取材・文● 村松美紀 写真●八束こはる / アシスタント●渡邊瑛太
1995年生まれ。愛媛県松山市出身で、現在は南に位置する内子町を拠点に、映像制作を行うフリーランスのクリエイター。
Ko-ki Karasudani’s PROJECT introduction
知られざる紙すき職人の思いを引き出したドキュメンタリー
『紙の人びと Ikazaki Washi Craftman』
愛媛県・内子町の天神産紙工場が舞台。手すき和紙職人の姿を追った自主制作のドキュメンタリー作品。「第3回石垣島湘南国際ドキュメンタリー映画祭 長編部門コンペティション」入選。
和紙販売ショップのミニギャラリーで動画を展示する案をいただいたので、紙すき職人のドキュメンタリーを制作しました。多くの人が手にとる和紙ですが、紙すきの職人がどんな人で、どんな工程で、どんな思いでやっているかは、知られてないように思います。異なる文化圏の方へも、日本の和紙の作り方や和紙職人の存在を伝えたいと思いました。取材は2カ月、編集はアドビ Premiere Proを使用して1カ月です。
工場は広くはなかったので、GoPro MAXを天井に仕込んだり、紙すきの様子を工場の外から窓越しで撮ったり、仕事の邪魔にならない良いアングルを探しました。インタビューでは、各々のヒストリーに注目してコメントを録りました。和紙のドキュメンタリーではなく、紙すき職人のドキュメンタリーなので、生き様を描いているところに注目してほしいです。
映像でこだわった点は、フィルムノイズ風のフィルターです。実はこれ、和紙をスキャンしてフィルター化したものです。木から和紙になるさまを表現したシーンに使いました。あとはエンディングのアニメーションも和紙をイメージして制作しました。
◆Ko-ki Karasudaniとはどんなクリエイター?
1年半ほどの制御機器メーカーの代理店営業を経て、2019年にフリーランスの映像クリエイターに転身。ホームビデオなど簡単な編集に挑戦したことはあったが、映像制作は未経験で独学だという。「ものづくりがしたいと思い、映像制作を選びました。知人がMV制作を勧めてくれたり、僕の地元である松山や内子町の人が声をかけてくれたり、活動の場に恵まれました」
仕事数も多く制作環境の整った東京ではなく、なぜ地方を選んだのか。「東京は作る側も観る側もコンテンツの消費が早いですが、地方では1本を長く、大切に観ていただけます。それが性分に合いますし、自分がつくる映像で幸せに、そして豊かになってほしいため内子町を拠点にしています」
70〜80才が中心の自治体の集まりに、20代のKo-kiさんが顔を出すなど、普段から町の人との関わりを大切に暮らしている。「自治体の記録映像を担当した時は、60代と70代後半の方と僕の3人で山へ。ふたりに解説してもらいながら撮影しました」
そのほか伝統産業、林業、地酒の会社の映像制作を任されるなど、信頼関係から頼まれる仕事も多い。
「近所のコンビニまで車で25分、最寄り駅まで車で30分。玄関を開けたらイノシシがいたり、庭にタヌキが出たりします」と、どこか愛おしそうに語るKo-kiさんは、「田舎の何気ない素敵な日常を撮りたい」と想像を膨らませる。「例えば、味噌を作るおばあちゃんがどんな想いで味噌をつくっているのか、誰から教わったのかなど、積み上げてきた背景が面白いので、それを映像で表現してみたい」
今後の制作についても意欲的だ。「いろいろな土地に行きたいし、その町や人のことを知りたい。また今年の夏にはドラマ制作にも挑戦します。今まではひとりで完結させる仕事が多かったですが、今後は人とつくることでより素敵な、未知の可能性を含んだ映像をつくりたいと考えています」
主な機材・ツール
作業環境
●VIDEO SALON 2024年7月号より転載