vol.42 ドローン撮影の今昔そして未来 後編
文●野口克也(HEXaMedia)
東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/
かつてはカメラ映像のモニタリングに試行錯誤した
前号に引き続き筆者のドローン遍歴についてお話していきましょう。2014年は手探りの年でした。Phantom 2や、GoPro用3軸ジンバルなどが相次いで発売になっていましたが、映像を手元のモニターに飛ばすための使いやすい映像伝送システムがなかったため、ユーザーそれぞれが試行錯誤の末、独自に伝送システムを取り付けるなどして、モニタリング(FPV)できるようにしていました。
そして、当時はまだ航空法の適用がなかった頃でしたから、自由に様々な改造を施し、長距離を伝送できるものや撮影に特化するものなど様々なカスタマイズを行いました。今思えば、この頃が一番楽しい時代だったかもしれません。
カメラ一体型・レンズ交換式のDJI Inspire 1が登場
2015年の初頭にInspire 1が発売されました。当時、エンルート製の機体にGH4用ジンバル・Z15を取り付けて撮影していた私は、映像クオリティ的にはそれなりだったものの機材が大規模すぎて、一人で扱うにはかなりしんどい思いをしていたところでした。
そこに、ハンドリングのしやすいカメラ・ジンバル一体型かつレンズ交換が可能な機体ということで即買いしました。使い始めてみると扱いやすことはもちろん、それよりも安定してカメラ映像をモニタリングできることに感動しました。
今となっては普通の機能ですが、iPad等のタブレット端末を追加購入するだけでモニタリングを実現できるという、それまでの機体から考えたらとてつもなく素晴らしい機能を備えたドローンでした。
また、このクラスでは初めて、機体とカメラの操作を分担できる2人オペレートにも対応する機体であり、マイクロフォーサーズのレンズ互換のDJI開発のカメラがついていて、撮影の幅、レンズ選択の幅、4K正式対応など、撮影に特化した機体でした。
▲ドローン運用を大きく変えたDJI Inspire 1の登場は筆者にとってエポックな出来事だった。
パーソナルユースを拡大した DJI Phantom 3
その後、Inspire 1と同じLightBridgeシステムを搭載し、DJI開発の4Kカメラと3軸ジンバルを搭載したパーソナルモデルのPhantom 3も発売されました。これもPhantomシリーズとしては、タブレットで映像を確認できる最初のモデルでした。本機が発売された頃からドローンのパーソナルユースが爆発的に広まってきたと思います。
また、首相官邸にドローンが落ち、それまで法的に野放しであったドローン業界にも、航空法による法整備が進められ、規制が施行されたのもこの年の12月でした。
障害物検出センサーを搭載したDJI Phantom 4
2016年になるとPhantom 3の次世代機、Phantom 4が発売されました。筆者はPhantom4の発売と同時に、本誌の別冊「ドローン空撮GUIDEBOOK」でも執筆を担当したので、がっつりテストをしました。
カメラ性能的には、前モデルから特段の性能アップがあるわけではありませんでしたが、下方だけだったビジョンセンサーが前方にも追加され、前方の障害物検出機能が搭載されました。ただ急いで発売したこともあってか、それ以外にはPhantom 3からの更新内容が薄く、本格的なアップデートは、Phantom 4 Proになります。
折りたたんで持ち運べる コンパクトドローンMavic Pro
Mavic Proが発売されたときには、衝撃が走りました。それまで、本格的な山登りまでではないにしても、車を降りてからの撮影現場までの徒歩アプローチが長い場合、Phantomを持ち歩くのは難儀なものでした。「コンパクトで、放送品質にも耐えられるドローンがないかなー」と思っていた矢先のことでした。プロポも折りたたみ式、携帯性を追求した形状で、スマートフォンを装着してモニターにするあたり、「わかってるな…」と、思わせるところが多数ありました。
まあしかし、F2.8固定のカメラ、プラスチックレンズ、やや小ぶりな1/2.3型のCMOSセンサー、H.264圧縮の 60Mbpsのビットレートなど、さすがに少しは我慢せざるを得ない内容で、本格的に「使える」のはビットレート100Mbps、1型センサーとなったMavic 2 Proになってからになります。
画質が大幅に改善され愛好家も多かったPhantom 4 Pro
2016年年末になると、Phantom 4の上位版であるPhantom 4 Proが発売されます。もともとこれで発売したかったのではないかと思うくらい、完成度の高い機体でした。
カメラが大幅に更新され、1型CMOSセンサーを搭載。さらに絞り操作が可能になりました。また、ジェロ(こんにゃく現象)を抑えるメカニカルシャッター採用し、さらにはH.264、H.265で100Mbpsで撮影できるようになり、本当にキレイに撮影できるカメラになりました。
特に1型CMOSセンサーとビットレートの向上は、風景が多い空撮機としては、ディテールの表現まではっきりと見えることが、モニターのタブレットでも明確に確認でき、うれしくなって撮影しまくったことを鮮明に覚えています。
扱いやすい大きさ、スピード、値段などで、愛用者も多かったかと思います。機体部分は大幅な変更はなかったものの、障害物検出センサーは前後になり、低速飛行のトライポッドモード時限定ながら左右にも赤外線方式の障害物検出センサーがつくことになりました。また5.5型液晶モニター付きモデルも用意され、タブレットの用意の手間がなく、即飛ばせるモデルも発売と同時に追加されています。
プロフェッショナル機材の 決定版Inspire 2
また、Phantom 4 Proと同時にInspire 2も発表され、同じく年末に発売になります。これは弊社でも現役の撮影プロフェッショナル機材の決定版とも言えるモデルで、Inspire 2の後継機になります。Inspire 1の機能から追加された最大の特徴は、Inspire 1では暫定的だったRAWとProRes収録をサポートしたことです。
撮影カメラのレンズと撮像部をジンバル下、制御と収録部を機体側に配置。別途、高速SSDスロットを設け、大容量のRAW撮影に対応しています。弊社では撮影当初に2機、清水の舞台から飛び降りる気持ちで導入したのですが、おかげさまでCM、映画、MVなど、RAW収録を要求される撮影が増え、RAW/ProResが撮影できないものも含めて現在6機ほど運用しております。
後に、DJIがレンズから設計した空撮専用シネカメラというべきなZenmuse X7がレンズセットとともに発売されます。ドローンのカメラ部としては驚くほど高価ですが、Super 35mmのセンサーを備え、RAW撮影できるシネカメラとしては破格に安価です。これも舞台から飛び降りる気持ちの購入でした。割とひんぱんに飛び降りてますね(笑)。3月号で掲載されたSTU48の撮影をはじめ、数々のCM、映画で大活躍してくれています。
DJIの独走はしばらく続きそう
前後編にわたって簡単に空撮ドローンの歴史的なものをお話させていただきました。Phantom 3が出るまでは、ここに紹介していないもの含め各社横並びではあったのですが、4K撮影ができるジンバルと合体したカメラ付きドローンの開発はDJIが一番進んでいて、そのあたりから撮影用ドローンのDJI独走が始まり、今に至るという状況です。DJIの独走をストップさせるような空撮ドローンメーカーが出てきてくれると面白くなるのですが、しばらくDJIの独走は続きそうです。
●ビデオSALON2019年7月号より転載