アップル Clips
Report◎斎賀和彦
映像を編集するのは楽しい。でも、正直に言えば面倒くさい。ビデオSALONを読んでいる人なら同意してくれる人も多いかも。
一方、iPhone、Androidのスマホの普及でSNSに写真をアップするのが大流行中。善し悪しは別にして写真はとても身近で気軽なものになった。
流行のインスタグラムもツイッターもフェイスブックも動画をあげる機能は持っている。いま、友達とカフェ!的な動画をアップしているリア充(?)な若者もいるけれど、写真に比べたら圧倒的に少ない。
わたしが考えるに理由はふたつ。
ひとつはやっぱり編集が面倒くさいから。旅行の最中、ご飯の最中、友達と遊びながら、まさにリアルタイムにアップするのがイマ流。従来の意味での編集なんてやってる暇はない(らしい)。それでいながらライブ(生放送?)は好きじゃないらしい。インスタ慣れした彼、彼女らは、レトロな色合いや「盛った」エフェクトをかけた自撮りをあげたいのだ(たぶん)。
そんなニーズに応えるかのように登場したのがアップルのClips。iOS用のオールインワン・ビデオクリップアプリだ。そう、ClipsはFinal Cut ProやiOS用のiMovieのような「ビデオ編集」アプリではない。撮影から加工、SNS共有までをワンストップで行うビデオクリップメーカーだ。 無料だしオマケみたいなモノ? という声もあったけれど、とにかく使ってみよう。
先ほど書いたようにClipsはオールインワン型なので、撮影から始まる。アプリを起動すると撮影モードになっているが、初期状態はインカメラすなわち自撮り状態で立ち上がることにびっくりする(もちろん、普通の撮影も可能だけど、反転ボタンを押さなければならない)。画面に撮影ボタンが大きく表示されているが、これも馴染んだRECスタート>ストップではない。「押している間、録画」なので、なんだか大昔の8ミリフィルムカメラのようで楽しくなってくる。これを何回か繰り返すだけでビデオクリップが完成している。以前に撮ってiPhoneに残っている写真やビデオを取り込むこともできる。
そしてClips最大の驚き機能がライブタイトル。ビデオ編集でタイトルワークは大事だけど面倒な作業。キーボードのないiPhoneでは尚さら。だが、Clipsでは撮りながらしゃべると、それが自動的にテキストになって画面に表示されるという画期的なタイトルツールが搭載されている。
iPhoneユーザーならSiriという対話型音声コマンドを使ったことがあると思うけれど、Siriの技術を使ったこのテキスト入力はしゃべるタイミングにタイトルが載るポイントも合わせる芸の細かさにも驚く。言い間違いや(Siriの)聞き間違い(誤認識)は手作業で修正できるのもいい。ああ、この機能がFinal Cut Proに搭載されたら対談モノの編集時間が1/3になること請け合いなんだがなあ。
それ以外にも映像をアニメ風にしたりインスタ風にするエフェクトや絵文字、スタンプといった機能でビデオクリップを「盛る」ギミックが多数搭載されている。ただ、若者ターゲットとするならば、美肌や眼を大きくする機能や猫耳を付けるなどの「SNOW」的な、やり過ぎな「盛り盛り」ギミックが欲しいところ。ここはアップルの上品さが出てしまった感。
逆にアップルらしい凄さを感じさせるのが50曲近いBGM。ジャンルも曲調もバラエティに富んで使いやすいが、驚くべきはクリエイターの顔ぶれ。ハリウッド映画でメジャーなハンス・ジマー(ライオン・キングやバットマンの作曲者)のアクションBGMが使えるとはアップルすごーい、といったところ。そしてこのBGMはビデオクリップの長さに応じて自動編集されるのもポイント。過去にもビデオの長さに合わせてBGMを調整するアプリはあったものの、多くはフェードアウトを付ける程度。しかしClipsでは途中の小節を抜いたりして「編曲」しているのが特徴。
こうしてほとんどリアルタイムに完成してしまうビデオクリップはそのままワンストップで好きなSNSにアップすることができる。
Clipsは既存のビデオ編集ソフトの簡易版でもなければ、それを置き換える存在でもなかった。コミュニケーションツールとしてのビデオクリップをスマートに作るガジェットといった感じのアプリだ。
写真に続きビデオもSNS共有の時代がやってくる。時代のベクトルを肌で感じるために、おじさんビデオユーザーもリア充オヤジのフリをして盛ったビデオクリップを作ってみるのが良いんじゃないかと思った(引かれるかも、ですが)。
Clipsで作例を作ってみた(5分くらいで作れます)
▲(左)赤いボタンを押している間録画。しゃべった声がリアルタイムでテキストになる。(右)ほぼ1画面で撮影から加工、共有まで行うワンストップアプリ。
▲(左)さまざまなエフェクトがビデオクリップをインパクトのあるものに加工する。(右)スタンプやiPhoneのGPSから場所表示も可能。
▲動画は1080×1080ピクセルのスクエアフォーマットになる。