航空カメラマン・野口克也の 前略、空からお邪魔します vol.33「空から日本をたっぷり見ました」〜9年にわたる空撮バラエティを終えて〜


vol.33「空から日本をたっぷり見ました」〜9年にわたる空撮バラエティを終えて〜

文●野口克也(HEXaMedia)

東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/

筆者は『空から日本を見てみよう』という空撮番組のオペレーターをしていました。先日、その収録を終えて、9月27日の放映をもって最終回を迎えます。2009年から続いていた空撮オペレーター三昧の生活が、一旦ピリオドを迎えることになりました。地上波で72本、BSで284本の撮影。延べ飛行時間は2000時間あまりとなりました。

地上波の撮影では、テレビ東京の取材機「Tバード」を併用しての空撮撮影だったので全てが筆者の撮影映像ではないものの、BSになってからは、すべてが筆者の撮影でした。

番組開始前、「空から変なものを発見するバラエティが作れないか?」というテレビ東京の名物プロデューサー(当時)の目に「空から変なものを撮影していた」私のブログが留まり、空撮専門の航空会社の立ち上げたばかりの筆者にとって渡りに舟のお話を頂き、空撮三昧の日々が始まりました。

「横っ飛びヘリコプター」

番組開始当初は撮影方法などが固まっておらず、まさに試行錯誤の連続。スタビライザーの選定、収録方法やヘリのコーディネーションを日々重ねていきました。地上波で当時使っていた機体は4人乗りのR44という小型ヘリ。機体の側面、機外にスタビライザーがつくタイプで一番の悩みはカメラを前に向けると機体が映り込むことでした。

そのため地上波の撮影時の筆者パートは、すべて横向きに飛んで撮影していたのです。当然ですが、ヘリコプターは横向きにずっと飛ぶようにはできていません(笑)。想定外の無茶をしていたので、軽微ながらいろいろな不具合が出ました。

長く横に傾いているために残燃料が補助タンクに偏ってしまい、補助タンクには燃料があるにもかかわらずメインタンクは空になって、燃料不足ランプがついてしまったり、横滑りさせすぎて空中で機体がくるりと回ってしまったり…といったことも何回かありました。

また、ズームインする方向によっては進行方向の裏側となって見えない場合も多々あり、横向きからの後進を決めることもありました。横っ飛びヘリは地上から見ても不自然に見えたのでしょう。「ヘリが変な感じに飛んでいる、大丈夫か?」と通報があったことも…(苦笑)。

「燃料も自力で運ぶよ」

R44という機体は航空用ガソリンを燃料にします。以前は比較的多くの空港で入手できたのですが、地方空港から取扱をやめていき、撮影に適した空港で燃料補給ができないことも多くありました。そういう場合、前もってドラム缶で燃料を買い、現地へ輸送しなくてはいけないのですが、少人数で動かしていた都合上、そんなこともオペレーターの役目でした。

今思い出しても一番つらかったのは初夏の北海道。摩周湖のそばで7時間ほど撮影をこなし、翌朝に函館のイカの朝市の撮影が入っていた日。朝5時にはフライトというハードスケジュールで、既にフラフラなのに函館のそばの空港まで重い燃料を積んだトラックを10時間ほど走らせ、2時間仮眠のあとに朝市を空撮、なんてこともありました。若かった、あの頃…。もう二度とできる気がしません。(笑)

やがて、東日本大震災がありました。なんとなく「空撮バラエティ」は世相とズレがある感があり、一旦地上波の放映は終了。そのタイミングで私も自分で設立した航空会社を離れ、プロデューサーもテレビ東京を離れました。その後、BS Japanから『空から』再スタートのオファーが来て、今に至ります。

BSになってからは、大阪の航空会社と専属契約を結び、ユーロコプター350B3というパワーのあるタービンヘリで、速度と高高度の飛行性能が上がった撮影が可能となりました。そのおかげで、R44では難しかった、富士山を上から眺めたり、北アルプスを縦走するような撮影方法も可能になりました。また、東海道新幹線のように長距離をまっすぐ走る被写体の撮影も、無理なく可能になったのでした。

▲ BSでの放映から撮影で使用した空撮ヘリ・ユーロコプター350B3。速度と高高度性能があがり、様々なシチュエーションでの撮影が可能になった。

思い出深い「空港」回

番組では「何をどんなふうに、どこを撮影するか」という企画に近いところにも関わっていました。特に印象的だったのは、BSの#12「空港」です。空港では撮影ヘリ的にはひじょうに飛びづらい場所をあえて選び、空撮と地上撮影でバラエティに富んだ内容になりました。

中でも思い出深いのは撮影ヘリで空中待機した後、滑走路に着陸してきた飛行機に後ろからついていってボーディングブリッジまで追いかける映像や、そこから離陸するまでを空中で追いかける映像。

こうした他では滅多にお目にかかれない構図は筆者の撮影立案と担当管制官、航空会社、空港会社全部との綿密な調整、協力によって、ようやく撮影が可能になった映像でした。オンエア時には我ながら感動したものです。これは画作りをするカメラマンとして操縦経験や航空法、管制の運用方法などの知識の集大成により、なし得たものでした。

また、24時間空港とはいえ、夜間には離発着がない時間もあることから、そんな夜間に空港の上を自由に飛び回らせてもらい、普段はあまりスポットライトが当たらない、滑走路灯火の保守点検をしている方々などに、ズームインしたりもしました。

ドローン空撮の登場

一方、ドローン空撮の映像が放映できるレベルで撮影できるようになってきたのは、ちょうどBSで『空から』復活が決まった頃。番組用では2012年後半から撮影を開始しています。番組初登場時にはヨレヨレだったドローン映像も、年を追うごとにレベルが上がり、若い撮影スタッフも育ってくれて、2018年の終了時にはヘリコプターのHD空撮機材を遥かに凌駕した映像を撮れるようになってきたのも印象的です。

(写真左)ドローン撮影初期に筆者が組み立てたドローン。一眼を搭載して撮影を行なった。(写真右)DJI Phantom 4 Pro。この数年でドローンの小型・高性能化が一気に進んできた。

ドローンとプロポ、バッテリー、モニターを積んだ車で全国へ駆けつけ、空港からヘリで飛び、撮って降りて、すぐに車に乗り換えてドローン撮影ポイントを周り…。車での走行距離もとんでもない数字になりました。その間、無事故だったのは奇跡的なことだったかもしれません。本当に感謝です。

番組を終えて

大好きだった、くもじい、くもみ。最近は、くもじゅんいち・くもみーぬに、くもがみ様(番組に登場したキャラクター)。いっぱい、いっぱい、空から日本を見たねえ。

いたるところにささやかな人の営みがあり、息を呑む美しい自然があり、楽しい人たちがいて、面白い場所があって…、長い歴史の降り積もった、空から見ても愛しい国。長いようであっという間に過ぎた、足掛け9年間。かけがえのない経験値を積ませていただきました。

現在は、ヘリを使った別切り口のバラエティ(記事掲載時には放映済)の撮影やコーディネート、ドローンを使った筆者ならではの番組などワクワクしながら企み中です。

日本全国の皆さん、番組ではぐるぐると同じところを撮影で飛ぶヘリで、大変お邪魔いたしました。地上から手を降ってくれた皆さん、嬉しかったです。また、違う形でお邪魔させていただきます!

ビデオSALON2018年10月号より転載