奥山大史

1996年生まれ、東京都出身。初長編映画『僕はイエス様が嫌い』で第66回サン・セバスチャン国際映画祭最優秀新人監督賞を史上最年少で受賞。撮影監督としてもGUやLOFTのCM撮影を担当。

 

01映画祭主催ディナーで生まれる異文化交流
「“ 英語が苦手な僕でも自然と輪に入れるような交流の場が用意されていました」

―― 初長編映画『僕はイエス様が嫌い』が、カンヌ、ベルリン、ヴェネチアに次いで重要な映画祭とされるサン・セバスチャン国際映画祭(スペイン)で最優秀新人監督賞を受賞。その後どのような反響がありましたか?

サン・セバスチャンのラインナップ発表と同時に、いくつかの映画祭から出品のオファーがありました。ストックホルム国際映画祭もそのひとつで、新人監督賞を受賞してメインのコンペティション部門に格上げされたんです。

―― ストックホルムでは最優秀撮影賞を受賞されました。その受賞理由として、「撮影の構図やカット割り、カメラワークに魅了され、この映画に一目惚れしました」というコメントが発表されていましたが、大絶賛ですね。

素直にうれしいです(笑)。映画祭ディレクターのギト・シュニウスさんという方が発表されたコメントなんですが、彼女はカナダ人監督のグザヴィエ・ドランが大好きらしくて。僕は今23歳ですが、ドラン監督も20代でストックホルム国際映画祭に参加したそうで、その当時の印象を『僕はイエス様が嫌い』に重ね合わせて観てくださったようなんです。後でシュニウスさんから「あなたはいつかグザヴィエ・ドランみたいになるわ」と仰っていただきました。

▲映画祭ディレクターのギト・シュニウスさんと一緒に。『僕はイエス様が嫌い』のチケットはすぐに完売したそうで、コンペ作品では異例の反響だった。

 

―― ストックホルムは新人の発掘や育成に熱心な映画祭ですが、コンペの監督同士の交流はありましたか?

ホスピタリティが充実していて、レナガットさんというホスピタリティマネージャーが食事や観光に連れていってくれたり、毎晩のように映画祭主催のディナーがあったり、気軽に交流できる場が充実していました。例えば、最優秀監督賞を受賞した『オール・グッド(原題)』のエヴァ・トロビッシュさんは、すごくカッコいい女性で、英語が苦手な僕にも熱心に話しかけてくれて。アジア人監督はほとんどいないうえ、20代前半の監督は僕ぐらい。「そんなに若いのにどうやって資金を得たのか?」「どのように企画の着想を得ているのか?」と質問されて、積極的に意見交換できました。“ノーベルディナー”を提供する格式あるレストランで、映画祭閉幕後に受賞監督だけが参加して、トロフィー(映画祭のシンボルである馬型トロフィー)を並べて食事する公式ディナーの場もあって。そこで隣にいた『スケート・キッチン』(公開中)のクリスタル・モーゼル監督とトロフィーをシャッフルして遊んでいたら、最優秀新人監督賞を受賞したモーゼル監督のトロフィーと僕がいただいた最優秀撮影賞のトロフィーを取り違えて持ち帰ってしまった、というハプニングもありました…。後でちゃんとホテルに届けて交換しましたが、いい思い出です(笑)。

▲写真右がホスピタリティマネージャーのレナガットさん。左がテーターさんを紹介してくれたカルチャー誌の編集者。奥山監督のインタビューも掲載された。

▲ストックホルム国際映画祭の受賞者(前列の左から2番目が奥山監督)。ダーラナホース(スウェーデンの木馬)を模した重いトロフィーを手にしている。

▲初回の上映に『僕はイエス様が嫌い』を観に来ていた現地のお客さんと一緒に(左がCM撮影監督のテーターさん)。みんな驚くほど日本語が堪能だった。

 

01ストックホルムでの忘れられない出会い
「ロイ・アンダーソン監督の憧れの『スタジオ24』も案内してもらえて感動しました」

―― 映画祭以外ではどのように過ごしていたんですか?

受賞候補に挙がったことで滞在期間を3日間延長したので、結果的に11月10日~18日まで1週間以上も現地にいることになって。レナガットさんの娘さんが、日本でカメラマンとして活動していた経験もあるCM撮影監督のテーターさんという方を紹介してくれて、彼がいろいろ現地を案内してくれることになったんです。映画祭からも通訳の方を手配してくださったんですが、テーターのほうが日本語もペラペラだし、撮影という共通の話題もあるしで、まったくストレスを感じることなく現地を満喫できて。計5カ所ぐらいだったかな…美術館を巡ったり、知り合いのバーや自宅にまで連れて行ってくれたり。そのお礼の代わりに…じゃないんですけど、テーターの撮影の手伝いもして、濃密なストックホルム体験ができました。

―― 濃密なストックホルム体験といえば、ロイ・アンダーソン監督の制作スタジオ「Studio24」に訪問されたとか。

実は在スウェーデン日本大使館に招待された時に、ロイ・アンダーソン監督(ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞をした『さよなら、人類』の監督)に会いたいと伝えたら、あの「Studio24」に招いて監督自ら案内してくれたんです。

▲「まさか本当にお会いできるとは…」と感激しきりだったロイ・アンダーソン監督との2ショット。監督の仕事部屋のデスクにも座らせてもらった。

 

―― 「Studio24」(防音スタジオ、編集室、音声編集スタジオ、サウンドミックススタジオに加え、何千もの衣装ストックと数々のセットを有する)はいかがでしたか?

ちょうど新作映画の編集作業中だったんですが、その様子も見学させてもらったり、監督の仕事部屋に入れてもらったり…。少数精鋭のスタジオなんですが、MAや助監督の方も気さくで、制作の過程なども説明してくださった。後進の育成に対して、非常にオープンなスタンスにも感激しましたし、僕自身もすごく影響を受けた監督なので、その真髄に触れた気がして、またとない経験ができました。

―― いろいろな意味で充実したホスピタリティだった…ということですね。そうした国際映画祭の反響を得て、5月31日に国内公開を迎えましたが、率直な手応えは?

初日が金曜日だったんですが、翌日の土曜日にはメイン館であるTOHOシネマズ 日比谷での6回の上映が全回満員になりました。現時点で公開劇場数も20館に増えましたし、7月以降は関東圏以外の劇場でも順次公開されるので、とにかく今は上映を少しでも長く続けていくことが大事…そう考えています。海外展開では、韓国・香港・フランスでの公開が決まっているほか、8月下旬からスペインのマドリードとバルセロナで公開されるのでその結果も楽しみですね。これまでサン・セバスチャン(スペイン)にはじまり、今回お話ししたストックホルム、マカオ(中国)、ダブリン(アイルランド)と、出品された国際映画祭には極力参加するようにしてきたんですが、6月には新たに出品が決まったシドニー映画祭(オーストラリア)に参加してきます。今までも映画のおかげで、国境を越えて多くの素晴らしい映画人と出会うことができた。この経験は本当に得がたい財産だと思っています。シドニーでもどんな出会いがあるのか…今から楽しみです。

▲5月31日、TOHOシネマズ 日比谷にて行われた『僕はイエス様が嫌い』の舞台挨拶の控え室にて。“小さなイエス様”役のチャド・マレーンらが登壇した。

 

 

美しい四季のある“水の都”ストックホルム

スウェーデンの南東部にあり、14の島で構成されている北欧の中心都市。“水の都”と称されるほど、街並みには運河が入り組んでいて、市の面積の13%が水面を占めている。日本同様、四季が比較的はっきりしているストックホルムだが、平均気温が15〜20℃ほどのやや短めの夏季(6〜8月)に対して、長い冬季(11〜3月)の平均気温はマイナス1〜3℃。同じスウェーデンでもオーロラが見れる北部とは温度差・日照時間に開きがあるものの、大西洋の暖流の影響で、北欧エリアの中では寒さが比較的穏やか。奥山監督が渡欧した11月は「曇りばかりで、十分寒かった!」そうだが、現地の人は「今が一番過ごしやすい」と言っていたそう。


 

カメラ散歩に最適な“絵”になる街並み

奥山監督曰く、「どこを切り取っても“絵”になる街」がストックホルム。スタジオジブリのアニメ『魔女の宅急便』で参考にされた街としても知られ、ノーベル賞受賞祝賀晩餐会が行われる市庁舎や、中世の建造物が残る旧市街・ガムラスタンなど、街歩きだけでも十分楽しめる。また、ストックホルムは100以上の博物館・美術館がある歴史や文化が根づいた街。現地を案内してくれたというCM撮影監督のテーターさんと共に、カメラを片手に街を散策したり、近代美術館や写真展を巡ったりしたそうだ。下の写真は、テーターさんの手伝いで見学した撮影機材倉庫。日本と違い、実際に倉庫の中に入って自由に機材を選べるシステムが印象深かったという。


 

 

名物料理はスウェーデン流“ミートボール”

世界でも有数の森林大国として知られるスウェーデンでは、豊かな自然がもたらす食産物を加工したレシピが多数。野菜は酢漬け、キノコ類は乾燥、ベリーはジャム、肉や魚は塩漬けや燻製…と、長い冬を乗り切るための伝統的な保存方法がベースとなった料理が広く知られている。代表的なスウェーデン料理のひとつと言えば、クリームソースをたっぷりかけて、ベリージャムとマッシュポテトを添えた“ミートボール”。奥山監督もテーターさんたちと一緒に食べたそう(マッシュポテトが肉より多い!)。また、ストックホルムではヴィーガン&ベジタリアン文化も進んでいるらしく、専門レストラン(下の写真)にはよく連れて行ってもらったとか。


 

 

Information

ストックホルム国際映画祭とは?

スウェーデン最大の都市である首都ストックホルムで開催。1990年にスタートし、現在では約60の国と地域から出品された150本以上を上映。メインのコンペティション部門は、長編監督作3本目までを対象とし、新たな才能の発掘や育成に力を注いでいる。賞の受賞者に贈られるトロフィーはユニークな馬型で、7.3kgという最重量のトロフィーとしても知られている。(※画像は公式サイトのスクリーンショット)

第30回ストックホルム国際映画祭
開催日程:2019年11月6日~17日
https://www.stockholmfilmfestival.se/en 

 

『僕はイエス様が嫌い』

[監][脚][撮][編]奥山大史
[照]岩渕隆斗[録]柳田耕佑
[出]佐藤結良、大熊理樹、チャド・マレーン ほか
超低予算で制作された奥山大史監督の初長編作。ミッション系の小学校に転校して戸惑うユラと、突然目の前に現れた小さな“イエス様”をめぐる物語。全国順次公開中[2019年/日本/カラー/DCP/スタンダード/76分]
https://jesus-movie.com/

©2019 閉会宣言
写真提供:HIROSHI OKUYAMA

 

ビデオSALON2019年7月号より転載