映画監督・武 正晴の「ご存知だとは思いますが」 第85回 ゴッドファーザー


中・高・大と映画に明け暮れた日々。あの頃、作り手ではなかった自分がなぜそこまで映画に夢中になれたのか? 作り手になった今、その視点から忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。最近の作品には『百円の恋』『リングサイド・ストーリー』、『銃』、『銃2020』、『ホテルローヤル』等がある。ABEMAと東映ビデオの共同制作による『アンダードッグ』が2020年11月27日より公開され、ABEMAプレミアムでも配信中。現在、NETFLIXでオリジナルシリーズ『全裸監督』シーズン2が配信中。

 

第85回 ゴッドファーザー

イラスト●死後くん

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原題: The Godfather
製作年 :1972年
製作国:アメリカ
上映時間 :175分
アスペクト比 :ビスタ
監督:フランシス・フォード・コッポラ
脚本:マリオ・プーゾ
製作:アルバート・S・ラデ/ロバート・エヴァンス
撮影 :ゴードン・ウィリス
編集 :ピーター・ツィンナー/ウィリアム・レイノルズ
音楽 :ニーノ・ロータ
出演 :マーロン・ブランド/アル・パチーノ/ロバート・デュヴァル/アンディ・ガル シア/ジェームズ・カーンほか

1945年、終戦直後のニューヨーク。イタリア系マフィアのコルレオーネ家は裏社会で最大の勢力を誇っていた。三男のマイケルはひとり堅気な人生を送ろうとしていたが、父が敵対するファミリーによって銃撃され重傷を負ったことがきっかとなり、徐々に組織の活動に足を踏み入れていく。

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50周年を記念して『ゴッドファーザー』が日比谷と大阪梅田で1日限定で上映された。あっという間のチケット完売で僕は辿り着けなかった。せめて1週間ぐらいやってほしかったが。

50年前、5歳の僕はもちろんロードショーで観てはいない。最初に『ゴッドファーザー』を観たのは1976年の「水曜ロードショー」の10月13日、 20日の2週にわたるテレビ放映でだ。眠い目を擦りながら必死に見たことを覚えている。小学3年の時だった。強烈だったのは1980年の10月22日から4週にわたっての『ゴッドファーザー』と『ゴッドファーザーPARTⅡ』の放送を家族で見たことは幸せな思い出だ。コルレオーネ一家の年代記に中学1年の僕はスッカリやられてしまった。「水曜ロードショー」恐るべし。以来、何度観ているのだろうか。

 

完成度の高さに打ちのめされた

初めてスクリーンで観たのが東京に出てきた19の時で、文芸坐のスクリーンだった。VHSのビデオで、DVDで、発売の度に繰り返し観た。2004年、銀座東劇でのデジタルリマスター上映に助監督時代の僕は圧倒され、全てのカットの完成度の高さに打ちのめされた。少年時代のように観てはいられない。

マリオ・プーゾのベストセラー原作をパラマウントが買い取り、監督に大抜擢したのが32歳の新鋭、フランシス・フォード・コッポラだ。ロジャー・コーマンの元で低予算映画の秀作を撮っていたコッポラ。『パットン大戦車軍団』でアカデミー脚本賞をゲットしてイケイケ状態だった。パットン将軍の歴史的演説シーンは映画の冒頭、強烈苛烈で、アメリカ国旗を背にしたジョージ・C・スコットの狂気の長台詞でほぼオスカーが決まったようなものだ。

オファーをもらったコッポラは当時別の映画を企画していて(『カンバセーション…盗聴…』)マフィアの映画を撮るのは嫌だと断ったという。家族の映画なら何とか撮れるのではないかと考え直し、ゴッドファーザー製作に踏み込む。

名物プロデューサー、ロバート・エヴァンスのドキュメント『くたばれハリウッド』でこの辺りの経緯が面白おかしく描かれている。撮影中、少なくとも7回ほどコッポラはクビになる可能性があったとエヴァンスが吐露している。

 

カット全てが目指すべきたかみ

新鋭監督に一流のスタッフが集結する。撮影にゴードン・ウィリス40歳。撮影監督の地位を向上させた歴史的第一人者。オペレーターにマイケル・チャップマン37歳。『ゴッドファーザー』のカット全てが教科書、参考書となり、目指すべきたかみである。

漆黒の部屋、葬儀屋の男がイタリア訛りで「私はアメリカを信じている…」というドン・コルレオーネへの嘆願からこの映画が始まる。絵画のような男の顔のアップからトラックバックしていくと、ドンの後ろ姿に。自分の娘を陵辱した男への復讐を切にドンへ訴える。切り返すと苦渋のドンの登場カット…映画が始まった瞬間だ。毎回分かっていても声が出てしまう。

 

漆黒の部屋のオープニングシーンが一番好きだ

マーロン・ブランド47歳が初老のドンを演じた。特殊メイクのディック・スミスの神業のひとつだ。『タクシードライバー』のモヒカンも凄かったが、マーロン・ブランドに主演男優のオスカーをもたらした(ブランドは受賞拒否)メイク・アップは歴史的偉業だ。撮影所で拾ってなついた猫を使っての芝居をマーロン・ブランドは提案した。猫を撫でながらの長台詞が素晴らしい。僕は、窓から光が差さない、漆黒の部屋のオープニングシーンが一番好きだ。オッサン達のドンへの嘆願と忠誠を誓う告白の部屋だ。ドンと相談役達によって問題を如何に処理始末していくかが決定される。

 

アメリカ映画を席巻していく俳優達が勢揃いする

相談役(コンシリエーリ)のトム・ヘイゲン役にロバート・デュヴァル40歳。長男ソニー役にジェームズ・カーン41歳。次男フレド役にジョン・カザール36歳。三男マイケル役にアル・パチーノ31歳。アメリカ映画の70、80、90年代を席巻していく俳優達が勢揃いする。アル・パチーノは80歳の今も元気にスクリーンで名演を続けている。

この漆黒の部屋の外では結婚式がファミリー総出で行われている。巨匠ニーノ・ロータの最高傑作のメロディーが結婚式のシーンを奏でる。このコントラストが映画を最後まで素晴らしいものにしていく。末妹コニー(タリア・シャイア)の結婚式に婚約者ケイ(ダイアン・キートン)を連れて戻ってくるマイケル。ギャング家業に嫌気がさして、海兵隊に志願し一家から離れていた。

二次大戦が終わり、ニューヨークのマフィアの抗争が激化していく。血の気が強すぎる長男、優しすぎるひ弱な次男、跡目は一番沈着冷静なマイケルにと父親のドンは考える。このキャラクターを名優達が見事に演じ分けていく。ずらりと揃った新旧名優達の殺し様、死に様が物凄い。コッポラ監督はゾーンに入ったかの冴えを見せる。 

三男マイケルが父親を襲ったギャング、ソロッツォ(アルフレッド・レッティエリ)と悪徳警官マクラスキー警部(スターリング・ヘイドン)をレストランで暗殺する場面を撮ってから、コッポラ降板の声は止んだ。警部役のヘイドンの死に様演技は物凄い。僕は心理描写の効果音と劇版音楽のタイミングはこのシーンから学んだ。殺しや暴力による汚い家業と表稼業のコントラスト。シチリアマフィアの血の絆と裏切り、報復と粛清の映像美。クライマックス、教会の洗礼式と敵対する五大ファミリーのボスの粛清シーン編集モンタージュは映画史の発明だ。編集のウィリアム・レイノルズは7度のオスカーノミネートの名匠。コッポラ監督は幸せだ。

 

才能の集結をみて取れる物凄いラストカット

漆黒のゴッドファーザーの部屋から映画が始まり、マイケルが漆黒の部屋に入って行き、2代目ゴッドファーザーが誕生してこの映画は終わる。そのラストカットは、俳優ダイアン・キートン、撮影、照明、美術、編集、効果音、音楽ニーノ・ロータ、監督コッポラ等才能の集結を見てとれる物凄いカットだ。

 

 

VIDEO SALON 2022年4月号より転載