第13回 自動スイッチングスタジオの料金体系

写真・文◉川井拓也(ヒマナイヌ)

 

美容室に行く程度の価格で個人が利用できるスタジオにしたい!

ヒマナイヌスタジオでは、せっかくコロンブスの卵的な発想で自動スイッチングによる無人マルチカメラ収録を実現したのですから、なるべく安い価格でサービス提供したいと考えました。使用機材を一般的なレンタル価格をベースに見積っていくと1回11万円程度になります。法人向けの料金はこれを基本とすることにしました。

しかし個人にとって1回11万は気軽な価格とは言えません。情熱あふれる「伝えたいことがある個人」にはもっと気軽に利用してもらいたい。2時間1万円程度で提供出来ないだろうか? そう考えてサービスメニューを作っていくことにしました。こうして完成したのが現在の料金表です。

ヒマナイヌスタジオの料金表

▲2018年5月時点の料金表。1日をA〜Dの4パートに分けて貸出。

▲2019年6月からの料金表。利用増加に伴い、1枠増やして5パートで貸出。

スタジオの利用規定

1枠の規定・・・1枠は準備に30分。番組を1時間収録&配信し、動画コピーなどの作業に30分の合計2時間。

個人利用・・・個人利用(非商用)は個人やNPOやサークルなどが対談番組を収録、配信するためのコース。スタジオには観覧者を呼び、参加費を徴収することもできる。収録した動画を販売する場合は法人利用になる。

法人利用・・・法人利用(商用)は企業が対談やインタビュー動画、eラーニング動画を収録するコース。収録した動画を販売したり、課金コンテンツにできる。スタジオに観覧者を呼び、参加費の徴収も可能。

 

最初は1時間3000円からスタート!

とはいえ通常の撮影スタジオは案件ごとに美術、背景はもちろんカメラの位置も自由に設定できるものです。ヒマナイヌスタジオは『対談と鼎談』に特化しており、セットも機材も常設で指定した座り位置以外では収録できません。「これが市場に受け入れられるのか? ニーズがあるのか?」は当初全然わかりませんでした。まずは『対談』というスタイルを多くの人に体験してもらい市場ニーズを広げていく必要があると考え、1時間3000円からスタートさせました。

1枠2時間で6000円ですから1日にある4枠がすべて埋まったとしても24000円にしかなりません。ビジネス的には成立しないのですが、まずは興味を持ってもらうことが大切と考え、自分がホスト役となり気のおけない知人と呑みながら話す「動く人間図鑑」というライブ番組を不定期で配信していきました。すると徐々にスタジオの問い合わせが増えてきたのです。

 

このシステム、 自分が考えてた以上に 汎用性があるのかも?

2017年の5月に「ヒマナイヌスタジオ」という名称でサービスを提供しはじめました。最初の1年はチラホラとしか入っていなかった予約が2018年の9月頃から急に入り増え始めました。個人の対談番組に加え、企業系の座談会やeラーニングコンテンツの収録、アプリケーションのTIPS番組まで『対談』という形式をベースにしながらも幅広いコンテンツが生まれ始めたのです。

「そうか! これは対談というよりは機材も美術セットもすべて備え付けてあり、身一つでスタジオ入りして30分後にはライブ配信できるという気軽さが受け入れられているんだな!」と実感するようになりました。

当初は「場末のスナック」で呑みながらの対談配信というコンセプトで美術セットを作り込んでいたのですが、企業利用が増えてきたので「ライブラリーカフェ」にコンセプトを変更し、ブラックを基調にした落ち着いたトーンにリニューアルしました。ポスターやチラシなどの販促物を画面に配置したいというカスタマイズの要求に応えるために本棚型の背景セットを加えました。

 

利用のニーズに合わせて、美術セットもリニューアル

▲当初は「場末のスナック」を意識したセット。

▲企業利用が増えたこともあり「ライブラリーカフェ」をイメージしたセットに。

 

 

料金はシーズンごとに 改定しながら 適正価格に近づけていく!

こうして1時間3000円からはじまったヒマナイヌスタジオは予約状況を見ながらシーズンごとに料金を改定していきました。基本料金は値上げしていくのですが、同時に割引メニューも増やしていきました。はじめて使う人に優しい「はじめて割」を設定する一方で何度も使ってくれる人向けに「レギュラー割」も設定。半年以内に同一シリーズで4回配信してくれた場合は5回目を無料にしました。この考え方をさらに発展させてサブスクリプションモデルの「月額定額制」も導入し、好評を得ています。こうして常に複数のレギュラー番組が走るようにシステムを最適化することで稼働率は飛躍的に高まりました。これを受けて平成が終わる段階で出張配信を廃業しスタジオ運営のみにフォーカスすることを決めて、今に至ります。

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次回はスタジオの機能はそのままに保健所の飲食許可を取得する流れについて解説します。

 

ビデオSALON2019年8月号より転載