中・高・大と映画に明け暮れた日々。あの頃、作り手ではなかった自分がなぜそこまで映画に夢中になれたのか? 作り手になった今、その視点から忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。最近の作品には『百円の恋』『リングサイド・ストーリー』、『嘘八百』、『銃』、『きばいやんせ! 私』等がある。現在、NETFLIXでオリジナルシリーズ『全裸監督』が公開中。1月31日より『嘘八百 京町ロワイヤル』が公開予定。

 

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第59回 スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望

イラスト●死後くん

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原題: Star Wars Episode IV A New Hope
製作年 :1977年
製作国:アメリカ
上映時間 :121分
アスペクト比 :スタンダード
監督・脚本:ジョージ・ルーカス
製作:ゲイリー・カーツ/リック・マッカラム
撮影 :ギルバート・テイラー
編集 :ポール・ハーシュ/マーシア・ルーカス/リチャード・チュウ
音楽 :ジョン・ウィリアムズ
出演 :マーク・ハミル/ハリソン・フォード/キャリー・フィッシャー/アレック・ギネス/デヴィッド・プラウズ/ジェームズ・アール・ジョーンズ他

ジョージ・ルーカスによるSFアドベンチャー『スター・ウォーズ』シリーズの第1作目。2020年現在、9作品のシリーズが作られている。CGもない1977年当時の視覚効果技術を駆使して、作り上げられたキャラクターや世界観は話題を呼び、第50回アカデミー賞で視覚効果、美術など計6部門を受賞。
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9本目の『スター・ウォーズ』を観に、歌舞伎町の映画館に大晦日の朝一番に駆け込んだ。僕が一本目の『スター・ウォーズ』を観たのは小学5年生の夏休みだった。アメリカで話題の大ヒット映画は全米ロードショーから一年遅れでやっとやって来た。日本のロードショー館でも立見の賑わいぶりのため、少し遅れてから小さな二番館に父親に連れて行かれた。

「アメリカの子供達はこの映画を20回は観てるそうだ」と、どこで仕入れた情報かはわからないが、父親は僕達兄弟に解説してくれた。なるほどアメリカの子供は20回観るほど豊かな生活を送っているのかと子供心に感心したが、そんな都市伝説が噂される革命的な作品だった。

 

作中でのあまりにも有名な 黒澤映画へのオマージュ

タイトルの宇宙空間から度肝を抜かれた。「遠い昔、遙か彼方の銀河系で…」と始まる宇宙戦争史の講釈が、一度聞いたら忘れられないジョン・ウィリアムズの軽快なテーマ曲に乗せて延々と続く。講釈が終わるやいなや超巨大宇宙戦艦「スター・デストロイヤー」が画面を覆い尽くす。11年生きてきた中で見たこともない、宇宙空間と精巧な宇宙戦艦の登場でハートを鷲掴みにされた。

帝国軍に囚われるプリンセス・レイア姫にキャリー・フィッシャー。オーディションでジョディ・フォスターに競り勝って大役をゲットし、スターシップの万能整備用ロボットのR2-D2と600万語の銀河系言語の通訳万能ロボットC3-POがレイア姫にからメッセージを託され、砂漠の惑星に脱出する。このアンドロイドのやりとりが傑作で最初の20分はこの2台が主役だ。

監督のジョージ・ルーカスは黒澤明監督の大ファンで、この凸凹ドロイドは『隠し砦の三悪人』の百姓、太平(千秋 実)と又八(藤原釜足)の名演技のオマージュであることはあまりにも有名な逸話だ。

砂漠の惑星に太陽が2つあったりする表現が従来のSF映画と違うところで、ニヤリとしてしまう。砂漠の原住生物に捕われ、市場に売り出されてしまうR2とC3。彼らを買ったのがメカいじりが得意な青年主人公、ルーク・スカイウォーカーだ。ルーク役には映画初出演のマーク・ハミルが大抜擢。こうして42年にわたる物語が動き出す。

市場の様々な異星人達の造詣もユニークでキメが細かい。その多様性の表現は正に人種のアメリカそのもので、僕が初めてLAに行った時に乗った列車内が『スター・ウォーズ』の世界だなと感じた。

R2に内蔵されたレイア姫からのメッセージ「助けてオビ=ワン・ケノービ」を目にして、近所に住む老人がそのオビワンであることを知る。かつての帝国軍と闘った伝説のジェダイ騎士を演じるのがイギリスの名優、サー・アレック・ギネス。

『戦場にかける橋』のニコルソン大佐を11歳の僕は観ていたので知っていた。この作品の格調を高めてくれる。素晴らしいオビ=ワン・ケノービ役にもかかわらず、アレック・ギネスは『スター・ウォーズ』出演について生涯悔やんだそうだ。世界中から送られてきたファンレターを一通も目を通すことなくこの世を去ったとは、驚きだ。

 

 

この映画にはバディムービーの要素が3倍盛り込まれている

帝国軍の最終破壊兵器「デス・スター」完成の阻止と破壊のミッションをレイア姫からのメッセージで知るルークとオビ=ワン。この「デス・スター」はテスト段階で軽く惑星を吹っ飛ばすほどの破壊力を持つ。「デス・スター」を指揮するターキン総督役にピーター・カッシング。ドラキュラ映画の名優も11歳の僕は既に知っていて嬉しかった。そして、総督に仕える暗黒の騎士ダース・ベイダー卿の登場に震えた。ジョン・ウィリアムズの帝国軍のテーマと共に登場する。

オビ=ワンからルークの亡き父、アナキン・スカイウォーカーもオビ=ワンを超えるジェダイ騎士だったことを知らされる。オビ=ワンを師としてジェダイ騎士を目指す決意をするルーク。

宇宙酒場で雇った密輸業者、ハン・ソロと相棒のウーキー族の戦士チューバッカの操る光速艇「ミレニアム・ファルコン号」で宇宙へ。ハンソロにはハリソン・フォード。ルーカス監督作品には『アメリカン・グラフィティ』で出演している。オーディション会場でたまたまバイトの大工仕事していたという嘘か真かの逸話もある。

この映画にはバディ(相棒)ムービーの要素がR2とC3、ルークとレイア姫、ハンソロとチューバッカ、と3倍盛り込まれており、会話が楽しい。正規の兵士ではないルーク、お訪ね者のハンソロ、チューバッカの活躍が楽しい。

敵の要塞「デス・スター」に潜り込み、破壊工作をするプロットは、ハリウッドお得意の戦争映画の醍醐味が詰め込まれている。敵の兵士に化けて潜入する、あえて捕虜になりそこから内部を探るなどハラハラ場面が巧みに考えられている。最強要塞の弱点に決死隊が挑む。映画のクライマックスに僕は酔いしれ興奮し歓喜した。

 

 

最大の衝撃だった ライトセーバー

僕の最大の驚きは、ライトセイバーの登場だった。ジェダイの騎士が武器として駆使する光刃。オビ=ワン・ケノービとダース・ベイダーの一騎打ちが思い出深い。ライトセーバーを観てしまったボンクラ小学生たちが蛍光灯を持ってチャンバラをしている光景を何度も僕は目撃している。ここにも黒澤映画からの影響が。ルーカス監督はオビ=ワン役に三船敏郎にオファーして断られている。

効果音も含めて光刃が伸びる瞬間は革命的だった。精巧なミニチュア撮影を駆使した特殊撮影はSFXと呼ばれ、これ以降の何本ものSF映画企画実現に拍車をかけた。

ルーカス監督は4年おきの続編を約束どおり撮影し、中学では母と、高校では友人と僕は劇場に駆けつけた。時代の変遷はフィルムからデジタル、CGの発達。9本目はIMAX、3Dで。42年かけて役を演じた俳優に感動を覚えながらも、11歳の時に観た一本目の興奮は格別だったことを自覚できた。映画技術は日々向上し続けている。これからも『スター・ウォーズ』は進化した新シリーズが創られるだろう。僕の『スター・ウォーズ』はこれで終わりだなと、52歳の大晦日の歌舞伎町を歩きながら呟いてみた。

 

 

VIDEOSALON 2020年2月号より転載