vol.41 ドローン撮影の今昔そして未来 前編

文●野口克也(HEXaMedia)

東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/

 

ドローンの映像を見ない日は ないくらいに市民権を獲得した

ここ最近いろいろなTV番組のオンエアを観ても、ドローンによる撮影が入っていない日はないくらい、 撮影機材としてのドローンは市民権を得ました。 マルチコプター型ドローンの歴史はおよそ10年。撮影機材として一般的に認知され、本格的に取り入れられ始めたのはここ3、4年でしょうか? 現在の撮影用ドローンには、どんな歴史があって今に至るのかをドローンを扱っている人が周りに誰もいなかった当初から実践している筆者が少し振り返ってお話ししたいと思います。

 

9年前に出会ったFalcon8が ドローンを始めたきっかけに

筆者のマルチコプターとの出会いは2010年。ドイツのAscending Technologies(現在はマイクロソフトが買収)が、 ハの字に開いたフレームに8つのモーターとペラがついた、 Falcon8というまったく新しい空飛ぶラジコンを出しました。

その機体に当時やっとフルHDが撮れるか撮れないかの小型コンパクトデジカメを載せて撮った映像が、目に入った時でした。それは今から見たらブレブレの映像ですが、 当時としてはまさに画期的。 ホバリングができて、 教会などを寄りで撮った映像は衝撃でした。翌2011年に公開されたスノーカイトの映像は細かいブレもなく、 サーボ制御のジンバルながら、 いまのMavicなどの映像に引けを取らない映像となりました。

欲しい…、これは猛烈に欲しい。当時、ヘリコプター会社で空撮業務を請けて撮影していた私には鮮烈にヒットしました。 思えば、ここがドローンでの撮影に関わる始まりでした。 すぐにそのドイツの会社から輸入した機体を見に行きましたが、 当時の値段はフルセットで400万程度。 おいそれとはそのコストを負担することはできませんでした。

▲筆者が初めて導入したドローン。droidworksのフレームとモーターにMikroKopterのフライトコントローラーを組み合わせた機体。

 

取説もない機体で暗中模索… じゃじゃ馬ならしの日々

それでもちょうどその頃、 自分が創業したヘリコプター会社から追われ、 強制的にフリーになった身としては、ドローン(当時の呼称はマルチコプター)撮影に没頭するしか生きていく道がなく、 様々なドローンを試しました。

当時は出たてのミラーレス一眼が露出などを決めてフルHD撮影をできる最小の機材ということで、 ミラーレス一眼が搭載できるドローンを探し求めました。

調べ尽くして行き当たったのが、 オーストラリアのdroidworxのフレームとモーターを用い、ドイツのMikroKopter社のフライトコントローラーを載せた機体に、サーボジンバルを装着したセットで200万円前後。それがなんとか手に入る範囲のものでした。

それを個人的に輸入し、運用を始めたのが最初の空撮でした。これがまた手を焼いた機体で、まず説明書がない。自力でMikroKopterのページのwikiを解読しながら整備。国内には誰も質問できる人がいませんでした…。

パーツや予備部品は全部個人輸入。サーボ型のジンバルはいくら調整してもキレイに撮れない。挙句の果てに整備中に暴走して、自損大怪我も数回…。じゃじゃ馬ならしに必死な日々でした。 この時期に同じように購入されて苦労された方は、 今から聞くと、 国内に他に数人はいらしたようです。

▲初代機は自力で組み立てた。

 

DJIのS800とジンバルが ゲームチェンジャーに

そんな中、 2012年にいきなりDJIから発売されたのがS800というドローンとブラシレスジンバルのZenmuse Z15でした。 これで撮影された映像は驚愕の安定性で、 ミラーレス一眼・ソニーNEX-7や5、 そしてパナソニックGH3/4、キヤノンEOS 5Dなどそれぞれ専用設計の製品が 次々と発売されました。

また、 機体もGPSを用いて位置検出することでホバリング性能が格段に安定しました。そのGPS制御のおかげでラジコン操縦スキルが低い人でも、ある程度の撮影ができるようになりました。 同年に初めてラジコン操縦での空撮を体験した身としては、 とても助かる方向性の機体でした。

また、バッテリー等までを含めたフルセットでも100万円を少し超えるくらい。大変お求めやすい価格設定もあり、MikroKopter機で袋小路を感じていた私としては飛びつきました。 このDJIの機体は、 その後、 S1000やS900などの発展形へと展開しています。

 

本来2オペ前提の大型機を 1人2オペで

このジンバルは基本的に操縦者とカメラを振る人のいわゆる「2オペ」が主流でした。 ただ、なかなか2人体制で撮影できる機会がなかった筆者は、 首で支える画板の上にプロポを2つ貼り付け、1人で操縦とカメラオペレーションを行う、「一人2オペ」で飛ばすことが多かったものです。 何度かこの誌面上でご紹介している松山城の撮影も、この方式で撮影しています。

▲DJI S800と3軸ブラシレスジンバルZenmuse Z15。大型機では、機体とカメラの操作は2人で操作するのが一般的だが一人で操作していた。

 

DJI Phantomの登場

2012年の末になるとPhantomが発売になります。 世の中に一気にドローン愛好者人口が増えた時期です。筆者は、その初代Phantomは購入しませんでした。 練習機としてDJI F450などは所有していましたし、 そもそも「空撮」をすることが目的でしたので、 ホビーとしてのPhantomにはあまり興味がなかったわけです。

2013年の夏にはGoProが搭載できるDJI製の2軸ブラシレスジンバルが発売になり、 続けてそれが搭載できるPhantom 2。3軸ブラシレスジンバルなどが発売になりました。ここにきて、これは空撮業務にも使えるのか? と検討。

ただし映像の無線伝送システムなどは後付けする必要があり、 それを搭載できる余裕やスペースが少ないこともある上に、 撮影を生業にしている人で積極的に導入した人は多くはありませんでした。

カメラはGoProと3軸ジンバルなどによってかなりキレイに撮影ができるようになってきたもののいかんせん良い伝送システムがない。長距離やきちんとした画像確認ができるシステムは、この後DJIから発売されるLightBridgeシステムの登場まで待たされることになります。

▲Phantom初代機は見送り、GoProと3軸ジンバルが登場したPhantom 2から導入。

 

 

ビデオSALON2019年6月号より転載