作例・文●タイム涼介

週刊ヤングマガジン(講談社)で漫画家デビュー。主な著作に「アベックパンチ」、「日直番長」、「あしたの弱音」などがある。2011年に「アベックパンチ」が映画化され映画原作者となったのをきっかけに、映像制作を開始。過去の劇場公開作品には「男女大戦」、「実験失敗家族」、「イルカ少女ダ、私ハ」があり、いずれも脚本、監督、編集、VFXのすべてを手がけている。新潮社のWEBマンガサイト「コミックバンチWeb」で漫画「セブンティウイザン」を連載中。

 

Vol.19
超絶便利なAEプラグインVFX Suite 1.0を試す<前編>

『VFX Spot Clone Trackerで不要なものを消す』

 

今回使用したプラグイン

Red Giant社の「VFX Suite 1.0」(140,400円)は、キーイングとトラッキング、クリーンアップ、コンポジットツール等VFX制作に特化した9つのプラグインを収録。各プラグインの単体購入も可能。フラッシュバックジャパン取り扱い。https://flashbackj.com/product/vfx-suite

 

 

手持ち撮影の映像でも余計なものを 手軽に消せるプラグインソフト

今回は「VFX Spot Clone Tracker」というプラグインソフトを紹介する。画面内に映り込んでしまった余計なものを消して周囲と馴染ませることができる。Red Giant社の「VFX Suite 1.0」に収録されているが、単体でも購入可能で、VFXを使わない動画にも重宝する修正ソフトだ。

静止画と違い動画の修正には非常に手間と時間がかかるものだが「VFX Spot Clone Tracker」を使えば、少ない手順でクオリティの高い修正が可能だ。記念撮影やドキュメンタリー動画であれば、不都合な部分に対してボカシやモザイクで修正をかける方法もあるが、ストーリーのあるドラマや映画となるとそうはいかない。

「VFX Spot Clone Tracker」はボカシやモザイクではなく似た背景部分からサンプリングして貼り付けるので違和感なくなじませることができる。感覚としてはコピースタンプツールとよく似ている。三脚を使いアングルを固定した撮影であれば、コピースタンプツールでも対応可能だが、手持ち撮影やパン、チルト、などで画面が動くとたちまち修正箇所が露出して破綻してしまう。「VFX Spot Clone Tracker」は修正箇所が移動しても自動で分析しトラッキングして隠し続けてくれる優れものだ。そしてうれしいことに、ただのサンプリングだけではなく、リペアモードを使えば貼り付け先の色味に合わせてくれるので自然に馴染ませることができる。

草、ドア表札、人間の皮膚など、異なる色や質感の素材で修正を試してみたが、いずれもいい結果を出すことができた。さらに、今回の作例では使用しなかったが、トラッキングのモード(Track&Spot)をPosition&Scaleに変更すれば画面上で修正箇所が前後に動いて大きさが変化しても対応できる。

ここまでいいこと尽くめで文句なしのソフトだが、どうしても修正しきれないタイプの素材もある。例えば規則的に敷き詰められた四角いタイルの上に置かれた物体を違和感なく消すのは難しい。消すことはできてもサンプリング元のタイルの形や角度が合わず違和感が出てしまうからだ、ドラマなどの作品撮りをする場合は、撮影前に不要なものが写らないように気を遣うが、修正のきかない背景では特に入念にチェックしてほしい。

 

【STEP 1】ベンチの脇に落ちていたペットボトルを消す手順

①新規コンポジションを作成し、タイムラインに素材の読み込む。

 

②今回の動画は逆再生で動画を解析するため、時間インジケータを最後のフレームに移動。

 

③「エフェクト」>「RG VFX」>「 スポットクローントラッカー」を適用。エフェクトを適用すると、写真のようなブルーとオレンジの枠が表示される。

 

④「エフェクトコントロール」パネルで先程適用したSpot Clone Trackerの「Spot Options」>「Method」を「Repair」に設定する。

 

⑤まず、オレンジの枠を消したいペットボトルに合わせる。次にブルーの枠をオレンジに移植したい部分に合わせる。

 

⑥枠の大きさ(写真上)を合わせて、さらに形(写真下)も合わせる。一方の枠の形をドラッグ&ドロップで変更すると、それに連動してもう一方の大きさや形状も連動して変化する。

 

⑦なるべく近くの範囲を貼り付けたほうがバレにくいため、ブルーの枠を少し移動して近づけた。次にFeather(輪郭の境界)を少し広げてボカし、周囲となじませる。

 

⑧動画の解析を開始。赤く囲んだものが逆再生で動画を解析するボタン。ボタンを押すと赤い文字で「Tracking…」と表示される。消したい被写体がフレームインする場合、逆再生解析が便利。

 

⑨指定した枠が画面から外れたり、トラッキングに失敗すると中断される。今回はほぼ最後まで一回で成功した。

 

⑩最後の一コマは、フレームインの部分でトラックできなかったので、手動で枠を移動してペットボトルを消した。

 

【STEP 2】他にもこんな場面で使える

モデルの頬に描いたニキビは顔の揺れやある程度の振り向きにも追従して一度も解析が中断することなく消せた。面白い使い方として女性の顔を男性の顔に移植した。この場合二人の顔の大きさが異なるため、Match Spot Sizeのチェックボックスをオフにして男性の顔の大きさに合わせて女性の顔を少し拡大して貼り付けた。ドアの表札を消すのは容易だが、人物が表札にかぶるとトラッキングは中断してしまった。



 

 

ビデオSALON2019年10月号より転載