【LONESOME VIDEOの流儀】強い個性がないからこそ他で作り込みやすい FUJINON MKレンズ


第35回
強い個性がないからこそ
他で作り込みやすい FUJINON MKレンズ

文◎ふるいちやすし

(2月27日、本文を加えました)

私の映像のルック、或いはトーンについて質問を受けることがよくある。いつも一言で答えることができなくて困ってしまう。それはレンズの選択、カメラのパラメーターの細かいコントロール、絞り、構図、そしてムーブ、カメラワークといった様々な要素によって作られていて、さらにそれらは被写体によって変化する。その内の一つ、例えばカメラのパラメーターだけを教えたところで答えにはならないだろうし、かえって危険だと感じる。それ以前に重要なのは、それらすべてをコントロールする動機、つまりは私の中にある美意識で、なぜそこで足を止め、カメラを向けようとしたかということだと思う。本当に伝えたいのはそこで、私のような画を撮る方法ではなく、あなたの美意識に従ったあなたの画を撮ってほしいということだ。

約3年間、この連載を通して様々なメーカーの様々な撮影機材に触れさせていただいて、そこにもそれぞれのメーカーの美意識があるのだと強く感じている。それが強ければ強いほど、たとえ自分の美意識にそぐわなかったとしても、楽しく、そして尊敬できる。今回使わせてもらった FUJINON MKレンズは、かつてスチル写真を撮るフィルム選びをしていた頃、FUJIFILM に対して感じていた美意識と同じだと気づき、思わずニヤッとしてしまった。徹底的なニュートラル、「THEスタンダード」を作ろうとしている FUJI のブレない姿勢が現れている。

▲レンズは非常に軽量でバランスもとりやすいだろう。ただし、長さには慣れが必要で、思わぬところにぶつけないように注意が必要だ。特筆すべきはフランジバックの微調整が簡単にできてしまうこと。これはマウントは同じでもカメラによって微妙に違うセンサーとレンズ(後玉)の距離をしっかり合わせるもので、これが狂っているとズームを動かした時にフォーカスがずれてしまう。メーカーによってはこれを合わせるためにカメラごとサービスに出さなければならない機種もある。

 

最初の光の入り口であるレンズに、色気を求めてクラシックレンズを使ったりする私にとっては物足りなさもあったが、そこで付けてしまった色気は後、何をしても消えないもので、対してこのニュートラルなレンズはカメラのパラメーターや絞りに対して本当に素直に反応してくれる。

特に絞りの変化によるカラーバランスも急に変わってしまうこともなく、暗部側も明部側もギリギリまで素直な色彩感を失わない。普通に考えれば脚色のない、ナチュラルな映像を撮りたい方にお薦めとなるのだが、むしろゴリゴリに画作りを楽しみたい方のためのナチュラルな素材をカメラに取り込むレンズだと考えたい。そういう意味では、カメラマンの個性とセンスがストレートに試されるレンズなのだ。

今回は 18-55mm、50-135mm の2本を持って行ったが、映画的に考えると 18-55mm の1本でほとんど事足りてしまう。全域で T2.9 という明るさも充分で、マクロスイッチも付いている。これ1本付けておけばどんなシーンにも対応できそうだ。しかもフォーカス、ズーム、アイリスのすべてのリングに 0.8M ピッチのギアが付いており、1本で撮りきる気満々でがっちりリグにセットした。

レンズそのものが長いので、大げさに見えてしまうが、実は意外なほど軽いので、取り回しもさほど苦にはならない。リングの粘りもちょうどよく、手動でズームもフォーカス送りもスムーズに行えるし、どの焦点距離でも回す角度が一緒なので、これに慣れてしまえば最強だろうと思えた。レンズをあれこれ変えるのも楽しいものだが、特に雨の日や埃っぽい場所での撮影でレンズ選択・交換のストレスを省けるとしたら、他への集中力も増す。機動性という意味では抜群だろう。ワンマン撮影や、何が起こるかわからないドキュメンタリー撮影にはもってこいのレンズだ。

今回で最終回となる「ロンサムビデオの流儀」だが、皆さんの作品作りの手助けはできただろうか? どんな小さな旅であろうが、ご近所や家族を撮る時でさえ、こう撮らなくてはいけないという決まりはない。むしろ決まり通りに撮っていたのでは単なる記録に終わってしまい、作品とは呼べない。目の前にはあなただけのシーンがある。だからこそ撮影者の気持ちが現れるような映像を撮ろう。それがロンサムビデオの流儀だ。

 どんなアングルでも1本で撮りきれてイメージの違いがない

▲T2.9は充分な明るさだとは思うが、開放にしても意外にボケ感は少ないように感じる。ひょっとしたらボケがスムーズすぎて、存在感が消えてくれないせいかもしれない。いずれにしてもマクロ、広角、望遠、どんなアングルでも1本で撮りきれるというのは撮影のリズムを作ってくれて非常に楽だ。(女優:沖名瑠美)