動画配信スタジオ 運営日誌 第15回 有料イベントを無料で配信するための 情報格差デザイン


第15回 有料イベントを無料で配信するための 情報格差デザイン

写真・文◉川井拓也(ヒマナイヌ)

 

無料でライブ配信している 有料イベントに人は来る?

もしも入場料3000円のセミナーイベントが無料で全編ライブ配信されることがわかっていたら、人はお金を払ってそこへ行くのでしょうか? イベント会場で行われるのがセミナーだけの場合はライブ配信だけでも充分かもしれません。でもセミナー終わりに懇親会があったり、ミートアップがついていたりすると話は変わってきます。セミナー情報を入手するためだけではなく人と出会うためにイベント会場に行く意味が出てくるからです。

では、セミナー講師の立場ではどうでしょうか? いつも有料セミナーで使っているスライドが無料でライブ配信されてしまうとネタバレになってしまい困ります。でもスタジオ側としてはライブ配信をしてもらったほうが広報にもなってありがたいわけです。この参加者、講師、スタジオ側で異なる利害関係は「情報格差デザイン」により解決できます。

 

お金を払って参加している 参加者を最優先とする!

まずスタジオ内での情報表示はどのようにするのかを定義します。「ヒマナイヌスタジオ高円寺店」の場合は、3面スクリーンがあるのでここにスライドを表示します。会場のどの場所から見てもスライドの細かい文字まで鮮明に見えます。講師の声はマイクを通して拡声され、クリアな音で聞けて、懇親会では名刺交換や質問もできます。

次にライブ配信に情報格差をつけてデザインします。ひとつ目は講師の表情と音声は配信してもスライドを表示しないというもの。身振り手振りも含めて講師の魅力が伝わりますが、言及しているスライドが見えないので、フラストレーションがたまり現地で見たいという気持ちを促します。2つ目は最初の30分以降は音声がミュートされるというもの。どちらもその場所で行われているセミナーの熱気は伝わりますが、情報は大幅にカットされています。

会場キャパは20人でもライブ配信によりそのセミナーが開催されていることは一晩で500人から1000人に拡散されます。セミナー講師の顔がライブ配信によってその場に来ていない人にも知られるきっかけになり、スタジオとしても活気ある状態を映像として配信できます。お金を払って会場に来ている人も現地でしか聞けない話が聞けて三方良しとなります。

設備やカメラ位置をシミュレーション

▲会場のサイネージにはスライドを表示しているが、ライブ配信では生カメの表情だけにするタイプ

▲ワイプを使って4:3のスライドと生カメの絵を合成して録画するタイプ

 

2段スイッチャーのPGMを録画と配信で使い分ける!

この情報格差デザインの方法はシンプルです。4台の生カメをV-60HDで自動スイッチングしたPGM(プログラム出力)をV-02HDに入れてパソコンのスライドを随時割り込ませて最終段のPGMを作ります。

V-02HDのPGM映像はマルチカメラとスライドが任意のタイミングでスイッチングされた映像となります。ライブ配信はV-60HDのPGMを使えばスライドがないカメラだけの映像になりますし、V-02HDのPGMを配信エンコーダーで音声ミュートすれば映像だけの配信になります。

 

情報格差のデザインを 応用して「見えるラジオ」 な番組を作ってみる!

この生カメの自動スイッチングとスライドのみの映像を別々に出力できる情報格差デザインをポッドキャストに応用する実験もしてみました。メインのチャンネルではタイトルだけのスライド1枚にラジオ的な音声がつくだけのものを配信します。サブチャンネルでは同じ音声に自動スイッチングのマルチカメラ映像をつけて「見えるラジオ版」として配信します。

「見えるラジオ」は1994年にはじまったFM電波を使った文字多重放送で専用の受信機を使うことでFMで流れている音楽の曲名が液晶に表示されるというものでした。今回はラジオなのに映像が見えるということを表現するために懐かしいフレーズとして引用させてもらいました。

実際やってみると、音声の内容は同じなのに「見えるラジオ版」のほうが倍以上のアクセスを集めました。何かをやりながらなら音声のみ配信、表情を見てより話の内容を楽しむなら「見えるラジオ版」というように同じコンテンツでも情報格差をつけるだけでまだまだ面白い試みができそうです!

 

設備やカメラ位置をシミュレーション

▲ポッドキャスト型で静止画と音声を組み合わせて配信するタイプ

▲ポッドキャスト型で静止画と音声を組み合わせて配信するタイプ

次回は対談動画のアーカイブをAIでテキスト起こし! ワープロで文字を編集するような感覚で映像を編集する次世代ワークフローをご紹介します。

 

ビデオSALON2019年10月号より転載