市川 稜

1996年東京都生まれ。映像作家、VJ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。ULTRA JAPAN、Nulbarich、水曜日のカンパネラのVJやハウステンボス、ジャンボジェットへのプロジェクションマッピングをはじめ、ジャニーズのMVやサカナクションの映像、インスタレーションの制作など多角的に活動する。

WEB●http://www.koe-inc.com/ryo-ichikawa/

文●松岡佳枝/現場写真提供●市川 稜

 

YOTOWN 『dive』MV

早稲田大学のインディーズロックバンド・YOTOWNのMV。映画のエンドロールを思わせる構成で、カメラはRED EPIC-Wを使用。フィルムならではのグレインと柔らかいトーンを再現した。

 

 

サカナクションLIVE Blu-ray、DVD「SAKANAQUARIUM2017 10th ANNIVERSARY 〜」 special movie

サカナクションがメジャーデビュー10周年を記念して開催したライブを収めたBD/DVDボックスのスペシャルムービー。「ライブ会場である幕張の海をくり抜く」を視覚化したコンセプチュアルな内容。

 

VJの経験を生かした エフェクティブな映像

武蔵野美術大学在学時には平面のデザインを学んでいたという市川 稜さん。在学中にVJを経験したこともあり、エフェクティブで個性豊かな作品制作を行なっている。

「大学在学中、先輩にクラブに連れて行ってもらい、以前から興味があったこともあってVJを始めたのが映像を始めたきっかけですね。VJをやっていると映像を作れる人なんだと思われがちで(笑)。ミュージックビデオを作れるか訊ねられたとき、やったこともないのにやってみたいという気持ちだけで始めたんです。そこからモーショングラフィックやCGも含め、自分で映像を作るようになりました」

市川さんはクマ財団※の三期生でもある。

「知人が紹介してくれて応募しました。奨学金を受けられるのも大きかったですね。クマ財団には日本画や漆を塗るような日本の伝統工芸的なクリエイターもいて、さまざまな出会いがあってすごく面白かったです。年に二度合宿があって、お互いにいま何をしているのかを話す機会があるんですが、すごく刺激を受けました」

視覚効果に凝った作品も多く、これはVJの経験があってこそなのか伺ってみた。

「実写表現だけでは生み出せないエフェクティブな視覚効果を音に合わせて出していけるのはVJのメリットだと思います。ただ、いま気持ちいいと思う映像をはめ込んでいくのでロックやポップのMVのようにストーリー性のあるものではありません。最初から起承転結の『結』に向かって映像を作るわけではないので、そのあたりの構成力のようなものはVJでは培われにくい点かもしれませんね」

※コロプラの代表取締役社長・馬場功淳氏が設立した学生クリエイターの支援と育成のための公益財団法人。

 

 

表現だけでなく企画にも挑戦したい

そんな市川さんが大きく影響を受けたのはサカナクションだそう。

「自分のなかに好きなもののベースがありすぎると自分の表現がしにくいという側面があると感じていて、普段はめったにこんなことはないのですが、実は一週間サカナクションに密着して映像を作るという機会があったんです。ずっと緊張していて挨拶もまともにできないくらいでした!(笑)。いまようやく自分自身のノウハウや個性のようなものが見えてきて、今後はCMにも挑戦してみたいし、“表現”だけでなく企画そのものを自分で立てられるようになりたいですね」

 

色の無限性を追求

高校の頃からスチルも始めており、フィルムカメラはNikon F3を使っているという市川さん。

「MVを撮ってジャケット写真も撮ってと両方できると幅が広がると思うし、限られた色数のデジタルのなかでフィルムの色に寄せて、『これってデジタルなんだ!』と思わせるような色の無限性を追求していきたいです」

 

●最近主に使う機材リスト

 

●撮影現場の模様

▲クラブでのVJの模様。市川さんは大学在学中にVJから映像制作のキャリアをスタート。在学中から仕事としてVJやMV、ライブ撮影などの業務を手がけていた。

▲直近のMV撮影の模様。17歳の高校生シンガーソングライター・琴音の「白く塗りつぶせ」MVは10月末頃に公開予定。今回の撮影ではMVに加えて、ジャケット写真の撮影も同時に行なったという。

 

●グレーディングを突き詰めるためREDを自前で購入

動画はα7S Ⅱ、写真はEOS 5DMKⅣを使い分ける。大きな撮影ではFS7をレンタルしていたが、よりグレーディング耐性の高いRED EPIC-W(8K Heliumセンサー)を最近購入。

 

ビデオSALON2019年11月号より転載