斎賀教授のアフターファイブ研究室 〜 面倒くさいのが楽しい。シネマルックのスマホムービー「ソニーモバイル Xperia1」


面倒くさいのが楽しい。シネマルックのスマホムービー「ソニーモバイル Xperia1」

Report◎斎賀和彦

 

コンデジを絶滅寸前に追い込んだのはスマートフォンだとよく言われます。手軽にかなりイイ感じの写真が撮れるのが強み。それは動画でも同じでスマホのオート撮影はかなりのレベルなのも確か。

しかし、国産スマホの雄、Xperiaのフラッグシップ、Xperia1に搭載されたCinema Proは簡単とはほど遠い手間の掛かる操作の結果、圧倒的なシネマルックを見せます。そのシネカメラをイメージさせるシネマプロムービーについてじっくり見てみましょう。

 

▲シネカメラ風に撮るならやはり三脚を使いたい。手ブレ補正も優秀だがXperia1は本体だけでは滑りやすいので、最低でもリグ代わりのパーツは欲しいところ。

▲とはいうものの、Xperia1は側面にボタンやセンサー部が多く、器具を取り付けるのがなかなか大変。

▲単焦点レンズを使い分けるトリプルレンズはスマートフォンフラッグシップのトレンド。ただしCinema Proモードではズームはできない。

Xperia1は21:9という独特の画面比の4Kディスプレイです。この比率は映画のシネマスコープとほぼ同じ。さらに有機ELディスプレイでBT.2020の色域とHDRに対応。乱暴に言えば世界最小の映画スクリーン表示装置です。

Cinema Proはそのハードウェアを活かしたシネルック専用モード。映画風の色調を持つ撮影機能ですが、XperiaのすごいところはそのためにVENICEの開発チームを引き込んでしまったこと。ベニスってなに? と思う人も多いと思いますが、多くのハリウッド映画で使われるソニーの映画撮影用カメラ「CineAlta」のフラッグシップモデルがVENICEです。その開発チームがシネマライクな画作りと操作画面を監修したと言います。やややり過ぎなコダワリに感じますが、その結果、確かに他のスマホカメラでは見ることのない独特の質感をもった動画モードになりました。

▲撮影前の操作画面。VENICEに通じるユーザーインターフェイス(UI)。

▲フォーカスはオート(AF)も使えるが、マニュアルでフォーカス移動可能なUIが楽しい。

 

映画風というのは必ずしも綺麗な映像という意味ではありません。実際Cinema Proで撮ったムービーを通常のムービーモード(念のため書いておくとXperia1にはちゃんと普通の動画モードもあり、AFの食いつき含め良い出来なのですが今回は取り上げません)と比べると鮮やかでもなく、シャープでもありません。でも、映画の画ワンシーンのような雰囲気に満ちています。

映画好きなら既に分かっているように、映画はシーンによって色調を少しアンバートーンにしたり、クールなブルー調にしたり、登場人物の感情や作品の世界観を色で演出します。Cinema Proはそんな色のトーン(Lookと言います)を8種類持っていてVENICEに近似した色調や叙情的なブルーイエロー、コントラスト強めなブルートーンなど、シネカメラのニュアンスを醸し出す映像になっています。これらのルックを編集時(のグレーディング)で出すことは不可能ではないと思いますが、かなり手間暇が掛かると思いますし、ソニーの担当者によると画像処理エンジンのかなり深い部分から行なっているのでクオリティには自信があるとのこと。



▲Cinema Pro作例。BT.2020色域、HDRに最適化されているのでSDR用にはグレーディング作業が必要。

▲Cinema Pro Lookの比較。映画用シネカメラ譲りのシックで落ち着いた色調が特徴。

 

そんなCinema Proだが操作は簡単ではない。いや、ワザと難しくしているようにすら思えるくらい。

前述のLookはいちばん最初に解像度やフレームレートと一緒にプロジェクトとして設定が必要で、撮影中に気軽に変えることは出来ない(ルックはシーンで統一されるものなので映画的には正しい)し、感度もシャッター速度もマニュアル設定が必要でシャッター速度は開角度表示というUI。最新トレンドのトリプルレンズも単焦点として切換できるがズーム不可(通常のカメラモードではズーム可能)。一言で言うと面倒くささの極み、なんですね。

ただ、最初戸惑いながら撮っていたのですが、Cinema Pro、このプロセスに意味があるんじゃないかと思うようになりました。BT.2020、マスターモニター画質の4K有機EL越しに被写体を見つめ、世界観を考えながらLookを選び、各種設定を追い込んでいく。そんな画作りから生まれる映像はたしかにシネマのようにしっとりとシックな画なのです。オートで鮮やかに綺麗な画を撮るというiPhone的なアプローチとは真逆の方法論。iPhoneヘビーユーザーのワタシですが、そんな部分には強く惹かれます。

ただ、ここまで凝るなら本気で撮るために三脚マウントは欲しいし、屋外で撮るための遮光フードも欲しくなります。それはもはやスマホではない、とも思いますが、実はXperia1、USB-Cから映像を入力して4K有機ELの小型モニターとしても運用可能なのです(現在はサードパーティ製のアプリが必要。純正対応を強くお願いしました)。これはもうポケットに入るマスモニ兼シネカメラ。世界最小のCineAltaと呼んでもオーバーではない気がします。もっともシネアルタとかベニス、と言ってそそられるひとがどのくらい居るかというと正直「?」が付いてしまうのですが、それでもこういう部分に本気で全力を注ぐソニーってやっぱりいいなあと思うのでした。SIMなしの文字通りのポケシネとして欲しいなあと半分本気で思っています。(Xperia1は国内ではキャリア発売のみでSIMフリー版は買えません)

 

◉作例

 

 

 

ビデオSALON2019年8月号より転載