「人に近づいて撮れる」「狭い空間を通り抜けられる」これまでの空撮ドローンでは難しかった映像表現が可能なマイクロドローンが注目されている。この連載では初心者が導入にあたってつまづきそうなポイントを中心に解説していく。

 

文●青山祐介/構成●編集部

講師●田川哲也ドローンにも使われている、アイペックスコネクターの設計を本職とするドローンエンジニア。まだドローンを「マルチコプター」と呼んでいた6年ほど前から、空撮用ドローンを製作し始める。2014 年からレーシングドローンの製作も手掛ける。Facebookグループ「 U199 ドローンクラブ」の発起人、管理人。2016 年 ドバイ国際大会日本代表チーム エンジニア。現在 DMM RAIDEN RACING チーム エンジニア。

 

マイクロドローンでFPVに必要なVTX(ビデオトランスミッタ)を利用するには無線局免許と無線技士の資格が必要です。この免許と資格は業務と趣味という目的によって異なります。今回は趣味の場合に必要な手続きを紹介しましょう。

 

国家試験と養成課程講習会

趣味目的でマイクロドローンを楽しむ場合は、VTXをアマチュア無線の「アマチュアテレビ(ATV)」として無線局免許が必要で、この無線局の操作に必要なアマチュア無線技士という国家資格を取得します。アマチュア無線技士には、操作できる範囲の狭い順≒難易度の低い順に4級から1級があり、4級があればマイクロドローンのVTXが利用可能です。

資格を取るには国家試験を受けるか、総務省が認める団体が実施する養成課程講習会を受講し、修了試験に合格しなければなりません。国家試験は5000円程度の受験料で1時間の試験を受けるだけですが、必要な知識を独学で勉強しなければなりません。一方、養成課程講習会は電波法規6時間、無線工学4時間と、およそ2日間の時間と一般の場合、21,000円の講習費用がかかります。しかし、当然ながら講習を通じて必要な知識を身に着けることができ、修了試験の合格率は98%(JARDの場合)と高いこともあって、近年では養成課程講習会で資格を取る人の方が多くなっています。また、便利なeラーニングの講座も利用できます。

 

アマチュア無線を車の運転に例えると…

▲趣味の場合、マイクロドローンの映像伝送にはアマチュア無線の電波を使用する。無線従事者免許と無線局の開局が必要になる。車の運転に例えると無線従事者免許は運転免許証。無線局免許状は自動車検査証(車検証)。

 

“保証”制度で開局申請

もうひとつ必要なのがアマチュア無線局の免許です。手続きはアマチュア無線技士の資格を取得した上で総務省の電子申請のWebページから開局申請を行います。一般的に小型の無線機器は、電波法の定める“技適(技術基準適合証明)”を受けているため、機器の新設検査が省略されます。ただし、マイクロドローンのVTXは、そのほとんどが技適を受けていません。そこでアマチュア無線局向けの「保証」制度を利用して開局申請を行うのです。

これは昔から愛好家が無線機を自作していたアマチュア無線だけに許された制度で、“無線機が適切な設計である”ことを第三者機関が総務省に対して保証することで、アマチュア無線局として免許が交付されるというものです。

そのため開局申請の前に必要書類をJARDのような保証機関に送ります。ここで保証が受けられると、電子申請の場合は保証書を含むファイルが返送されてくるので、それを電子申請で手続きします。書類申請の場合は保証機関から申請書類一式が総合通信局に転送されて免許申請が行われます。

ここでカギとなるのが「送信機系統図」です。これはVTXの仕組みを表した図で、この図をもとにVTXが電波法に則ったアマチュア無線機として適切かどうかを保証機関が判断します。図が正しいのはもちろん、送信周波数や出力がアマチュア無線局として定められた仕様となっていなければなりません。

この送信機系統図を自分で作成できない場合は、VTXの販売元などから入手します。海外製のVTXは日本のアマチュア無線の周波数帯の外側の周波数で電波が出てしまうものもあります。そのため、日本のアマチュアバンドでのみ送信するという処置が明確にわかるようにしておかなければなりません。

 

FPVでアマチュア無線を使うための流れ

養成課程講習会講習+修了試験

講習期間:2日間/授業時間:法規6時間、無線工学4時間/受講料:一般21,000円、18歳以下8,000円、免許申請手数料1,750円。

URL●http://www.jard.or.jp/

日本アマチュア無線振興協会(JARD)は養成課程講習会を主催する団体の一つ。全国各地で講習会を実施しておりWEBサイトから申し込める。東京・巣鴨にある本部では毎週のように講習会が開かれている。講習会では教科書を基に無線のプロが解説。講義の合間にわからないことも質問できるので合格率も高いという。

▲JARDの養成課程講習会で配布される「アマチュア無線教科書」とアマチュアバンドの使用区分を記した教材。

 

国家試験

試験時間:60分/試験内容:法規12問、無線工学12問/試験手数料:4級5,002円、免許申請手数料1,750円

URL●http://www.nichimu.or.jp/

無線従事者の国家試験を実施しているのは日本無線協会。試験の申し込みは試験の2ヵ月前の1日〜20日にWEBサイトもしくは試験申請書を提出して行う。試験日程はWEBサイトで確認できる。また、毎年東京・大阪で開催されるアマチュア無線の展示会では臨時試験が行われ、当日受付で受験できる。

▲東京ビッグサイトで毎年開催される無線の展示会「ハムフェア2018」の模様。試験は会議棟で実施される。

合格

合格通知が届く。

▲マイクロドローンのVTXはカメラと一体型でDIPスイッチのないものも増えてきた。

アマゾンや海外から個人輸入すると、保証(次ページで紹介)に必要な送信機系統図を自力で作らなければいけなくなる。国内のラジコンショップ等の販売代理店を通じて購入すれば、お店で提供してもらえるので、相談してみるといい。

無線従事者免許の申請

「無線従事者免許申請書」に記入。収入印紙(1,750円分)・写真一枚・住民票一通を同封して、総合通信局に送付。養成講習会ではまとめて申請を行なってくれる。

無線従事者免許証が届く

免許証申請から約1ヵ月ほどで無線従事者免許証が届く。無線従事者免許は終身免許となる。

開局申請/保証手続き

WEB上でアマチュア無線の利用・申請・届け出ができる「Lite」。

URL●https://www.denpa.soumu.go.jp/public2/

 

保証を電子申請するためのJARDのWEBサイト。


URL●https://www.jard.or.jp/warranty/kihonmail/

 

マイクロドローンの開局申請の流れ(電子申請の場合)

※郵送の場合は⑥⑦(総務省総合通信局やJARDのWEBからダウンロードできる)と⑧の書類をまとめてJARDに郵送。

※JARDではドローンユーザー向けに開局申請・保証認定書類の書き方を解説している(https://jard.or.jp/warranty/drone/

 

JARD本部の施設を見せてもらいました

▲養成講習会が行われるJARD本部にある「ハム教室」。50人ほどを収容できる。

▲保証に使用される電波の計測機器。自作の無線機を持ち込んで検査するユーザーもいるのだとか。

 

送信機系統図って?

▲電波を発生する無線装置(この場合はVTX)の構造を記した図面。ここで重要なのは赤い枠で囲んだ部分。発射可能な電波をユーザーが理解しており、適切な電波が発射されるように処置が取られているかをみる。

▲今回取材に協力してくれた日本アマチュア無線振興協会のみなさん。写真左から坂本純一さん(専務理事)、新海恒章さん(養成部 運営統括)、谷鹿勝己さん(保証事業センター 担当部長)。

 

ビデオSALON2019年10月号より転載