STFレンズ FE 100mm F2.8 STFで4K動画を試す
そのボケは動画でも有効なのか?

Report◎斎賀和彦

背景がボケて主要被写体が浮かび上がる映像は美しい。ボケの度合いは主に被写界深度に依存するので(開放絞り値の)明るいレンズを使うのが基本ですが、ボケの雰囲気(ニュアンス)はレンズの性格によって違いが出ます。絞り羽根の枚数やレンズの設計がその要素になりますが、ボケ味の美しさにこだわった独特の機能を持つレンズが少数、存在します。

それがSTF(Smooth Trans Focus)レンズと呼ばれるもの。理想的なボケ味を持つと言われるSTFレンズですが、わたしの使うカメラマウントにはSTFレンズが存在せず、長らくボケがキレイ「らしい」という認識しかありませんでした。

そしてちょうどソニーからαのFEマウントの新型STFレンズ「FE 100mm F2.8 STF」が登場したので、同じく話題のα9と一緒に借りてみました。αシリーズ最強のスチルカメラと評価の高いα9とSTFレンズは「4K動画でどうだろう?」というのが今回のテーマです。

▲ソニーFE 100mm F2.8 STF GM OSS(SEL100F28GM)はソニーαEマウントのフルサイズをカバーする中望遠単焦点STFレンズ。188,000円。絞りリングは鏡筒にありクリックを外すことができるのも動画で使いやすいところ。手ブレ補正機能内蔵。カメラはα9。

さきほど、ボケ幅(被写界深度)は主にレンズの明るさに依存すると言いました。ポートレートレンズと呼ばれる中望遠単焦点レンズが軒並みF1.2〜F1.8の明るさを誇る由縁です。このFE100mmはF2.8のレンズですが、実効絞り値(T値)は5.6です。どういうことかというとSTFレンズはアポダイゼーション(APD)光学エレメントを搭載することで滑らかで理想的なボケ味が得られる仕組みですが、そのAPDエレメントにより透過光量は減衰し、実質的な絞りはF5.6相当となり、カメラから認識されるF値もEXIFに記録されるF値もF5.6から、になるのです。

え?  F5.6じゃ大してボケないじゃん、とカメラに詳しいヒトほど思います。実際に撮って確かめてみましょう。

まずはスチル写真で見てみます。

確かに柔らかな描写は独特です。とてもF5.6とは思えな……いや、間違いなくもっとボケています。

▲美しいボケ味が写真愛好家の間で話題のSTFレンズ

EOS用のEF100mmレンズと較べてみます。そうするとSTFレンズは絞りこそF5.6ですが、ピントの浅さ(被写界深度)はF2.8相当だというのが分かります。

▲左が今回のSTFレンズ、右がEOS EFレンズでF2.8だが、ほぼ同じくらいのボケ量。STFは明るさはF5.6だが、被写界深度はF2.8同等ということが分かる。比較すると大きくふわっとボケるのではなく、モノの輪郭もある程度保たれている。

そして同じ被写界深度なのに、ぼけていく感じが柔らかく、美しい(逆に言うとピント位置のエッジが立つ感じが弱いので輪郭も柔らかく感じてしまうのは好き嫌いがあるかと思います)。

では動画ではどうでしょう。映画カメラマン(キャメラマンと呼ばれることの方が多い)の口からは良くボケあし(足)という言葉をききます。これはボケ味の言い間違えから発生した誤用だという説も大きいのですが、わたしは違う見方をしています。

単にボケの量ではなく、ボケていくストロークの具合にこだわるからボケ足という言い方になるのだと思っています。

被写界深度の浅さはスチル時と同じくF2.8相当。画の傾向ももちろんスチルのときと同様なのですが、静止した一枚画のとき以上に動きの中で見るSTFレンズのボケ足は美しいように感じます。また、輪郭線の弱さが逆に画面全体の柔らかさにつながり、光のにじみ方とあわせ、独特の映像になっています。

▲4Kムービーでの被写界深度比較。左からEOS F5.6、EOS F2.8、α STM F5.6で、それぞれ部分。

これまで最高のボケ味と言われてきた同じソニーの135mmF2.8(T4.5)STFはAFの効かないレンズだったので動画撮影は至難の業でしたが、100mmSTFはAFが使え、さらに手ブレ補正も効くため、動画撮影での実用性は大幅に向上。動きの中でのボケあしを見たかったこともあってほとんどのカットを手持ち&AFで撮りましたが非常に歩留まりが高い結果となったのはα9の性能ゆえでしょうか。ただし、手ブレ補正の過剰補正ゆえか、2〜3カ所、画が歪む場面もありました。

実効絞り(T値)こそ5.6ですが、実質的にF2.8同等の浅い被写界深度のレンズとして使い、開放F値の暗さを意識する場面はありませんでした。

絞りは2段落ちるため、2段分ISO感度をあげる必要がありますが、近年のカメラは高感度特性に優れているのであまりネガティブな要素はありません(とはいえ、シャッター速度の下限が制限される動画撮影では夜景撮影時などでS/Nが厳しいときもあるかも)。

はじめて使ったSTFレンズは動画撮影でもすこぶる有効で、これは「買い」なレンズだと思ったのですが、問題はわたし、FEマウントじゃないんですよね……。そしてα9、良いカメラでしたが動画撮影に関してはα7系のほうが向いている部分も多く、悩ましさはさらに増したのでした。

▲STMレンズで撮った4Kムービーから切りだし(手持ち、AF)

▲左は4K、右はFHD動画より。STMレンズの良さは4Kでより引き立つ。