イチから学ぶWEB動画広告 Vol.4「広告の目的を明確化して動画の企画を考える」



久松慎一+ 株式会社援軍

 

Vol.4 広告の目的を明確化して動画の企画を考える

広告の目的に応じて出稿するプラットフォームや広告メニュー(タイプ)を選び、それに沿った企画を考えましょう。

前々号、前号と各SNSの動画広告のメニューをご紹介してきました。サービスごとに、サービス自体にもユーザにも広告メニューにも特徴がありましたね。2回で取り上げきれなかったサービスにも面白い広告メニューを持ったサービスが多数あります(例:Tiktok)。

ユーザ数や滞在時間だけで計れない、それぞれの魅力をうまく捉えることで、自社の広告に効くメディアが見えてきます。とは言っても、ある程度の規模になってくると1つのサービスにのみ広告を出すと言うことは稀で、複数のメディアに出稿し、その良いバランスを考えていくことになります。

今回は、WEB広告動画の制作、特に企画について考えてみたいと思います。

 

制作側の企画の軸をもとう

運用型広告は多くの場合、オークション形式になるので「とにかく出してみる」という方法では、競合や他業種の多くのプレイヤーと競ることになり、費用対効果がとても悪い、非効率な運用になってしまいます。

動画の企画と運用ポリシーがずれていては効果も望めませんし、お金を払ってユーザに退屈を強いてしまうことになります。その意味でも、企画と運用は広告の両足と言えます。お互いを観察、補完しながら歩んでいくのが広告の効果を出すために必須です。そのためにも、動画の制作者と広告運用者は、日頃からコミュニケーションを取ってゴールを共有し、意見を交わしながら進めましょう。

広告の企画は「誰に」、「どのタイミングで」、「何を」伝えて「どのようになってもらいたいか」ということを強く意識して他のプレイヤーと差別化を図ります。これらの中で「誰に」「何を伝えるか」、そして「どのようになってもらいたいか」は制作側の軸となります。

 

 

マーケティングのステップ

広告の目的はユーザーが自社・商品との関わりが薄いほうから

という形で分類されます(マーケティングや広告の話をすると必ず目にするあのファネルですね)。

上から下に、だんだんと“濃い”見込み客となります。

広告や体験(店舗に来てもらう、WEB上の記事や雑誌などで目にしてもらう)などを通してユーザを“濃く”することを比喩を用いて「ナーチャリング(育成)」と呼びます。「誰に」はつまり広告のターゲットになりますが、性別や年齢・居住地や年収といったプロファイルのみならず、その人が今、ナーチャリングのどのステップにいるのかということも加味して企画を考えます。

認知はまだ興味を持ってくれていないユーザーに振り向いてもらうわけですから、インパクトのある、ぱっと見でわかりやすい内容で記憶に残るようにするのが王道といえます。

興味喚起、理解のステップでは会社やブランド・商品がユーザとどのように関わり、ユーザーやまわりの人を幸せにするモノなのかを伝えます。

ここでは、「おいしい」「安い」などといった直接的なメリット以外にも、そのメリットが副次的にどのような影響をもたらすのかも訴求することでユーザーの琴線を刺激することも有効です。

例えば食洗機。「食器洗いの手間が省ける」「節水になる」「シンクに食べた後の食器を積んでしまうのを見る憂鬱さを解消する」という直接的なメリットとあわせて、食事の後の食器洗いの時間が浮くことで家族団らんの時間が増える、趣味に時間を使える、子供に本を読んであげられる、またホームパーティーでおもてなしができる、というライフスタイルの変化なども伝えられます。

これによって、「食器洗いは確かに少し面倒だけれどわざわざ新しいものを買うほどではない」と考えている主婦(夫)に“刺さる”広告となるかもしれません。

興味を持ち、「いいかも」と思ってくれたユーザーには、購入・申し込み・来店などの実際の行動に移してもらうためのに、優しく肩を押すのも広告の役割です。購入者・体験者の声やアンケートデータなどの活用も友好的です。「(いつか)買いたい」(と思っていると多くのモノは時間とともに熱が冷めて購入に至らなかったりするんですよね……)から「今、買いたい」と思ってもらうために「今なら何%ト割引」「今だけの限定色」といったキャンペーンなどと組み合わせた訴求も効果的です。

 

自社の特徴を見つける

広告で、他者と同じアピールをしても当然効果は限定的です。

世の中に生まれてきたまったく新しいもので、これからマーケットを作る段階であれば、とにかく「新しいものがある」ことを伝えることもあります(仮想通貨が話題になりだしたときに、取引所などが“とにかくなんでもいいから目立つように”広告を出してましたね)。

しかし、ある程度成熟してきた市場においては「便利です」「おいしいです」とアピールしても、他者と区別がつかず、コンバージョンに繋がりにくいです。数ある類似商品・サービスの中で、なぜ自社の商品やサービスを選ぶべきなのか、しっかりとユーザーに伝えます。

そのためには自社や商品をみつめて理解すると同時に、競合となる会社・商品の研究も欠かせません。自分と他者を共に理解する中で、自社の強み、ユーザーのメリットを広告に込めます。

競合調査はマーケティング会社や調査会社に依頼することで大規模かつ詳細な調査をすることができる場合があります。しかし、大きなコストや時間がかかることがほとんどです。

同業他者がWEBなどで発信している情報を収集するなど、自社内でも調査を進めることができます。実際に競合商品を購入して使ってみる、分析してみるなどその業界のプロフェッショナルだからこそ、わかる気づきもあります。

自社での分析に調査会社の調査を組み合わせて考察を補強することも有効です。

また、市場全体の傾向などを把握するにはマーケティングのために作られた白書も有効です。

政府や地方自治体が出しているものや民間の企業が出しているもの(インプレスグループのインターネット白書など)が役に立ちます。

自社・競合・マーケット全体を一歩引いた目で見てみることで、自社の特徴が見えてきます。

商品自体が競合と比べて大きな特徴がなかったとしても、競合がアピールしておらず、ユーザに刺さるポイントを見つけられるはずです。競合が価格や性能で訴求していたら自社は(たとえ大きな差があるわけではない場合であっても)使い勝手やライフスタイルの中の位置づけを変える提案をするなど。

これこそ、動画の得意な分野です。数字に表されるようなスペックやテキスト、静止画で伝えられないことも、動画と音声であれば利用するイメージや世界観をゆたかに伝えることができるかもしれません。

競合調査を進めている中で自社の強みとあわせ他社の弱みも見えてきます。

しかし、広告の中で他社商品を具体的に挙げて(もしくは容易に推測できるようにして)ネガティブに表現するのは“禁じ手”です。場合によっては誹謗中傷と捉えられてしまい、炎上、もしくは訴訟などの問題に繋がる可能性があります。多くのサービスの規約でもNGとされています。

 

だいたいの動画の尺を決める

自己分析と競合分析をして、「はい、では動画の構成を考えましょう」といきなり校正表を書き始められるわけではありませんね。

どれくらいの尺(長さ)の動画を制作するのかを決めると、具体的に考えやすくなります。

そこで必要になってくるのが前々号、前号でご紹介した動画広告のメニューです。動画広告のメニューと動画の目的を照らし合わせて尺を考えます。

例えばまだあまり世に出ていない商品の認知を獲得する目的の場合はYouTubeのバンパー広告が有効です。6秒間の短い動画しか流せないのですが、視聴者が途中でスキップすることができないので、最後まで見てもらえる前提で構成を考えられます。出稿単価も基本的に安いので広く告知をすることができます。短い時間の中でインパクトを与えてとにかく覚えてもらうにはどうしたら良いだろう、と考えます。

バンパー以外のインストリーム広告に長さの制限はありませんが、1つの基準として、だいたい15秒くらいでまとめるのが良いと思います(テレビCMも一般的に15秒です)。長いと視聴者から飽きられてかえってネガティブな印象を持たれてしまいます。逆に言えば、長くても退屈せずに見てもらえる動画を作ることができれば長くても問題ありません。YouTubeは12秒以上3分以内を推奨しています。

最初5秒を過ぎると視聴者がスキップすることができます。最初の5秒でメリットをしっかりと伝えたり「おや?」と思う仕掛けをしておいてテンポ良く、”ついつい最後まで見てしまった”という動画が作れたら勝ちです。

YouTubeのメニューを例に挙げましたが、出稿したいと考えているSNSの特性に合わせて考えてみてください。

 

見てもらうための工夫は企画から

例えばTwitterは、とにかく視聴者の情報の取捨選択が速く、スマホ画面を常にスワイプしてスクロールさせながら目にとまった情報だけ拾い上げられます(ストリームとはうまい名前を付けたモノで、本当にコンテンツが目の前を流れていっているっているようです)。とにかく最初の0.5秒で「つかみ」をいれて興味を持ってもらえなければ、記憶にも残 りません。肉食獣のような動体視力に訴える作りが必要です。

そうはいってもSNSにおいては一般ユーザーのコンテンツ、プロの制作したコンテンツなど、1日張り付いていも見切れないほどのコンテンツの中において、多くの場合視聴者が見たいと思ったわけではない広告動画で視聴者に会社や商品の良い印象を与え、記憶に残してもらうのはとても大変です。その時々の時事ネタや流行りに乗ってみる、というのもひとつのヒントになります。

2020年春、コロナ禍の自粛期間には鬱屈とした社会の雰囲気を和らげようと、多くの企業が動画広告を展開しました。

ヘアケア商品ブランドのパンテーンは以前から継続している#HairWeGoキャンペーンの流れの中で“髪を変えて気持ちを前向きにしよう”という動画広告で自宅でできる気分転換を提案し、自粛が明けた後への希望の気持ちを喚起しました。

 

#HairWeGo 「今はおうちで、#部屋WeGo 」PANTENE (パンテーン)

コロナ禍のステイホームをしている人々に刺さる内容の動画を配信したPANTENE(P&G ジャパン)

時流に乗る、というのは簡単なようですが、企画や制作のスピードも求められますし、動画制作の基礎体力が求められます。

日々の制作の中で、ひとつの選択肢として考えて頂ければと思います。

 

今回のまとめ!

自社分析や競合分析を通して、広告の目的を明確化。視聴者に飽きられない動画広告を企画しましょう。

時事的な流れに乗って制作するのも方法のひとつです。検索ボリュームなどの他にSNSのトレンドのタグやソーシャルブックマークもヒントになります。

 

今月のTIPS

世間の注目を集めるコンテンツの盛り上がりを確認する

今年は『鬼滅の刃』や『半沢直樹』など話題となったドラマや映画が生まれた年となりました。そこで現在映画公開中の『鬼滅の刃』や生放送でも話題となった『半沢直樹』について調べてみます。

『鬼滅の刃』(著:吾峠呼世晴・集英社)

日曜劇場『半沢直樹』(TBSテレビ)

 

市場調査のワンポイントアドバイス
キーワードプランナーを活用する

まずはGoogleトレンドで『鬼滅の刃』と『半沢直樹』のキーワードを確認してみると、ドラマや映画が放送されたタイミングで急激にこのふたつの単語が検索されていたことがわかります。

▲Googleトレンドの結果(上:『鬼滅の刃』下:『半沢直樹』)

では、ユーザーはどんなことを知りたいのでしょうか。知る方法として、前回お伝えしたYahoo!リアルタイムの機能を使って生の声を知るほかに、「キーワードプランナー」というGoogle広告の機能を使い実際に検索されたキーワードを知る方法もあります。

 キーワードプランナーはGoogle検索面において検索されていたキーワードを確認することのほか、それぞれのキーワードの検索ボリュームを把握することもできます。

『鬼滅の刃』は検索される方の多くは、ネタバレなどの検索から原作について詳細を知りたいことが伺えます。また炭治郎・禰豆子といったキャラに注目している方が多いのも特徴。『半沢直樹』も同様にネタバレなどの検索からドラマの話の続きを知りたいことや、ドラマの名シーンの1つである土下座を見たいといったニーズが高いことも伺えます。


▲キーワードプランナーの結果(『鬼滅の刃』検索キーワード)


▲キーワードプランナーの結果(『半沢直樹』検索キーワード)

 

 

VIDEOSALON 2020年12月号より転載

vsw