「人に近づいて撮れる」「狭い空間を通り抜けられる」これまでの空撮ドローンでは難しかった映像表現が可能なマイクロドローンが注目されている。この連載では初心者が導入にあたってつまづきそうなポイントを中心に解説していく。
文●青山祐介/構成●編集部
講師●田川哲也/ドローンにも使われている、アイペックスコネクターの設計を本職とするドローンエンジニア。まだドローンを「マルチコプター」と呼んでいた6年ほど前から、空撮用ドローンを製作し始める。2014 年からレーシングドローンの製作も手掛ける。Facebookグループ「 U199 ドローンクラブ」の発起人、管理人。2016 年 ドバイ国際大会日本代表チーム エンジニア。現在 DMM RAIDEN RACING チーム エンジニア。
2018年はマイクロドローンの人気が高まった一年でした。以前からレースを楽しんだりする人がいましたが、映像を撮るという意味では2018年春に『オンナノコズ“Onnanocos×Micro Drone”』という作品がYouTubeに公開され、一躍脚光を浴びることとなりました。マイクロドローンとは文字通り、ひじょうに小さなドローンで、もともとはレースやフリースタイル(飛行技術の美しさを競う競技)用ドローンから派生したものですが、最近は室内や人物の撮影ができることから、撮影のためのドローンとして脚光を浴びています。 “ドローン”というくくりから、DJIのPhantomやMavicのような空撮用ドローンと同じように捉える人もいますが、その操縦方法や難易度、さらにできることが違います。
操縦方法に違いがある
まず、空撮用ドローンの多くは、GNSSやポジショニング用の各種センサーの働きで、ホバリング中にコントローラーから手を離しても安定しますが、マイクロドローンは常にスロットルを調整して機体の高さを維持するのに加えて、常に前後左右方向も操作をして安定させる必要があります。つまり空撮用ドローンの操縦は“行きたい方向に操作をする”のに対して、マイクロドローンは“機体のバランスを取り、それを調整して移動させる”操縦が必要だということ。車と自転車やオートバイの運転の違いに近いかもしれません。
映像伝送の違い
また、両者ともカメラを積んでいますが、その目的が大きく違います。空撮用ドローンはもっぱら機体を目視して飛行させ、送信機で見る映像は純粋に撮影のためのものです。一方、マイクロドローンはカメラの映像(FPV)を見ながら飛行させます。映像が遅延すると操縦者の反応が遅れてしまうため、映像は画質よりも伝送速度を優先するため、もっぱら5.8GHz帯のアナログ変調を使用します。もともとレース・フリースタイル用ドローンやマイクロドローンは、このFPV飛行のためにカメラを積んでいるのですが、最近はカメラの性能が向上し、さらに機体側でFHDの映像が録画できるようになったことから、映像撮影に利用する人が増えました。
カメラアングルの安定性
もうひとつ大きな違いはカメラアングルの安定性です。空撮用ドローンはジンバルを備えていて、パン・チルトの操作が可能で機体姿勢に関わらず希望のアングルを得ることができます。一方マイクロドローンはカメラが機体に固定されているため、「機体姿勢=カメラアングル」であり、機体姿勢や動きが映像に影響するため、撮影には高い飛行操縦技術が求められます。この違いはRoninなどのハンドジンバルにカメラを載せて撮影するのと、肩載せで撮影する違いに似ています。マイクロドローンの映像は、空撮用ドローンに比べて安定感こそ劣りますが、機動性やスピード感のある撮影に向いています。またそのカメラワークは操縦者の腕次第なのです。
今、撮影分野でも人気が高まっているマイクロドローンですが、映像を撮影するという意味では、こうした空撮用ドローンとマイクロドローンの特性を理解して、使い分けていきたいものです。
撮影に使える主なドローンの種類
●空撮用ドローン
DJIなどのメーカーが発売している空撮用ドローンは操縦・映像伝送に2.4GHz帯の電波を使用している。免許不要でスマートフォン等と組み合わせて専用アプリでカメラ映像をモニタリングできる。
●レース・フリースタイル用ドローン
ドローンレース機は操縦には2.4GHzの電波、FPVゴーグル・モニター等への映像伝送には5.8GHzの電波を使用する※従事者免許と無線局開局が必要。マイクロドローンもこれと同じ。
●マイクロドローン
200g未満なので航空法適用外
日本の航空法では200g未満の機体は規制の対象外となり、マイクロドローンは人口密集地での飛行や目視外飛行の申請が不要。レース機と比べスピードやパワーはないが、小さくてプロペラガード付のものが多く、人に近づけても危険性が少ない
カメラの違い
●空撮用ドローン
ジンバルで揺れを抑えた映像が撮れる
▲ロール・ピッチ・ヨーの3軸の揺れを補正するジンバルを備え、機体が傾いても水平を維持するため、安定した映像が撮影できる。さらにプロポからチルト(機種によってはパンも)の操作も可能。
●レース・フリースタイル用ドローン
FPVと撮影用カメラは別のものが多い
▲機体を高速飛行させるドローンレースでは映像の遅延が命取りになるため、FPVカメラは遅延の少ないアナログ映像を使用。そのため画質は粗く、録画機能はない。レース機で録画する場合はGoPro等を別途搭載することが多い(カメラのステイはマジックテープで止めたり、3Dプリンターで自作するユーザーが多い)。カメラは固定でパン・チルトはできない。
●マイクロドローン
小型なものには基本的に録画機能はない
▲マイクロドローンのなかでも特に小型のTiny WhoopなどのものにはFPVカメラは搭載されているものの、録画用カメラはない。ゴーグル搭載されている録画機能で録画できるが、アナログのFPV映像のため画質は粗い(640×480ピクセル)。
FPV・撮影一体型カメラモジュールが登場し、映像作品での活用が増えた
▲Runcam Split MiniはFPVと撮影用カメラが一体型になった小型カメラモジュール。最大1080/60p撮影が可能。
操縦の違いと操縦の補助機能
●空撮用ドローン
プロポはセンターニュートラルでスティックを離しても高度を維持する
空撮用ドローンでは高度を検出する気圧計・地表を検出して安定したホバリングを可能にするビジョンセンサー、GPS等のGNSSを備え、位置情報を検出することでホバリング時にプロポのスティックを手放しにしてもその場に留まる飛行補助の機能が備わっている。
●レース・フリースタイル用ドローンとマイクロドローン
ホバリングさせるには常にスティック操作が必要
空撮用ドローンのような補助機能はなく、機体をホバリングさせるためには常にスティックを操作して、高度を手動で維持する必要がある。機体には傾きを検出して水平を維持するためのジャイロセンサーが搭載されるのみで、基本的にそれ以外の補助機能はない。
レース・フリースタイル用ドローン・マイクロドローンで撮った映像の実例
●レース・フリースタイル用ドローン
空撮用ドローンでは撮影できないアクロバティックな飛行が可能
『BanniUK SHENANIGANS』
スポーツからアウトドアなど幅広い分野でレース機を活用した動画を数々配信しているTeam Black Sheep。宙返りしたり、急降下する映像は空撮ドローンでは撮影できない。
●マイクロドローン
アクロバティックな飛行が可能だが画質には課題がある
『Loving the BeeBrain V1 』
マイクロドローンによる空撮はアメリカのドローンチーム「Big Whoop」が元祖と言われている。そのチーム名を文字った「Tiny Whoop」はマイクロドローンのブランドとなっている。レース機のように飛行可能だが、アナログのFPV映像を記録するため画質は粗い。
1080/60pのRuncam Split miniを搭載したマイクロドローンで撮影
『“Onnanocos” × Micro Drone 』
Tiny Whoopに感銘を受けたシネマレイの増田勝彦さんが1080/60pカメラを積んだマイクロドローンを独自に開発し、撮影した作品。人物に近づき、狭所をすり抜けるカメラワークで話題を集めた。
マイクロドローンの定義をまとめてみると・・・
● プロペラ対向間 100mm程
●プロペラサイズ 2インチ以下
●使用するバッテリー2S以下(屋外では3Sのことも)
●重量 100g以下
●5.8GHzの電波を用いたFPVで飛ばすことが前提
レース用ドローンは5インチのプロペラを使用しており、重量も300gを超えるものが多い。スピードや耐風性能も高いが、プロペラが強力で危険なため、人に近づけて撮影することはできない。また、100g以下でFPVに対応するドローンとしてはDJIが技術提供するRYZE Tech社のTelloやParrot Mamboなどのトイドローンがあるが、気圧計や超音波センサーなどの補助機能が優秀なので、アクロバティックな飛行は難しいため、この連載で定義する「マイクロドローン」からは外れる。
最近よく使われているマイクロドローン
練習用(撮影非対応〈ゴーグルでの録画は可〉)
● 難しい調整なしに飛ばせる。ただしプロポの種類は限られる
ホライゾンホビー
Inductrix FPV8,980円(エアクラフト取扱)
Tiny Whoopが使用しているマイクロドローン。BETAFLIGHT等のソフトでの設定も不要で飛ばせる。Spektrum社の発売するDXeというプロポが使えるが、DSM2というプロトコルを採用しており、他の機体でもプロポを流用したい場合に、選択肢が狭まる。
● フタバのプロポが使えるマイクロドローンBETAFLIGHTによる初期設定が必要
BETAFPV
Beta65S 10,800円(ep-models取扱)
中国深センのマイクロドローンメーカーBETAFPVのエントリーモデル。国内で主流となっているフタバのプロポが使えることで他の機体ともプロポを統一できるため、人気を集めている。BETAFLIGHT等のソフトでプロポのスイッチの割当などの作業が必要。
撮影用(HDカメラ搭載機)
● オンナノコズで話題になったHD対応マイクロドローン
ep-models
NanoVespa80 HD 48,800円
シネマレイの増田さんとepmodelsが共同開発したマイクロドローン。カメラの防振対策が施されており、BETAFLIGHTというソフトで調整済みのためジェロ(こんにゃく現象)の少ない映像が期待できる。BETAFLIGHTでプロポスイッチの割当をすれば飛ばすことができる。フタバのプロポが使える。
●カメラの防振対策などが必要な上級者向けHDマイクロドローン
SPCMAKER
K1 25,515円(ゴールドストーン取扱)※プロペラガードは別売
中国のレース用ドローンメーカー・SPCMAKERが発売するマイクロドローン。Nano Vespa80 HDと同じくRuncam Split Miniを搭載する機体。操縦には問題はないが、防振対策が不十分なため、撮影映像にジェロが入りやすい。調整には知識と経験が必要。
●ビデオSALON2019年2月号より転載