個人でも手に入れられるEやMFTマウント用の
ギア付き低価格シネレンズが出てきた
text&movie○ふるいちやすし
つくばに住む知人が一度撮影に付き合うというので今回の撮影場所はその辺りにすることにした。筑波山には前に一度行ったことがあるので今回は裏の下妻側から山に入り、地図で当てずっぽうに選んだお寺を待ち合わせ場所に決め、そこに夜明け前に着くように走った。とは言え何か特別な景色を期待しているわけでもなく、でもきっかけなんてこんなものでいい。何かを狙って行くのではなく、そこにあるものから美を見つけ、それを撮る。こういう撮影で意外に目や感性をが磨かれていくものだ。
今回持参したのは、Inter BEEでもいくつかのメーカーから発表されて注目を浴びていた低価格シネレンズの中からVeydraとKOWA CINE PROMINARを選んだ。映画を撮る、または映画のような表現を可能にするカメラの普及を背景に、交換レンズの需要も高まり、今まであまり聞き慣れないレンズ専門メーカーから、マイクロフォーサーズやEマウントのレンズがいろいろ出てくるのは嬉しいことだし、シネレンズがそういった小型カメラのために開発されるということは今までになかったことだと思う。
▲Veydraは大きさからリングの回転角度まできっちり同じ。リグやマットボックスのセッティングを変えることなくレンズ交換が行える。扱いはケンコープロフェッショナルイメージング。
一般的にシネレンズが普通のレンズとどう違うのかと言えば、
①絞りリングにクリックがなく、無段階の調整が可能。②フォローフォーカスやマットボックス等の周辺機器の使用を前提に作られ、フォーカス、絞り、ズーム等のリングにはギアがあり、レンズの長さやリングの位置や回転角度等がシリーズで統一されている。③フォーカス操作によって画角が変わらない、ズームの操作によってフォーカスがずれない等の高度な設計が施されている。といったところだろうか。このような品質を備えたものだから、聞き慣れないメーカーと言えども決して安物ではなく、どちらかと言えば高級レンズといった物が多く、ズームだと数百万円から一千万を越えるような物もあり、とても個人で持てるような物ではなかった。今回お借りした物のように十万円前後のシネレンズが出て来たというのは時代の流れとは言え、結構驚くべきことなのかもしれない。
ただし、このクラスのシネレンズには前述の条件がいくつかクリアーされていない物もあり、自分のスタイルに合わせて慎重に選ぶことが必要だ。いずれにしても今後、動画を撮る者としては、選択肢として注目すべきカテゴリーなのだ。
Veydraは中国製ではあるが、アメリカの会社。元は高価なプライムレンズを作っていたようだが、今回はその小型版とも言えるMini Primeシリーズから25mm、12mmの2本(MFTマウント)。一方KOWAは誇り高きmade in Japan。メインは工業用のひじょうに厳格なレンズを作っている会社(興和光学)だ。こちらの12mmは残念ながら今回使用したJVCのLS300CHには機構上、装着できないため、25mmと8.5mmの2本をお借りした。
▲KOWAはリングの位置こそ同じだが、レンズの長さや形状に違いがある。気になったのはVeydraの距離と絞りの指標が真横になっていることだが、これはカメラマンとは別のフォーカスマンが横から操作をするためで、ワンマン撮影をする時には不便だ。KOWAは興和光学。ネット上にあまり情報はなく、販売しているところも限られている。☎︎03-5614-9540 http://www.kowa-prominar.ne.jp
素性の違いがどういう個性となってレンズのトーンに現れているか楽しみにしていたのだが、普段クラシックレンズを多用し、さらにカメラ側でディテールや彩度を下げてスムーズさを作っている私としては、どちらもビックリするほどシャープで発色も良過ぎる。一瞬、カメラのいつものコントロールを忘れたのかと思って再確認したほどだ。いかにも「近頃の」「高級レンズ」といったしっかり感に満ちた画質だ。
個人的には私が求める「シネマ」とは違って、アメリカンシネレンズと呼びたくなる。特に絞りを開いてぼかした時の合焦したところとの差は驚くべきもので、そのダイナミクスを楽しむべきレンズなのだろう。
そして暫く使っているとようやく目も慣れてきて、その微妙な差も見えてきた。KOWAのほうが少し温もりのある感じかな? Veydraはパッキパキシャープ! そろそろこういった高解像度前提の中で、「自分の画」を見つけることも大切なのかもしれない、なんて思いがよぎる撮影だった。