白熱の試合シーンは、本物のアメフト中継をも凌駕する。バイロックは、同じ年の1974年に『タワーリング・インフェルノ』でオスカーの撮影賞をゲットする。

同じくアルドリッチの盟友である編集のマイケル・ルチアーノの分割画面、スローモーション、ストップモーションのはさみの入れ方は僕の参考書だ。アカデミー編集賞にノミネーションされるも『タワーリング・インフェルノ』に譲る形となった。

スーパースターに返り咲く

刑務所の支配者に君臨し続けようとするへイズン所長からの圧力に試合を投げ出しそうになるポール・クルー。クリフハンガー(崖っぷち)から“スーパスター”に返り咲くラスト20分を観てほしい。かつて所長をぶん殴ったことで30年間、刑務所から出られずにいる老囚人の一言がポール・クルーの名台詞を生み出した。ポール「所長をぶん殴ったことを後悔してないか?」ジジイ「後悔なんかするわけないだろう」ポール「Give me my goddamn shoe. (靴持ってこい!)」いつも僕はこの場面で涙ぐんでしまう。

 

モンゴルロケに旅立つ前に 勇気をもらえた

6年前、拙作『モンゴル野球青春記〜バクシャー〜』の撮影でモンゴルに出発する前日、日比谷のスカラ座で『ロンゲスト・ヤード』の上映があり、駆け込んだ。勇気をもらって出発できた。あのスーパースターのタッチダウンを瞼の裏側に焼き付け、僕は劇場を後にし、モンゴルへと出立した。

 

●ビデオSALON2018年11月号より転載