俳優から転身。ヒップホップからアイドルまで手がける映像監督

取材・文●村松美紀 / 編集部 片柳

熊本県出身。俳優を志し、18歳で上京。26歳で本格的に映像制作をスタート。Red Eye ,、AK-69、, 般若、, 木下百花などアーティストのMVを中心に、広告や企業動画も手がける。

 

 

南 虎我 ’s PROJECT introduction

日本映画の質感を目指したMV

般若MV『俺たちの曲は流れてる』

2020年6月に公開された般若『俺たちの曲は流れてる』のMV。映像ディレクターを一般公募し、南さんが監督に抜擢された。

 

コロナ禍を反映した作品にすべく、パンデミックでほとんどの人間が消えた世界をビジュアル化しました。情報に侵食されて自分を見失う現代の社会。情報過多になった人間はその情報に毒され、徐々に消滅するという設定で撮影しました。

映像のトーンとしては、自分の好きな日本映画の質感を目指しました。実は当時の僕は、ビビッドでカラフルなものが好きだったのですが、あえて実際の色を生かした品のある質感に挑戦。アナモルフィックレンズを使い、映画のクオリティを目指しました。

撮影は、早朝の渋谷と昼間の富士周辺を1日かけて行いました。誰もいない渋谷を撮影できる貴重な機会だと思い、ロケ場所に選びました。テーマをパンデミック後の世界に据えた時、まず浮かんできたのは、般若さん演じる男性が、前田悠雅さん演じる女子高生をおんぶして渋谷を歩くシーン。般若さんが絶対にやらなそうなことをやったら面白いと思いましたし、パンデミックの中のシーンであれば自然に見えると思い、組み込みました。また、前田さんが涙を流すシーンがあるのですが、泣く演技のリクエストはしておらず、現場の良いエネルギーが集まってパフォーマンスが引き出されたのだと思います。

 

さなりMV『Prince』(2019)

YouTubeでの再生回数が1000万回再生を突破し、自身のターニングポイントとなった作品。楽曲の持つドリーミーな世界観が見事に表現している。

 

 

◆南 虎我とはどんなクリエイター?

俳優を志して18歳の時に上京した南 虎我さんは、26歳の時に映像ディレクターの道へ。「10代の時から、表現をすることで世界を良い方向に変えたいという夢がありました。しかし俳優ではなかなか芽が出ず、映画監督を目指そうと決意しました」

今や第一線で活躍するアーティストのMVも手がける南さんだが、スタートは写真だったという。「ストリートで写真を撮っている中で、2018年に渋谷でたまたまラッパーのSALUさんをお見かけしました。その場で撮影したいとお願いし、実際に作品撮りをし、Instagramでミーム的にバズりました。その後、撮影したさなりくんのMV『Prince』がYouTubeで1000万回再生を突破し、色々な方からオファーをいただくようになりました」

MV撮影で大事にしているのは、ストーリーラインと制作意図。「誰に何を伝えたいか、そのゴールを明確にすること。映像制作する人たちもアーティストなので、エンタメの奴隷にはなってはならない」と語る南さん。駆け出し当初は、落とし所がわからず、表現をめぐってアーティストと衝突することも。しかし、映像表現へ向き合う真摯な姿勢と熱意が伝わり、今では多くのアーティストから指名を受けている。「映像は、自分の考えを表現する手段。もちろんクライアントありきですが、思考の哲学的な部分を表現できる最大の手段だと思います」

さらに強い現場意識も南さんの映像制作のこだわり。「俳優をしていた頃、仕事が楽しくなさそうな監督を見たことがあり、何のために作ってるの? と素直に思いました。その経験から、現場はいつも楽しみ、誰よりも声を出して動くことを心がけています。良い映像が撮れる雰囲気というのがあるんです」

リスペクトしている映画監督は、スティーヴン・スピルバーグ。「インディペンデントで映画制作がしたい。しがらみをなくし、表現の純度を上げたいです」

 

 

主な機材・ツール

自宅の作業環境。

 

 

VIDEO SALON 2023年11月号より転載