第34回
深みと品が感じられるパナソニックEVA1
このカメラのセンスは自分に近いものを感じる
文◎ふるいちやすし
久しぶりに心ときめくカメラが出てきた。4K/60p/4:2:2/10bit が本体だけで撮れる100万以下の業務用カメラというスペックはこれからの標準となるのだろうが、ずっとソニーFS100から離れられない私にとって、重要なのはそこではない。まずは画の深みとコントロール性能。これはセンサーとエンジンの数値には現れないセンスみたいなものだろう。
Inter BEE の会場で少しだけ触れてみて、なんとなくその予感がしたので、さっそく借りてみることにした。断っておくが、これはこの最新カメラの高機能を試すテストではなく、私の個人的美意識にどこまで寄り添ってくれるかというわがままなテストだ。皆さんも自分の愛機を選ぶ時には高機能に惑わされず、数値に現れない美意識を計ってもらいたい。私にとって重要なのは明部のきらめきよりも暗部の繊細な表現なのだが、Logではなく、ノーマルな設定でも撮影時にそれを感じることができる。さっそくカメラの設定を始めて “なるほど!” と思ったのは初期設定段階でディテール(シャープネス)がOFFになっていること。私はどのカメラを使うときでも真っ先にこれをOFFにする。それが初めからそうなっているカメラは珍しい。なんだ、それだけのことか、と思う人もいるだろうが、そこにもこのカメラを作った人のセンスというのが現れているのだと思う。
▲ このEVFはいい! 別にモニターを持っていけば済むことかもしれないが、やはり本体だけ持ってぷらっと出かけたいこともある。どんなアングルにもなるし、パラメーターを細かく触る時にもその変化が見て取れる。特に驚いたのは拡大表示の時の解像度の良さだ。これならフォーカスもしっかり合わせられる。また、グリップに配置されたボタンでメニューまでも片手で操作できるし、ふと、抱えてみたくなるデザインも秀逸だ。(撮影:吉田康弘)
実際、EVF に映る画には深みと品が感じられる。それが何のお陰なのかはわからないが、とにかくしっくりくるのだ。いつものように彩度を少しずつ下げていくと “ここだ!” というポイントがある。その時にドキッとできるかどうかが大切なポイントなのだ。このセンサーとエンジンなら4Kで撮っても変にガチガチギトギトしたものにはならないだろう
特に感心したのは EVF の性能だ。サイズは小さいが、画の小さな変化もよく見え、フォーカスのために拡大表示した時にも解像度が粗くなる感じはなく、はっきり見えるし折りたためるシェードが付いているのも嬉しい。
パラメーターの数も充分すぎるくらいあるし、とことん画作りができそうだ。ただ、私が借りたものは日本語表記ができず、久しぶりのパナソニックということもあるからだろうか、メニューのディレクトリ構成やインターフェイスにも戸惑うところがあった。これは今後改善していただきたいものだ。なぜなら、そこでつまずいてしまうと、細かいところまで触って画作りをしようという気持ちが失せてしまう人もいるのではないかと心配してしまうからだ。もちろん私は根気強く探りながらコントロールしていって、このカメラのセンスが自分に近いものだと感じ、嬉しくなってしまった。
もう一つ気に入ったのは形状だ。どうでもいいことかもしれないが、私にとって、手に持ってみたくなることは愛機と呼ぶためには重要なことなのだ。そういう意味では角の落とし方や赤いラインもグッとくるポイントだ。メニューまでも片手で操作できるグリップのデザインも素晴らしい。一つだけ残念な点を言うなら、なぜEFマウントなのだろう? スーパー35センサーであってもマイクフォーサーズ(MFT)マウントで良かったのではないだろうか? 質の高いマウントアダプターが多く発売されている今、レンズの選択肢を少しでも多くして欲しかった。MFTマウントであれば、EFマウントだけでなく、私のようにクラシックレンズを多用する者でも、レデューサーを使ってフルサイズ相当で使うことができるからだ。
とはいえ、たった1日ではあったが、この日の撮影はとても気分のいいものだった。どれだけハイスペックなカメラであっても、数字に納得するのではなく、最後は感性で見極める。それがロンサムビデオの流儀だ。
Logではなく自分が好みで設定した
EVA1チューニングと
クラシックレンズの組み合わせ
▲ クラシックレンズを使い、自分の画作りをした。明暗が同居する画においても、暗部の繊細な質感が表現できることとノイズの少なさが嬉しかった。