映画監督・武 正晴の「ご存知だとは思いますが」 第74回 ゲッタウェイ


中・高・大と映画に明け暮れた日々。あの頃、作り手ではなかった自分がなぜそこまで映画に夢中になれたのか? 作り手になった今、その視点から忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。最近の作品には『百円の恋』『リングサイド・ストーリー』、『銃』、『銃2020』、『ホテルローヤル』等がある。現在、NETFLIXでオリジナルシリーズ『全裸監督』が公開中(『全裸監督』シーズン2も制作中)。ABEMAと東映ビデオの共同制作による『アンダードッグ』が2020年11月27日より公開され、ABEMAプレミアムでのドラマ配信もスタート。

 

第74回 ゲッタウェイ

イラスト●死後くん

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原題:The Getaway
製作年 :1972年
製作国:アメリカ
上映時間 :122分
アスペクト比 :シネスコ
監督:サム・ペキンパー
脚本:シルヴェスター・スタローン
原作:ジム・トンプスン
制作:デヴィッド・フォスター/ミッチェル・ブロウアー
撮影:ルシアン・バラード
編集 :ロバート・L・ウォルフ
音楽 :クインシー・ジョーンズ
出演 :スティーブ・マックイーン/アリ・マッグロー/ベン・ジョンソン/サリー・ストラザース/アル・レッティエリほか

刑務所を裏取引で出所したドク・マッコイは、それと引き換えに街の有力者ベニヨンの要求で妻キャロルと共に銀行強盗に手を染める。企ては何とか成功するが、少しずつ計画は破綻し始め、ドクはキャロルと共に逃走を余儀なくされる…。

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15年ぶりに短編映画を撮影した。僕のデビュー作は短編だった。原点回帰と挑んだ。勝手知ったるクルー、キャスト達との数日間は実に素晴らしいものであった。感謝します。女囚が刑務所から出所する。盟友、足立 紳さんが10年前に書いたシナリオでクランクインした。ふたりで『グロリア』とか『ゲッタウェイ』のような活劇が創れないものかと勝手気儘に模索していた10年前であった。

僕がサム・ペキンパーの『ゲッタウェイ』を初めて観たのは1982年10月「日曜洋画劇場」のテレビ放映で、中3の時だった。ペキンパー監督作品を最初に観たのが『コンボイ』で、小6の僕はテーマ曲を口ずさみながら劇場を後にした。その後『ガルシアの首』を「月曜ロードショー」 、 『戦争のはらわた』 「水曜ロードショー」で観て育ってしまった僕は『 ゲッタウェイ 』でペキンパーに征服されてしまう。

 

編集に行き詰まると毎度観てしまう

銀行強盗で10年喰らったテキサスの悪党が、模範囚を決め込み4年目に突然、仮出所を許される。悪党ドク・マッコイに我らがマック、スティーブ・マックイーン。オープニングのタイトルモンタージュが見事で、主人公の状況と内面が台詞なしで描写される。僕は編集に行き詰まると毎度見てしまう。

面会室でヒロイン登場。若女房キャロルを演じるアリ・マッグローが堪らない。出所後、女房との4年ぶりの抱擁と料理に活欲を取り戻したドクは、キャロル共々、早速、銀行強盗の計画だ。ドクが「ベイビー」と女房を呼ぶのがいい。どうやら仮出所できたのは、街の有力者ベニヨンの力。ベニヨン役にベン・ジョンソン。 『ラスト・ショー』のミスター・ライオン役で知ったる顔が嬉しい。テキサスの有力者達のカウボーイハットにスーツ姿が僕には、厳つく、不気味な集団に見えた。田舎町の実力者達はギャングと紙一重の輩達で、演じるペキンパー一家のオヤジ俳優達の底力が凄い。

 

顔を見て、こいつ裏切るな、と。
期待通り、当たり前に裏切る

ベニヨンがドクを仮出所させたのは、銀行強盗を依頼するためだった。ドクに保釈金に当てるように教唆するベニヨン。襲撃犯はドクと雇われた悪党ふたりと若女房の4人。緻密な作戦をリーダードクが練り上げていく。悪党のひとり、殺し屋ルディ役で名を挙げたアル・レッティエリが物凄い。 

僕は顔を見て、こいつ裏切るな、と。期待通り、当たり前に裏切る。金を独り占めしようと、ドクに返り討ちで撃たれるが、しぶとく生き延びる。奪った金は50万ドル、カーラジオから被害額は75万ドルとの発表。ベニヨンが横領を誤魔化すために仕組んだ詐欺強盗だ。もうひとつの理由はドクの若女房を自分の女にしようと企んでいたのだ。真相を知ったドクが若女房との情事をほのめかすベニヨンにコルトガバメントを向けるが、ドクの背後から若女房キャロルの銃弾群がベニヨンの口を永遠に塞ぐ。

 

見事なシナリオにウォルター・ヒルの名が燦然と輝く

こうして、50万ドルを抱えた強盗夫婦の逃避行が始まる。親分を殺されたテキサスの輩軍団と、復讐に燃える殺し屋ルディの追跡が始まる。悪党3組が走り始める。この見事なシナリオにウォルター・ヒルの名が燦然と輝く。『ストリート・オブ・ファイヤー』の名匠監督だ。監督作『ザ・ドライバー』 『ロングライダース』 『ウォリアーズ』の悪党集団のキャラクター造形は、素晴らしく、確かだ。音楽にクインシー・ジョーンズ『夜の大捜査線』 『冷血』同様のジャズ劇伴が最高だ。この座組は1970年代最高の組み合わせではないのか。

 

ペキンパー一家の俳優達が確かな配置で揺るぎない

悪党達の目指す場所は、エルパソ。テキサス最西部の街、メキシコとの国境の街。スペイン語で「峠」の意。エルパソを僕はこの映画で知った。以降様々な映画で悪党達がこの街を目指すのを観ている。殺し屋ルディは道中、獣医を脅し怪我の手当をさせる。獣医の妻を寝取って、エルパソに向かう。可哀想な獣医ハロルド役のジャック・ダドスンがいい。バカ妻フラン役のサリー・ストラーザスもいい。駅でドク達の現金バックをくすねるコインロッカー詐欺師役のリチャード・ブライトもいい。 『ゴットファーザー』のラストシーンを締めくくるヒットマンで名を挙げた。兄貴の死体を「古井戸にでも放り込んどけ」と無表情で言い放つ、経理士と渾名されるベニヨンの弟役ジョン・ブライソンも最高に気色悪い。エルパソの安宿のオヤジ役、ダブ・テイラーもいい。ドクのショット・ガンでホテルが粉砕されていくときの親父のリアクションがいい。

とにかく細かい役までペキンパー一家の俳優達が確かな配置で揺るぎない。そして大トリにスリム・ピケンズの登場だ。キューブリックの『博士の異常な愛情』で水爆をロデオのように乗りこなした、キングコング少佐役は映画史だ。メキシコに逃亡する強盗夫婦にボロ車を売り渡す、屑屋のおやじ役がカウボーイとクレジットされているのが、ペキンパーのリスペクトで嬉しい。

 

マックイーンがアドリブで引っ叩く即興芝居も映画史だ

ラストを締めくくるスリム・ピケンズとマックイーン、アリ・マッグローの三人の芝居が傑作で可笑しい。カウボーイ・ピケンズが「奥さん」とアリ・マッグローに言うのが実にいい。実際にマックとアリは撮影中に婚約している。不貞を犯した若女房をしばき倒す場面がある。マックイーンがアドリブで引っ叩くのだ。今の時代なら事件になる。この即興芝居も映画史だ。追手から逃れ、ゴミ清掃車に身を隠す強盗夫婦。ゴミの島に放り出されるスローモーション撮影が素晴らしく胸を打つ。別離の危機を乗り越えて、彼らがゴミの島を寄り添い歩く場面が素敵で、俳優ふたりに僕は喝采した。

ボロ車がメキシコ国境を目指す。カメラはもう強盗夫婦を写してくれなかった。素晴らしい一本道に車影が消えていく。 『モダンタイムス』 『ペーパームーン』 『誓いの休暇』いずれもラストシーンは素晴らしい一本道だった。その道先は決していい事ばかりではないだろう。それでも前を向いて走れ。そんな映画を撮ってみたいと、僕はいつも素晴らしい一本道を探している。

 

VIDEO SALON2021年5月号より転載