映画と人。Vol.4『サン・セバスチャン 国際映画祭と映画監督 奥山大史』


奥山大史

1996年生まれ、東京都出身。初長編映画『僕はイエス様が嫌い』で第66回サン・セバスチャン国際映画祭最優秀新人監督賞を史上最年少で受賞。撮影監督としてもGUやLOFTのCM撮影を担当。

01海外で評価された“構図”へのこだわり
「“ カメラマン”としての経験が今回の画づくりにも活かされていると思う」

—— 大学在学中に制作した初長編映画『僕はイエス様が嫌い』の着想はどこから生まれましたか?

ミッション系の小学校に転校して戸惑う主人公の“ユラくん”は、僕の実体験がベースになっています。僕自身、普通の幼稚園からミッション系の幼稚園に転園して、それから大学までずっとキリスト教の学校に通っていたんです。転園した時の違和感は強烈な体験として今も記憶に刻まれていて、それを反映させています。あとは、劇中でユラくんが窓の外を見つめるシーンが何回か登場するんですが、個人的に“窓の外を見る”という構図が好きなんです。陰影がしっかり出るというのもありますが、“何かを見ている”という画が外の世界を感じやすい。先に漠然としたイメージがあって、そのルックにいきつくように物語を逆算する…という発想かもしれません。

—— 今作は撮影も担当されていますが、長回しでのワンカットが多いですね

基本的に“ワンシーン・ワンカット”が好きで、レールを敷いて撮影する移動ショットはあまり好きじゃないんです。もちろん、好きな映画で移動ショットを多用している作品もいっぱいあります。ただ、自分の監督作品では被写体との距離を保っていたい。極端に言えば、監視カメラのような距離感。できたら、観客が“神の視点”ぐらい達観してストーリーを見守ってほしいという思いがあって、カメラを移動して誰かの視点のように見せたりするのは避けたいんです。今回もユラくん視点でのショットは一回もありません。

—— そうした距離感のスタンスは、撮影監督の経験からくるものでしょうか?

そうですね。監督をする人は、ある程度、撮影もできたほうが絶対に良いと個人的には思っています。撮影監督として参加した作品では、撮るものがあらかじめ決められている中で、自分に残されているのは、どこから、どの距離で、どの構図で撮るか…それだけ。でも、それで映画の印象がすごく変わるんです。もちろん監督の意向に沿って、レールをはじめ様々な撮影手法に挑戦しましたし、そうした試行錯誤を経て、“ワンシーン・ワンカット”に辿り着いたというか…。振り返ってみると、撮影に集中できた時間はすごく大切だったし、その経験の延長線上で今、監督をしているところがあるんです。

 

▲フィルム写真を撮ることが多く、著名な写真家の作品はよく見るという奥山監督。自ら撮影する構図へのこだわりは、そうした写真の影響も大きいそう。

 

—— 今作は大学の卒業制作ですが、在学中にはコマ撮りの短編アニメ—ション『Tokyo 2001/10/21 22:32〜22:41』も監督されていますよね。

はい。使い捨てカメラの写真で構成された作品なんですが、「魚の顔をした店員が客に突然食べられちゃう」という“撮りたい画”が最初に浮かんで、物語を構築していきました。最初から、海外の映画祭に出品したいと思っていたので、回転寿司とか、日本人ならではの親子関係とか、海外で受けそうな“日本”のイメージを盛り込んだりして。釜山国際映画祭で上映はされたんですが、結果的には映画祭での成果は芳しくなかったですね。いろんな映画祭に参加した今だから分かることですが、映画祭はそれぞれの国の個性の出し合いではないし、自国の文化的背景ばかり描いても意味がないんだと実感しました。

 

▲『Tokyo 2001/10/21 22:32~22:41』(主演:大竹しのぶ)は、数千枚ものフィルム写真で構成された切り絵アニメーション(動画は予告編)。

 

—— 『僕はイエス様が嫌い』で、日本人としては実に20年ぶりとなる最優秀新人監督賞受賞が話題を呼んでいますが、そもそもサン・セバスチャン国際映画祭に出品した経緯は?

 『僕はイエス様が嫌い』は映画祭に出品する想定ではなくて、最初は『Tokyo 2001/10/21 22:32〜22:41』を出品するために、川喜多記念映画文化財団に相談したのがきっかけです。“各映画祭のプログラマーとのネットワークがある財団”ということだけ知人を介して聞いていたので、ネット検索で電話番号を調べるところから…(笑)。たまたま電話応対してくださったのが、経験豊富なコーディネーターの方だったんです。ただ、短編を対象とした映画祭は数も膨大だし、そもそも川喜多ではあまりつながりがない、とアドバイスをいただいて。ちょうど撮影を終えたばかりで未完成だった『僕はイエス様が嫌い』の話をしたら、「長編映画を撮っているという経歴があることによって、短編の出品が決まりやすくなるかもしれないし、長編が完成したらぜひ持ってきてください」と仰ってくださった。その後、サン・セバスチャン国際映画祭の関係者が来日するから見せて良いかという連絡をいただいて、今回の出品につながりました。僕自身、過去に映画祭に出品する代行サービスなどを利用して自力で応募したこともあるんですが、やはり直接的に作品を見てもらえるネットワークが一番効果的。財団の存在は漠然と知ってはいても実際にアクションを起こしている若手監督は意外と少ない気がして。それはもったいないと思いますね。

▲ニュー・ディレクターズ部門審査委員長を務めたKatrin Porsと一緒に。今回の受賞について「満場一致で審査も早かった」と高評価だったそう。

 

—— 現在、海外セールスは日活が担当していますが、最初は奥山監督ご自身で担当されていたんですね。

サン・セバスチャン国際映画祭のラインナップが発表されたとたん、作品の連絡先として映画祭側に提出していた僕のメールアドレスに、様々な映画祭から問い合わせがありました。ストックホルム(スウェーデン)、マカオ(中国)、ダブリン(アイルランド)、フィルメックス(日本)…それに、最優秀新人監督賞が決まってからは、ニッポン・コネクション(ドイツ)やジャパンカッツ(アメリカ)といった欧米の日本映画祭から、『Tokyo 2001/10/21 22:32〜22:41』とセットで上映したいというリクエストがあったり。海外展開について最初はプロデューサーと話し合いながら進めていましたが、今は日活にお任せしています。スペインやフランス、韓国での配給も決まり、他国で劇場公開されることになったのは、何よりうれしいです。

—— それだけ映画祭が影響力を持っている、ということですね。現地スペインでの反響はいかがでしたか?

スペインは熱心なカトリック教徒が多い土地なので、小さな“イエス様”が登場するシーンは心配していたんですが、意外なほど笑いが起きていて(笑)。どうやら日本人の若い監督が、キリスト教に関する作品を撮ることへの関心も高かったみたいで、スタンディングオベーションが起きた時はびっくりしました。サン・セバスチャン国際映画祭は海外での劇場公開につながったことが一番の収穫ですが、映画製作自体への視野も広がったような気がしています。

▲前評判が高かったため『僕はイエス様が嫌い』はニュー・ディレクターズ部門の作品は上映しないことも多い600名規模の会場でも上映され、盛況だった。


▲サン・セバスチャン国際映画祭のレッドカーペットには、和馬役の大熊理樹も参加。現地入りした吉野匡志プロデューサーと一緒にプレスの取材も受けた。

美しいコンチャ湾と隣接する街並み

“ビスケー湾の真珠”と称されるスペイン北部の街、サン・セバスチャン。その由縁は、フランスの西岸まで続くビスケー湾にある“コンチャ海岸”。スペイン語で貝殻を意味するコンチャの名の通り、孤を描いたビーチはこの街のシンボルで、砂浜を散歩するだけでも優雅な気分が味わえる。ビーチ近くのホテルに宿泊したという奥山監督も「海岸沿いを歩いて、市街地へと移動するだけでも気持ち良かった」とのこと。その海岸のほど近くにあり、街を流れるウルメア川に架かるクルサール橋では、釣り人も多数。橋の向こう岸には、地元を代表する建築家、ホセ・ラファエル・モネオにより設計された映画祭のメイン会場・クルサール国際会議場がある。


 

 

キリスト像がそびえ立つモンテ・ウルグル

コンチャ海岸を囲むように両側に位置しているのが、“モンテ・イゲルド”と“モンテ・ウルグル”と名付けられた2つの丘。どちらもビーチの全景を見渡せるビュースポットだが、今回、奥山監督が訪れたのはイエス・キリスト像のあるモンテ・ウルグル。 遊歩道も整備され散策コースとしても人気の高い丘の頂上に“モタ城”があり、その上に巨大なキリスト像がある。“小さなキリスト”が登場する『僕はイエス様が嫌い』の象徴そのものであり、ここを訪れないわけにはいかなかったという奥山監督。映画祭での初上映後は、こうしたスポットや市街地でも映画を見たという地元民に声かけられる機会が多く、現地のフレンドリーな気風を感じたそう。


 

絶品ピンチョスを食べ歩く“バル巡り”

サン・セバスチャンのあるスペイン北部のバスク地方は、美食の街として知られる。バルに欠かせないピンチョス(バスク発祥の小皿料理。“串=ピンチョ”に具材を刺して提供されたことが始まり)は、各店ごとに名物料理があり、フォアグラ、魚貝類、キノコ類、オリーブ…と美食の宝庫で、現地には“ピンチョス・ハンティング”というツアーも開催されているほど、“バル巡り”は浸透している。「どのバルにも“ハモンセラーノ(スペインの生ハム)”が吊り下げられていた」と語る奥山監督も、是枝裕和監督と一緒にバルを訪れたようで、「ステーキとかエビとか…たくさんごちそうになったんですが、全部美味!」と、バル巡りには大満足だったそう。


 

 

Information

サン・セバスチャン国際映画祭とは?

スペインを代表するリゾート地、サン・セバスチャンで開催。1953年にスタートし、今年で67回を数える同祭は、カンヌ、ベルリン、ヴェネチアに次ぐ重要な映画祭として位置付けられている。奥山監督が史上最年少の22歳で最優秀新人監督賞を受賞した2018年度は、『万引き家族』の是枝裕和監督が生涯功労賞にあたる“ドノスティア賞”を受賞したことでも話題を呼んだ。(※画像は公式サイトのスクリーンショット)

第67回サン・セバスチャン国際映画祭
開催日程:2019年9月20日〜28日
https://www.sansebastianfestival.com

 

『僕はイエス様が嫌い』

[監][脚][撮][編]奥山大史
[照]岩渕隆斗[録]柳田耕佑
[出]佐藤結良、大熊理樹、チャド・マレーン ほか
青山学院大学在学中に制作した奥山大史監督の初長編作。ミッション系の小学校に転校した少年ユラと、彼だけに見える小さな“イエス様”をめぐる物語。5月31日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国順次公開。[2019年/日本/カラー/DCP/スタンダード/76分]
https://jesus-movie.com/

©2019 閉会宣言
写真提供:HIROSHI OKUYAMA

 

ビデオSALON2019年6月号より転載