第29回
1本2役のカメラ搭載マイクは
DSLRの音周りの弱点を補って余りある

文◎ふるいちやすし

DSLRで美しい動画が撮れるというのはここ10年足らずの間に起こった技術の革新によるもので、その後のユーザーの増加や要望に後押しされ、もはや静止画用のカメラとは呼べないくらい動画撮影に重きをおいたモデルも出てきた。とは言うものの、やはりビデオカメラと同等という物ではなく、特に音声収録に関する機能までは手が回らないといったところだろう。マイクやマイクアンプに関してはコストやサイズの関係もあって、申しわけ程度の物しか搭載されていないというのが現状だ。だからというわけでもないだろうが、ユーザー側も音に対する意識が低い人が多いように思う。せっかく美しい被写体を音も含めて撮れる動画なのに、もったいないじゃないか。意識高めの人は外部マイクを付けて少しでもいい音で録ろうという努力をしているが、そういう要望に、もう一段上のレベルでしっかりと応えてくれるマイクが各社から出ているが、アツデン(AZDEN)のSMX-30もそのひとつだ。

前回、ワンポイントステレオマイクの有用性について書いたが、このモデルはそれに加えてモノラルのガンマイクが搭載され、それがスイッチ一つで切り替えられる。これは楽しいし非常に便利だ。

もう一段上というのは、単により良い音でというだけでなく、例えば画角やレンズに合わせて、収録する音場も変えるという楽しみ方ができるという意味で、音を付け合わせレベルではなく、音も含めた映像表現を作り上げる楽しさを味わえるということ。

もちろん複数のマイクを用意して、取っ替え引っ替えやればいいのだが、これはなかなか手間がかかるし、機動性も損なう。これ一本付けておけばレンズや絞りを選択する動機をワンタッチで音にも反映させることができる。さらにDSLRの音周りの弱点を補ってくれる機能も付いていて、まさにビデオカメラと同等、あるいはそれ以上に表現力を上げてくれるマイクだと思う。この楽しさはヘッドフォンジャックの付いたカメラでしっかりした密閉型のヘッドフォンを用いて現場で聴きながら味わってほしい。

▲SMX-30は120度の指向性を持つステレオマイクとガンマイクをコンパクトに一本にまとめ、それをスイッチ一つで切り替えができるタイプのマイク。さらにその2つのマイクを一気に包み込むウィンドシールド。もうこれさえ載せておけば怖いものなしだ。旅先で出会った人に急にインタビューしたくなったり、小さな物音や動物の声をピンポイントで狙うなど、瞬間的にガンマイクに切り替えて収録し、ステレオマイクで録ったカットと繋げると臨場感豊かな作品になるだろう。

▲出力レベルを+20、0、-10と三段階で切り替えられるというのも的を得た機能だ。基本的にDSLRに搭載されている外部マイクを受けるためのマイクアンプはクオリティが低いこともあり、カメラ側でレベルを上げるとノイズが増えてしまうことがある。一つの工夫として、マイク側の出力をたとえば+20などに上げ、カメラ側の録音レベルを押さえぎみにすれば、クオリティの低いカメラのマイクアンプをできるだけ働かせないということになり、ノイズの少ないクリアな録音ができるだろう。

ただここまでくると私としては欲が出てしまい、バランス出力が出ていれば業務用ビデオカメラででも使いたくなってしまう。また、せっかくガンとステレオが付いてるのなら、二つをミックス、できればその割合を調整できればもっと微妙な音場を作ることができるのに、などと考えてしまう。

このステレオマイクは広がりの中にもセンターの音をしっかり録れる定位感があるほうだが、ミックスができるようになれば、センターはガンマイクに任せて、ステレオマイクのほうは現在の120度と比較的ワイドな指向性をもっとワイドにして、何なら位相をずらして流行りのMS収録なんかもできれば、さらに多彩な音場表現が可能になる。そうなるとこれは単なるユーティリティーマイクといったものではなくなり、夢のような表現道具となるだろう。欲は尽きない。

最近はDSLRに的を絞った魅力的な製品が数多く発売されている。たとえばこのSMX-30の電源も、基本は単三電池で駆動するので、小さなバッテリーしか持たないDSLRの電源消費を抑えることができるし、それでもプラグインパワーからカメラのON/OFFだけは感知し、マイクも連動してON/OFFされるAUTOという機能も大変便利。

こういった便利さだけでなく、アクセサリーを含めてそのコンパクトさや軽量で安価でということを考えると、DSLRはますます本格的な撮影にも使え、ある意味では業務用ビデオカメラをも凌駕するようなものになり得る。手軽さと同時にそういう観点を持つことも大変重要なことだと思う。ロンサムビデオの流儀は、ただコンパクトに気軽にというものではなく、そこでどれだけ本格的な撮影に取り組むかというものなのだ。

▲たとえば雑踏のようなうるさい場所でも望遠レンズでそこから何か一つを抜き出す時にはガンマイクで狙う。言葉までは分からなくても、その音場の違いが映像とマッチする。ワイドレンズで環境や空気感を捉えたいという思いをそのまま音声に働かせれば、ステレオマイクが最適で、アップにしたり被写界深度を浅くして周りをボカしたりして、情報量を減らし、主体を浮き立たせたいという動機には、超指向性のガンマイクが合う。こうして録ったカットを編集して繋げると、とてもリアルで臨場感のある作品になる。