第6回 人物の表情を引き立てる背景美術の工夫
写真・文◉川井拓也(ヒマナイヌ)
テレビと映画の照明と 背景美術の考え方の違い
ヒマナイヌスタジオは自動スイッチングによる映画的な切り返し手法を使い、ラジオのようにクリアな音声と人物を浮き立たせる照明で印象的な対談番組を目指していることをこれまでお話してきました。
今回は背景美術の話です。テレビのバラエティ番組を注意深く見ていると気づくことがあります。ほとんどの番組はパンフォーカスで背景美術も均等に照明されているのです。
暗部や余白をも演出していく映画とは違い、テレビは明るくて抜けのよい映像が好まれるのです。ヒマスタは映画的な手法を使っているので、人物の背景は開放で使う単焦点レンズによりボケ足となりはっきり見えません。どうせボケるんだから何もなくてもいいような気もしますが、それは違います。背景美術は作り込めば作り込むほど映像に味が出てくる重要なファクターなのです。
背景美術の密度はリドリー・スコットに学べ!
『ブレードランナー』『ブラック・レイン』などのリドリー・スコット監督作品を見たことがあるでしょうか? 押井 守監督がとあるトークショーで「レイアウトが物凄く上手い監督なんですよ! CM出身だけに」と言っていましたが、スモークと逆光を駆使しながら望遠レンズで捉える独特な映像美には痺れる人も多いのではないでしょうか?
彼の映画をつぶさに見ているとすべてのカットが異様に作り込まれていることに気がつきます。人物の背景にもさまざまな光の動きや空間の厚みを感じさせる小道具などが配置されています。
はっきり見えないにも関わらずそれらの背景美術の密度が物語にリアリティを与えているのです。ヒマスタはリドリー・スコットに学び4つのカメラアングルの背景を緻密に作り込んでいます。
どのカメラの画が一番 視聴者の印象に残るのか を考える!
自動スイッチングの4つのアングルのうちホストは2アングル、ゲストは3アングルに写っています。中でもゲストを正面から捉えるアングルはもっとも視聴者の印象に残ります。人の表情を正面から見るのは実際に対面で会っているときに近いからです。
このアングルではF2.8の70-200mm(35mm換算)を使っていますので、人物背景はボケています。このボケ足に窓枠を改造した本棚があり雑誌の表紙をレイアウトしています。女性がゲストの時は美容院にあるような海外の女性誌、自動車関係者がゲストの時は1970年代のクルマ雑誌などにします。ほとんどボケて見えないけれども色の印象はかなり変わります。さらにそこに光ものを加えます。イケアやニトリで売っているようなLEDキャンドルやロウソクなどを配置して光のゆらぎを作るのです。
次にホストのアングルを作り込みます。こちらも背景は本棚にしてあるのですがビジネス系の対談の時は重厚な本の表紙をA4ハレパネにして並べておきます。実際の本だと大きさが違ったり厚みがあって滑りやすいので表紙だけを美術用に作ってストックしておきます。
カジュアルな対談の時はここにお酒のボトルやカクテルシェーカーなどを並べます。こうしたものはガラスや金属素材なのでエッジの部分が照明でキラッと光りホストの背景を華やかにしてくれます。
▲背景に映り込む雑誌の表紙はゲストや番組内容によって変えている。
▲クリスマスなどで使うLEDライトを瓶に入れたもの。光のゆらぎが雰囲気を演出する。
暖炉やキラキラの ループ映像を プロジェクターで投射!
ゲストの横顔が映るアングルは背景にスクリーンを配置してあります。そこにAmzonFireTVのアプリケーションで暖炉やキラキラのループ映像を投射しています。あまり主張せず、常に動いているものが背景にあると繰り返し見ていても飽きないものです。PCのスクリーンセーバーなどを使ってもいいのですが、フリッカーが出たりするのでカメラのシャッター速度を調整しながらベストな組み合せを探しましょう。
▲人物の背景にはプロジェクターで暖炉やキラキラのループ映像を再生。動きがあることで飽きのこない背景になる。
人物を浮き立たせるために カウンターの色にもこだわる
最後にゲストとホストが両方映る引きのアングルの背景を作ります。初期のヒマスタは木目のテーブルを使っていたのですが、リニューアルにともないマットブラックのインテリアシールを貼ることで映像の下半分を黒くしました。こうすることで、より人物が浮き立ち映像の重心が下がり、落ち着いた映像になりました。
自動スイッチングスタジオの背景美術は視聴者が繰り返し見る4つのアングルを執拗なまでにチューニングしていくことが大切です。「神はディテールに宿る」という言葉を念頭に人物の表情を引き立てる背景美術を時間をかけて作っていきましょう!
次回は自動スイッチングに任意のタイミングで補足情報を割り込ませる拡張システムについてお話します!
▲カウンターにはマットブラックのインテリアシートを貼り、シンプルな背景にすることで、引き画でも人物に視点を集められる。
PICK UP CONTENTS! ヒマスタの収録動画を紹介
ヒマスタ3分動画 「動く人間図鑑:柴田大輔」より抜粋
ヒマナイヌスタジオのオリジナル番組『動く人間図鑑』は毎回濃いキャラクターのゲストを迎える対談番組! 初めてヒマスタに番組収録で来たオスマン・サンコンさんが発した驚きの一言とは?
●ビデオSALON2019年1月号より転載