映画監督・武 正晴の「ご存知だとは思いますが」 第55回『イージー★ライダー』


中・高・大と映画に明け暮れた日々。あの頃、作り手ではなかった自分がなぜそこまで映画に夢中になれたのか? 作り手になった今、その視点から忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。最近の作品には『百円の恋』『リングサイド・ストーリー』、『嘘八百』、『銃』、『きばいやんせ! 私』がある。現在、NETFLIXでオリジナルシリーズ『全裸監督』が公開中。

 

第55回『イージー★ライダー』

 

イラスト●死後くん

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原題: Easy Rider
製作年 :1969年
製作国:アメリカ
上映時間 :94分
アスペクト比 :スタンダード
監督:デニス・ホッパー
脚本:デニス・ホッパー/ ピーター・フォンダ/テリー・サザーン
製作:ピーター・フォンダ
撮影 :ラズロ・コヴァックス
編集 :ドン・キャンバーン
音楽 :ザ・バーズ
出演 :ーター・フォンダ/デニス・ホッパー/ジャック・ニコルソン他

メキシコでのコカイン売買で大金を手にしたヒッピー2人組のオートバイ放浪旅。ドラッグ・カルチャーや反体制など1960年代当時のアメリカならではのテーマを込めたアメリカン・ニューシネマの代表作。

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8月16日、俳優のピーター・フォンダがこの世を去った。79歳。アメリカンニューシネマの象徴、『イージー★ライダー』の“キャプテン・アメリカ”役で名を残した。ヘンリー・フォンダの息子、ジェーン・フォンダの弟、ブリジット・フォンダの親父ではなく、アメリカンニューシネマの旗手として世界中に訃報が伝わったのが誇らしかった。

高校2年生の時、この映画を 観られたことは幸せだった

僕が『イージー・ライダー』を最初に観たのが高校2年生の時だった。名古屋のシネマテークだった。高校2年の時にこの映画を観られたことは幸せだった。

映画の冒頭、素性のわからない、長髪の2人組がスペイン語でコカインの密輸のやりとりをしている。ピーター・フォンダとデニス・ホッパーだ。スペイン語で巧みにメキシカン達からゲットしたコカインをロサンゼルス国際空港近くで、売りさばく。フィル・スペクターが扮する、リッチなドラッグの取引相手が秀逸だ。噂では撮影に本物のマリファナを使ったとかで、コカインはさてどうなのかと疑ってしまうが…。フィル・スペクターのコカイン吸引の場面があまりに堂に入りすぎていて、毎回笑ってしまう。現在は薬物中毒治療施設に収監中の音楽プロデューサーの存在感がすごい。

 

クレジットも演出だと知った オープニングシーン

本作では主演のピーター・フォンダがプロデューサーと脚本。デニス・ホッパーが監督を務めている。オープニングでは、稼いだ大金をバイクのガソリンタンクに隠して、自由を求めてチョッパー・バイクの2人が出立する。このオープニングシーンに17歳の僕は痺れた。

出立の時、ピーターこと“キャプテン・アメリカ”が時計を捨てる。僕はこの場面を観て以来、時計をすることをやめて現在に至る(助監督時代には仕事柄せざるを得ない時もあったが…)。

2台のバイクが荒野の道へと去っていく。エンジン音が遠ざかる。制作会社のクレジットがインポーズされる。一瞬の静寂。カットが変わり、「Born To Be Wild」が鳴り響く。そしてピーター・フォンダ、デニス・ホッパーのクレジット。

カリフォルニア・コロラド川の鉄橋を疾走するチョッパー・バイクの並走に『イージー★ライダー』のタイトルクレジット。すべてが完璧だ。時代が、17歳の僕の中の何かが変わった瞬間。スタンダードサイズの画面に、オープニングクレジットが的確にクレジットされていく心地よさ。クレジットも演出だということを知った。

撮影はハンガリー動乱の記録フィルムを抱えたまま、アメリカに亡命して来たハンガリー人、ラズロ・コバックス。『ファイブ・イージー・ピーセス』『ペーパームーン』『未知との遭遇』での仕事ぶりが素晴らしい。

 

自由と偏見

カリフォルニアからマイアミを目指した自由(freedom)への疾走ロードムービー。Freedomとは束縛からの自由との意味だということを後に僕は知った。2人のイージーなライダーの行く先々はヒッピー村やナボハ族の廃墟での野宿生活だ。モーテルでは宿泊拒否される。髪が長いバイカーにとってアメリカは自由の土地ではなかった。

 

ヘラ顔全開、我らがジャック・ニコルソンの登場

マリファナ、LSDを決めて憂さ晴らし。ニューメキシコの田舎町のお祭りのパレードにバイクで勝手に参加した2人は警察にいちゃもんつけられて、拘置所にぶちこまれる。

ここで登場するのが先に拘置所にぶちこまれていた酔いどれ弁護士ハンセンだ。我らがジャック・ニコルソンがヘラ顔全開で登場する。ジャック・ニコルソンは、この役で助演男優賞でオスカー初ノミネート。これ以降大躍進を遂げるのは、映画史の常識。

酔いどれ弁護士のおかげで拘置所をめでたく出所したライダー達と合流してニューオリンズの謝肉祭を見に行こうと、アメリカンフットボールのヘルメットをかぶって出立する。

奇妙な弁護士ハンセンは「アメリカ人は自由を証明するためなら殺人も平気だ。個人の自由ならいくらでも喋るが、自由な奴らを見るのが怖いんだ」という言葉通り、ルイジアナ州の住民に野宿の寝込みを襲われ袋叩きにされ、ぶち殺される。

ハンセンの行きたがっていた娼館を訪ねる2人のライダー。娼婦役にニューシネマの代表女優、今は亡きカレン・ブラックが。『ファイブ・イージー・ピーセス』のジャック・ニコルソンの恋人ウェイトレス役は忘れられない。

 

オープニングとは対象的な ラストシーンに慄いた

殺伐としたアメリカを知った2人のライダーは、気晴らしに一路マイアミを目指して出立する。残念ながら彼らがマイアミを疾走するラストシーンは用意されてはいなかった。髪が長いというだけで。アメリカでは人が殺されるのかと僕はこの映画のラストシーンに慄いた。

ミシシッピー川を捉えて行くラストの空撮が、オープニングのコロラド川と対照的で忘れることができない。2人のイージーなライダー役を演じた、ピーター・フォンダ、デニス・ホッパーは、その後も誰もができないような役を演じ、爪痕を残し、2人ともこの世からいなくなってしまった。

ジャック・ニコルソンも俳優から引退したという。あのヘラ顔が愛おしい。アメリカンニューシネマを席巻した俳優、監督達も随分減って寂しい限りだ。

 

ロサンゼルスの映画祭で 『銃』上映後に

8月18日、ロサンゼルスの映画祭で拙作『銃』という映画が上映された。大学生の青年が銃を拾ってしまう数奇な悲劇だ。観てくれたアメリカ人のお客様から「すべてのアメリカ人が今見るべき映画だった。あなたに影響を与えた映画は何?」という質問をいただき、「アメリカンニューシネマの映画だと思う」と答えた。高校2年の時に『イージー★ライダー』を観ることができた幸運を改めて感じ、17歳の時の自分に感謝したい気持ちが湧いた。

 

ビデオSALON2019年10月号より転載