映画祭と人。Vol.8『上海国際映画祭と映画監督 箱田優子』


箱田優子

1982年生まれ、茨城県出身。東京藝術大学美術学部絵画科を卒業後、葵プロモーション(現・AOI Pro.)に入社。2013年からはCluB_Aに所属。2018年にはツヴァイのCM「ひとりじゃない。」で、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSシルバーを受賞した。オリジナル脚本作『ブルーアワーにぶっ飛ばす』で映画監督デビュー。

01プレゼンで勝ち得た念願の映画化企画
「“止められない時間に生きる女性の話”をずっと描きたかったんです」

―― 若手映像作家を生み出すプロジェクト「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM」(以下、TCP)審査員特別賞を機に長編デビューとなりました。応募のきっかけは?

『ブルーアワーにぶっ飛ばす』はちょうど今から3年前、33歳だった時の企画なんです。主人公の砂田(夏帆演じるCMディレクター)と同じく、広告メインで仕事をしてきたんですけど、「本当にこのままで良いのか?」ということがずっと頭にありました。映画の仕事は、好きすぎて手を出しちゃいけないじゃないかと日和っていたところもあったんですけど、「今やらないと二度とできないかも…」と、形にしたいと思っていた企画で応募したんです。

▲CMでキャリアを積んだ自分自身を投影させた主人公の“砂田”役。現場では、演じた夏帆と一緒に悩み、半ばシンクロしながら役を作り上げたという。

 

―― TCPの受賞理由が、最終審査での7分間のプレゼンテーションがずば抜けて秀逸だったからだと伺いましたが、何をされたんですか?

企画コンペティションであるTCPの最終審査は、お客さんも入った会場で行う“プレゼンショー”。広告という仕事柄、どういう見られ方をするのか、ということを意識してプレゼンするのはわりと得意だったので、企画の骨子を伝えるためのプロットをムービーで作ったんです。知り合いの役者やスタッフと一緒にロケで撮影したトレイラーのようなものを流して、最後の数分だけ「これを作ったのが私です」という自己紹介も兼ねて登壇しました。ショータイムみたいに見えたほうが面白いんじゃないかな、と。

 

―― 映画化が決定して、星野秀樹プロデューサーと組むことになったんですよね。

私も大好きな『オーバー・フェンス』(2016年)のプロデューサーなんですが、とにかく映画愛が深すぎるし、熱量がすごすぎるんです。でも、星野さんもご自分が“濃い目”なのは分かっていて、「全面的に俺のことを信じろ!」というスタンスだったし、こっちはいわば“映画処女”じゃないですか(笑)。もう全部のっかってやる…的な勢いというか。ただ、今回のチーム編成自体が、“なるべくしてなった”という気がしていて。例えば、撮影を担当した近藤龍人さんと照明の藤井勇さんはCMでも何度かお仕事していて、それこそTCPの前から「映画は素敵だよ」という話をしてくれていたり、彼らからも星野プロデューサーのことは聞いたりもしていたんです。何かしらのお導きのもとに、『ブルーアワーにぶっ飛ばす』に繋がっていた感じがしています。

▲箱田監督とは、CMで何度か仕事をしたことがあるという近藤龍人(撮影)、藤井勇(照明)ほか、第一線で活躍する実力派スタッフが集結した。

 

―― 今回の企画は、監督の自伝的要素がベースですね。

端的にいえば、仕事にもがいている大人の女性が故郷に帰って東京に戻るだけの話。でも“どうしても止められない時間に生きる女性の話”はずっと描きたかったんです。故郷が茨城県だったり、職業がCMディレクターだったり…と、確かに自分のリアルな要素も含んでいますが、夏帆さんが演じた時点でフィクション。砂田役をオファーするにあたって、夏帆さんには長いお手紙を書いたんですが、その中で伝えたのが「夏帆さん本人の人生を切り売りしてほしい」ということ。脚本に込めた自分の分身をコンプリートさせるんじゃなく、夏帆さん自身の人間性もにじみ出た“生っぽい”キャラクターを一緒に作り上げたかったんです。夏帆さんもその想いを理解して、役に臨んでくれたので、最初から「飲みに行きましょう!」みたいな、そんなノリでした。最終的に役者さんは映像の最前線に立つ人ですし、それをどう世の中に出していくかという責任は監督の私にある。できる限り、一緒に仕事をして良かったと思ってもらえるような作品にしたいんです。

▲ニューヨークで開催される、北米最大の日本映画祭・JAPAN CUTS(7月19日~28日)にて。主演の夏帆、シム・ウンギョンと一緒に参加。

02リアクションが大きいド派手な上海映画祭
「『Love Your Film!』って歓声が飛び交うんです。…もう泣いちゃいますよね」

―― 今回の『ブルーアワーにぶっ飛ばす』によって、香港国際映画祭(ヤング・シネマ・コンペティション部門)、上海国際映画祭(アジア新人部門)、台北映画祭(国際ニュータレントコンペティション部門)…と、数々の映画祭への出品を経験し、実際に現地を訪れたそうですが、印象的だった映画祭は?

やっぱり最優秀監督賞を受賞した上海…でしょうか。出発前に想像していたより、ずっと派手というか、観客数もスクリーンの大きさもとにかく規模が大きくて。6月18日に現地入りして、1週間滞在したんですが、ずっと映画を見まくる映画漬けの毎日を送っていました。上海では計3回上映されて場内で一緒に鑑賞していたんですが、上海の観客は映画愛が深いというか、とにかくリアクションが大きい! めちゃくちゃ笑うし、スンスン鼻を鳴らして泣いているし…。英語や中国語などの字幕で見る人も、セリフひとつひとつの言葉のニュアンスで反応してくれていて、物語に没入して楽しんでくれてる感じが伝わってくるんです。それに上映後、「Love Your Film!」って歓声が飛び交うんですよ。もう泣いちゃいますよね(笑)。

▲アジア新人部門・最優秀監督賞を受賞した上海国際映画祭にて。審査員を務めた中国人女優、タン・ジュオからは「大好きな作品!」と絶賛された。

 

―― Q&Aにも参加されましたか?

毎回参加していたんですけど、クリエイターとして呼ばれた外国の地で、どういう意図で何を思って作ったのか…それを聞きたいと思ってくれる場内の熱気を感じるんです。「あのシーンは何を意味しているのか?」「自分はこう見たが、実際はどうなんだ?」…とか、細かい質問が多くて、まるでディベートみたいでしたけど(笑)。でも、ここまで内容に踏み込んだ話をその場で初めて会ったお客さんとできるんだ、と正直ビックリしました。

▲上海映画祭の会期中に配布される現地メディアの表紙。名だたる受賞者に並んで、最優秀監督賞のトロフィーを手にした箱田監督も掲載された。

 

―― 映画祭期間中、同じ部門に出品したクリエイター同士の交流はありましたか?

特に上海は、アフターパーティーをはじめ、監督同士の交流の場が充実していた印象です。英語が全然喋れないので、身振り手振りでグイグイと話していたんですけど、「君の国ではどうやって映画を作っているのか?」「『ブルーアワーにぶっ飛ばす』のようなタイプの映画は君の国では珍しいのか?」といった製作に関する話がほとんどで、出身国のお国柄の違いやギャップはほとんど感じませんでした。出品した部門が“アジア新人部門”だったので、同世代か自分より年下の監督たちが中心でしたが、一番年下に見られていたみたいで、37歳と教えたら「Oh Fuck!!(マジかよ!!)」って(笑)。

―― 現地でのプレスのインタビューは受けましたか?

はい。取材内容は海外ならではの質問というより、物語に沿った質問が多かったですね。東京に限らず、どこの国にも都会や田舎があって、そこで働く妙齢の女性が、生きづらさや葛藤を抱えている…そんな同じような問題があるんだなと実感しました。あと、想像以上に主人公のキャラクターに近いタイプの監督だったのがビックリしたと言われました。どうやら、作品を観てくれた人たちからは、もっとシニカルでクレバーなタイプの監督だと思われていたらしく…。盛り上がっている会場の雰囲気の中で、「ウェ~イ♪」ってノリノリだった私の姿がちょっとギャップがあったみたいで(笑)。

―― そんな箱田監督自身が初の映画祭体験を通じて、得たものとは何なのでしょうか?

日本人はシャイだから、自分の意見や感情がストレートに表れないけど、私が参加した映画祭では、面白いものには喝采し、面白くないものにはブーイング。リアクションも熱量もすごくて、ただただ楽しかったです。「ああ、映画のお祭りだな」と実感しましたし、より映画が好きになる…そんな貴重な体験でした。

 

▲上海から帰国し、その数日後にまた台湾へ。6月27日開幕の台北映画祭のQ&Aにも参加。台北では鑑賞中に号泣している人を多く見かけたそう。

▲台北映画祭では、ホウ・シャオシェン作品やウォン・カーウァイ作品などの流麗なカメラワークで知られる撮影監督、リー・ピンビンとも交流。

 

中国映画史に欠かせない映画の都・上海

近未来的な高層ビルが林立する一方で、どこかノスタルジックな西洋建築物が並ぶ“バンド”こと外灘(ワイタン)エリアが絶好の観光スポットとなっている中国最大の国際都市・上海。1896年、中国で初めて映画が上映された都市としても知られる上海には、映画の都として栄えてきたという側面もある。また、1928年オープンという上海最古の映画館・大光明電影院や、梅蘭芳などの京劇役者も舞台に立ったという美琪大戯院といった上海国際映画祭の会場にもなっているモダンな外観の映画館も点在。外国映画の上映に規制がある中国にあって、多数の日本映画(今年は59本!)を含む外国映画が一挙に上映される上海国際映画祭の人気ぶりは凄まじいものがある。


 

街中で気軽に楽しむ絶品の“B級グルメ”の数々

美食大国・中国の中でも、絶品グルメがそろう上海料理。“上海蟹”や“紅焼肉(ホンシャオロウ)”と呼ばれる豚バラ肉の角煮、小籠包などが名物料理として挙げられるが、地元の人に広く食べられている代表的な料理といえば、上海生まれの生煎饅頭(ションジエンマントウ)だ。上海では、“サンジーモードゥ”と呼ばれ、小ぶりの豚肉まんをカリっと焼き上げたような食感が特徴だ。日本では“焼き小籠包”として販売されることも多いようで、ひと口噛みしめると、ジュワ〜ッと飛び出す熱々の肉汁がクセになる美味しさ。小籠包と比べて値段もリーズナブルなことから、現地では朝食として食べられることも多く、まさにファストフードのように気軽に親しまれている存在だ。

一方、朝から外食が当たり前の都市・台湾では、箱田監督も台北で食したという“屋台飯”が豊富にそろう。ネギをたっぷり練り込んだお好み焼きのような“葱抓餅”は食べ歩きにも最適で、ハムやチーズなどをトッピングしたものも人気だ。ほかにも、揚げパンなどをトッピングするおぼろ豆腐のような柔らかい豆腐料理“鹹豆漿”、台湾のおふくろの味ともいうべきぶっかけ飯・魯肉飯(ルーローハン)といった、身体にもお財布にも優しいB級グルメが絶品。庶民の味が心まで満たしてくれそうだ。

 

Information

上海国際映画祭とは?

1993年にスタートし、翌年から国際映画製作者連盟(FIAPF)公認となった長編映画祭。過去に岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』が審査員特別賞と最優秀音楽賞を、三原光尋監督の『村の写真集』が最優秀作品賞を受賞したこともあるなど、日本映画ともゆかりが深い。『ブルーアワーにぶっ飛ばす』は長編監督2作目以内の作品が対象となる「アジア新人長編部門」で最優秀監督賞に輝いた。(※画像は公式サイトのスクリーンショット)

第22回上海国際映画祭
開催日程:2019年6月15日〜6月24日
http://www.siff.com 

 

[監][脚]箱田優子
[撮]近藤龍人
[照]藤井勇
[録]小川武
[編]今井大介
[出]夏帆、シム・ウンギョン ほか

優子の第1回監督作。30歳のCMディレクター・砂田は、病気の祖母を見舞うために自由で天真爛漫な秘密の友だち・清浦と一緒に大嫌いな故郷へ帰ることになるが…。テアトル新宿、ユーロスペースほかにて公開。[2019年/日本/カラー/DCP/アメリカンビスタ/92分]
http://blue-hour.jp/

 

ビデオSALON2019年10月号より転載