vol.4「空撮のオキテ〜前編」
文●野口克也(HEXaMedia)
空撮ってなんだろう?
空撮=(英語:Aerial Shoot)とは航空機(飛行機・ヘリコプター)等から撮影する写真・ムービーのこと。写真のことを空中写真ともいう。 空撮は、ダイナミックさを演出できることもあり、映画やCM、またヘリコプターを利用する機動性から報道での使用が頻繁に行われている(出典:ウィキペディア)。
つまり、カメラが地上から離れた状態で映像や写真を撮ることが空撮となるわけです。自分がカメラを持って飛んで撮る、もしくはカメラだけを飛ばして撮る、そのすべてが空撮。航空写真家・空撮カメラマンとして私がこれまで使用してきた空撮機材は、最初は実機ヘリコプター。そして小型飛行機、モーターパラグライダー、ドローンです。現在はヘリコプターとドローンの二つに絞られてきました。私がやっていないことでは凧やバルーンでの撮影などがあります。
さて、そういったどんな道具を使ったとしても、空撮をする上で必ず留意するべきポイント、があります。いうなれば、空撮のオキテ。それは…
撮影機材を意識させないこと
空撮も含めておよそ撮影というものの基本は、「撮影機材を意識させないこと」が第一です。どんな人がどんなカメラをどんなふうに使って撮っているかなど、カメラに特別な興味がある人以外、観る人にとっては関係のない話。空撮映像であれば、観ている人があたかも空中に浮かんでいる、飛んでいるかのような気持ちにさせることが重要だと思います。
空撮のために飛ばすドローンはいわゆる機械です。乱暴な操縦をすれば、撮られる映像もそのまま機械的に乱暴なものになります。目が追いつかないような高速やカクカク変わる画角、ギュンギュン回る機体…。しかしその映像を見るのは人間ですから、人間の脳の処理能力に沿ったマイルドな撮影方法や速度、角度、方向などを意識していないと、たちまちその空撮映像は人にとって不快なものになります。
空撮の構成要素は多岐に渡る
地上で三脚を立てて映像を撮影した場合、地上におけるカメラの位置は固定されて二次元的となり、撮影映像を構成する要素は、位置(X・Y軸)、画角(パン+チルト+ズーム)+時間(映像尺)の6要素程になります(三脚の高さは空撮に比べるとほぼ地表と考えていいのでZ位置要素は割愛)。
これが空撮となると、構成要素は飛躍的に増えます。ドローンは3次元で自在に動けるので、被写体からの機体の位置(X・Y・Z)をはじめ、ドローンの移動方向(前後進+左右+垂直方向+旋回)と移動の速度、そしてカメラのパン+チルト+ズーム(画角)、映像尺(時間)の11要素が絡んできます(実際はそれ以上、カメラのシャッター速度、絞り、フレームレートなども複雑に要素に入ってきます)。
つまり、ひじょうに自由度の高い撮影方法が可能になってしまうわけです。自由度が高いということは、三脚に据えたカメラではできないことが実際にできてしまうということ。
例えば、「谷の中を左右に振りながら高速で抜けたあとバックして急上昇」とか「旋回しながら上昇しつつ、ズームする」等といった無茶なカメラワークでもできてしまいます。
けれど生身・自力で飛ぶことのできない人間の眼には、そんな自由すぎる映像についていける能力はありません。あっという間に悪酔いしてしまいます。ゆえに、要素の使い方を意図的に制限し、引き算しながら撮影する必要があるのです。
あえて要素を絞る
ドローンという魔法の撮影道具を手に入れて、色々な動きを映像に残したい気持ちはわかります。しかし観る人の立場でいえば、極めて単純化したゆっくりとした映像のほうが受け入れやすいのです。宙返りをするようなFPV※1レーサーの映像などは迫力あるけれど、大画面で長時間は観ていられません。観る人が不快にならないためには、多少ダイナミックさが欠けても、安定した映像を優先したいものです。
空撮に慣れるまでは単純化した動きに留め、動き出しと止めに磨きをかけるほうがカットとして使いやすい映像を撮影できると思います。
※1).FPV(エフ・ピー・ヴィ)とはFirst Person Viewの略。空撮カメラの映像を手元のモニター等で確認する仕組みのこと。ドローンレースではヘッドマウントディスプレイを装着し、カメラ映像のみを頼りにレースを楽しむ人々もいる(航空法の申請が必要)。
まずは単純なカメラワークからはじめよう
【単純な上昇】
対象物からの距離を変えない単純な上昇。上昇に伴って画角内に空が多くなってくるので上昇スピードに合わせてカメラチルト動作。
【単純な前進】
一定のスピードで前進。木々や枝、花などの間を抜けるような絵面にすると、単純な前進でも充分美しい。カメラチルトはゆっくり調整する程度に。
【単純な後進】
対象物から一定のスピードで後進。後ろから対象物が出てくる新鮮さを表現できる。実際には一度前進で撮影した同じルートを後進し、障害物へ衝突するのを避ける。撮影対象物を動画の消失点※2と合わせ、カメラチルト角と同じ角度で遠ざかるとズームアウト的な映像も撮影可能。
※2)遠近法の考え方でどんな平面も遠ざかっていくと点に集中し、やがて消えていくというもの。移動撮影の時にこれを捉えて撮影すると安定して観やすい映像になる。
【単純な回り込み】
被写体を一定の距離で旋回しながら撮影する「ノーズ・イン・サークル」という手法。昔は難易度の高かったこの手法ですが、今では機能として取り入れているドローン※3もあり、容易に撮影できるようになりました。DJI製品ならば手元のプロポ※4につないだスマホやタブレット等で手軽に映像をモニタリングできますので、手動で練習してみるといいでしょう。センタリングや黄金比の維持、撮影対象が画面からはみ出さないようにするための対象物との距離の調整をモニター映像を見ながらできるようになると望ましいと思います。
(次号後編へ続く)
※3)Phantom 3以降にはPoint Of Interestという機能が搭載され手軽に撮影可能。※4)プロポとは送信機(コントローラー)のこと。
●ビデオSALON2016年5月号より転載
http://www.genkosha.co.jp/vs/backnumber/1573.html
●連載をまとめて読む
http://www.genkosha.com/vs/rensai/sorakara/
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★○ 改正航空法概要ポスター
http://www.mlit.go.jp/common/001110369.pdf
★ 「無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール」国交省HP
http://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk10_000003.html
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