後藤純一さんは日本初のプロフェッショナルドローンレースチーム「DMM RAIDEN RACING」のトップパイロットとして活躍し、現在は映像制作や産業ドローンの分野に活躍の場を広げている。
プロの視点から自身が欲しいドローンやパーツだけを販売するネットショップを運営し、人気を集めている後藤さんに最近のマイクロドローン事情や人気商品などについて聞いてみた。

後藤純一
元システムエンジニアの38歳。JDL2017年間チャンピオン。2018年6月、RAIDEN RACINGのキャプテンパイロットを務める。現在はGJM代表として、映像制作や産業・点検分野のドローン活用を中心に活動。
WEB●http://gjm.co.jp/

 

取材・文●青山祐介

 

「撮影のために必要な飛ばし方を練習し直しました」。こう語るのはBetaFPVの輸入販売などを手がけるオンラインショップ「dknbFPV」の運営者である後藤純一さん。後藤さんは数年前からドローンレースに取り組み始め、2018年シーズンはプロドローンレーシングチーム「DMM. RAIDEN RACING」に所属して、世界各国のレースを転戦してきた凄腕のパイロットである。そんな後藤さんが最近取り組んでいるのがマイクロドローンや200g以下の小型ドローンを使ったTVCMやミュージックビデオの撮影だ。

「速さを競うレースでは機体を強く前に傾け、コーナーでは強くバンクさせてタイムを稼ぎます。DJIのドローンで撮影する映像はジンバルで水平が出ているのが常識ですが、こうしたレースの飛び方をすると景色が傾いてしまって映像としては使いづらい。特に室内をはじめマイクロドローンで撮るような映像の場合、ドローンライクもありつつ、ふんわりとした感じを求められるので、バンクするとおかしいんですね。そのため、カメラのアングルもなるべく水平にして、機体を傾けないように飛ぶ必要があるんです」

 

 

ゆっくり安定して飛ぶための パラメーターと操縦技術

そのためにフライトコントローラーの設定値は変えたほうがいいという。「スティックの操作に対して機体の挙動を決めるパラメーターにはスティック操作の中央付近の挙動を和らげる『エクスポネンシャル』と両端部の強弱をつける『スーパーレート』、その中間域を調整する『レート』がありますが、スーパーレートとレートの値は下げたほうがいいと思います」と後藤さん。

なめらかな動きの画を撮影するにはなるべく機体を動かさないのが望ましい。しかし、これらが標準の値のままだと機体が機敏に動きすぎてしまうのだという。

このほか後藤さんによると、プロペラは3枚のものだとバッテリーの持ちが良くなる一方、4枚のものでは機動性が上がるなど、撮影条件に合わせて機体のセッティングも変えたほうがいいとのこと。

「もちろんスティックワークにも、より繊細さが求められるのは言うまでもありません。自転車でもゆっくり走るのはフラフラするのと同じように、ドローンもゆっくり飛ぶと安定しません。ノーズインサークルもゆっくりやるとなるととても難しくなります」と後藤さん。いかに高度を一定に保つかを意識することが大事で、スロットルを操作する左手のトレーニングを欠かさない。

 

トップドローンレーサーとして活躍していた後藤さん

▲RIDEN RACINGでキャプテンを務めていた後藤さん。世界各地で開催されるドローンレースに出場していた。

▲マイクロドローン撮影の現場の様子。写真右は下で紹介している日立製作所のWEB CMの撮影風景。オフィス内を飛行するシーンでは車椅子で移動しながら操縦を行なった。

 

完成品のBetaFPVは 操縦技術上達の近道

「2018年はレース中心にドローンを飛ばしていましたが、もともとはYouTubeで見た自由に飛び回るドローンが鳥のようで、そんな視点の映像を撮りたいと思ったことからドローンをはじめました」という後藤さん。そのためにレースの操縦技術が役に立つだろうということで、レースにのめり込んでいった。

ドローンのオンラインショップdknbFPVを始めたのも、自分で飛ばすドローンのパーツを安く手に入れるため。それだけにショップでは自分自身で使うもの、それに値するものしか扱っていないという。

そんな取扱商品のひとつであるBetaFPVのドローン。「マイクロドローンもBetaFPVが登場するまでは、やはり自分でパーツを選んで組み立てて、というのが常識でした。でも、どちらかというと僕は機体を作るのが目的ではなく、あくまでも飛ばすのを楽しみたい。作る時間よりも操縦技術を磨く時間のほうが大事で、その点BetaFPVは完成品ですぐに飛ばすことができる。だから飛ばしてみたいと思いました」と後藤さん。

今では中国のBetaFPV本社と共同でBetaFPVユーザーを対象にしたレースを日本で開催するなどメーカーとは良好な関係を築くまでに至っている。

 

これからマイクロドローンをはじめる人にはBetaFPVがおすすめ

後藤さんが運営するネットショップdknbFPV(https://www.dknbfpv.com/)で人気の2機種。85Xは4Sのバッテリーを搭載でき、最大10分程の飛行が可能。モーターパワーも強いため、屋外の撮影にも対応できる。75Xは3Sバッテリーで飛行時間は3〜4分程。屋内向け。カメラ性能は両モデルとも共通となっている。


▲dknbFPVではモーターやプロペラ等のパーツ類の販売も行なっている。

 

 

Beta85Xは風にも強く オールラウンダー的存在

dknbFPVで扱っているBetaFPVの製品の中では、Beta75XとBeta85Xが人気だ。撮影とレースというユーザーの用途は、どちらかというと撮影目的が多く、現在はHDモデルの人気が高いとのこと。また、75Xと85Xを比べた場合、85Xは大きいバッテリーを使うことができるので、より長く飛ぶことができ、また、風にも強いため屋外の撮影には85Xのほうが向いているという。

「確かに85Xは75Xに比べて約10mm大きく、被写体に近づけなければならないときには75Xのほうがいいという向きもあります。しかし、風に対する強さというメリットをも含めて今や85Xはオールラウンダーで、10mmという大きさの差は、操縦技術でカバーしたいところです」

 

 

BetaFPVと共同でレースイベントを開催

後藤さんがBetaFPVと共同で主催したドローンレース「BetaFPV Japan Cup」の模様。今年5月26日 東京・品川のTUNNEL TOKYOで パイロット41名、観客120名以上が参加し、当日はYouTube Liveからライブ配信も行われた。




 

 

協創の森コンセプトムービー〔現場篇〕 – 日立

後藤さんがマイクロドローンで撮影を担当した作品。日立製作所が開設した研究開発拠点「協創の森」のコンセプトムービー。

 

 

ビデオSALON2019年12月号より転載