文・作例 ナカドウガ
TV番組のオンラインエディターを経て、日本で唯一のテロップ漫談家を自称しながら、テロップについてのノウハウを発信している。

テロップを専門で作る職業があります。そうした人たちは常に文字と文字の隙間を整えることにこだわっています。表には見えてこない繊細な手作業があるからこそ、クオリティの高いテロップを作ることができるのです。今回は文字を整えてすっきり見せる方法を学んでいきましょう。

 

×失敗例がイマイチな理由
①文字の間隔が整っていない
②行間が狭すぎて読みづらくなっている
③全体的に右に偏っている

○こうやって改善
数値ではなく、見た目を根拠にして整列させた。

 

 

テロップを整列させる時に注目したい3つのポイント

極端なことを言ってしまうと、ただ文字を表示させるばかりでは文字の羅列にしか見えず、積極的に意味をくみ取ろうという意欲につながりません。そこで以下のような3つのポイントを意識して整えていく必要があります。

 

POINT 01   文字間の整列

文字間の調整が1番シビアです。ここをおろそかにしてしまうと、視聴者の集中力の低下を招きます。なぜでしょうか。視聴者は文字を読んでいるのではなく、単語だけをフワッと拾って、文章を脳内補完しながら映像を見ています。文字間がバラバラで単語の拾い読みがスムーズにできない場合、その都度文章をじっくり読んで意味をたどらないといけません。その結果視聴を続けるほどにストレスを感じ、それが集中力の低下につながるのです。

CHECK! 離れすぎいていると『一連の単語・文章として認識しにくい

たとえばガヤガヤとうるさい場所では会話に集中できないことがありませんか。ちゃんと話をしたいときは落ち着いた場所に移動したくなりますよね。テロップも同じように、整っているほうが落ち着いて味わうことができます。ただ、これでは完全ではなく、もうひとつの側面も考える必要があります。

 

 

CHECK!ひらがなが単語をまたいで続くと『単語・文章の区切りが分からない』

長い文章になると「ひらがな」が単語をまたいで連続するケースが出てきます。たとえば以下の状況を見てみましょう。ビフォーは、ひらがなの羅列が続き、どこで区切るのかは、文章を読んで意味を理解しないと判断できません。一方アフターは、単語ごとに間隔を空けてまとまりを作っており、自然と区切りごとに意味を読み取ることができます。

実はテロップでは句読点を使うことがあまり一般的ではありません。その代わり、単語やキリのいい文章で区切ることで短い表示時間の中でも無駄なく伝えることができます。こうした工夫があるかどうかで、テロップのクオリティは大きく変わってくるのです。

 

 

POINT 02    行間の整列

もし行間が広すぎる場合、1行目と2行目が連続した文章なのかどうか、視覚的に判断しにくくなります。解釈に誤解を招くほか、極端な場合は横書きの文章を縦に読んでしまったりと、思わぬ弊害が出てきます。さらに行間を広くとると、全体を占めるテロップの表示範囲が広くなるので、映像の邪魔をしてしまうという問題も起きてしまいます。

 

POINT 03   全体のバランス

続いては、何を基準にしてレイアウトするのかについて考えていきます。そもそもテロップの役割とは「情報の補足」なので、メインとなる映像や要素を基準にする必要があります。ここでは棒グラフをメインの要素として考えます。

 

 

 

CHECK!    余白の役割とは何か

余白は必要のない隙間ではありません。テロップを見やすく整理するために必要な隙間です。充分に余白をとることで、テロップの使い分けが明確になったり、直感的に意味が分かるようになるのです。たとえば以下のようものを比べてみましょう。どちらが見やすいでしょうか? これは考えるまでもなく、下側のほうが見やすいと言えます。このように十分な余白を作ることで、情報を仕分けすることができ、それが見やすさにつながっているのです。


 

 

テロップにおけるふたつの余白とは

ここからはテロップに関わる余白の種類を見ていきましょう。大きく分けてふたつあります。ひとつ目は先に確認した、テロップをひとつのかたまりとして捉えた時の余白です。

CHECK!    テロップごとの余白

やはりテロップごとに余白がある方が、情報を区別しやすくなっています。考えもなくぎっしり詰め込んでしまうというのは悪手であり、しっかりと余白を設ける方が見やすくなるのです。

 

CHECK!    ベースとの余白

ベース付きテロップの場合、文字とベースとのバランスも考えなくてはいけません。まずはベースに対して上下左右が均等になるように配置するのが基本。このバランスが崩れていると、見にくさの原因になります。下の2つの画像を見て、瞬時に違和感に気づけるようになれば、かなりの腕前だと言えます。こうした審美眼も鍛えておきましょう。

 

CHECK!    余白の量を変えて、テロップの存在感を自在に操る

そして余白の効果はこれだけではありません。余白の量によって、テロップの存在感や印象をコントロールできるのです。「旅」を思わせるテロップを例にして3通りの違いを見ましょう。

まずはオーソドックスなもの。この余白を変えた時、印象はどう変わるのでしょうか。

 

軽やかな雰囲気になりました。旅への期待感を持たせるには、余白を広めにとるほうが効果的です。

 

あえてはみ出すことで、勢いを感じさせることができます。状況によってうまく使い分けましょう。

 

 

今回のまとめ

デザインはメンドクサイ。それでも細かいところまで手を加えることで、それがプロの仕事として成立するのです。これを「神は細部に宿る」と言い、デザイナーのあこがれでもあります。もっとも僕は細部に神が宿った状況を見たことはなく、その代わりツバメの巣が軒先に宿っているのを見たことがあるばかりです。

 

 

 

VIDEO SALON 2022年12月号より転載