vol.22「障害物検出のステレオビジョンセンサーとホバリングを安定させるビジョンポジショニング」
文●野口克也(HEXaMedia)

東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空 撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/

※この連載は2017年11月号に掲載した内容を転載しています。

 

現在販売されている Inspire 2、Phantom 4 Pro、Mavic Pro 等のドローンには地面の形状を検出して安定したホバリングを実現する「ビジョンポジションニング」システムと障害物を検出して、衝突を未然に防ぐための「ステレオビジョンセンサー」が搭載されています。今回はそれらの機能とそのメリット・デメリットについて触れていきます。

Phantom 4 Pro の安定飛行を実現するセンサー

▲Phantom 4 Proには前方と後方に障害物検出用のステレオビジョンセンサーが搭載されており、0.7〜30mの距離の障害物を検出できる。左右に搭載された赤外線検出センサーは0.2〜7mの障害物を検出可能。

▲機体下方に設置されたビジョンポジショニングシステムは地表を視覚的に検出するポジショニングカメラと、潜水艦のソナーのような原理で検出する超音波センサーを組み合わせてホバリングを安定させる仕組み。0〜10mの高度で有効になる。

障害物検出のためのステレオビジョンセンサー

Inspire 2 と Mavic Pro には前方のみ、Phantom 4 Pro には前後両方向にステレオビジョンセンサーが付いています。Phantom 4 Pro にはこれに加えて補助的に左右に赤外線センサーを搭載しています。

ステレオビジョンセンサーは、光学式の2つの可視カメラの視差によって、距離を割り出す仕組みになっています。裏を返せば、肉眼で距離感がつかみづらいものは、このセンサーをもってしても、わかりづらいということになります。

建物の壁や木などフライトの際に障害になるものへの衝突防止装置としては、ひじょうに優れたシステムです。しかし、目視しやすい物には反応しやすいのですが、野球場のネットのように細い繊維状の網や水平の棒、線、そして鏡、もしくは鏡状のガラス等の透明な板、同じパターンの模様が連続する手すり等の検出は苦手で、距離を誤認したり、時には反応しないこともあるので、これらがある場所で飛行させる際には気をつけたいものです。同時に光量が圧倒的に不足する夜間や暗所でも作動しません。

私もフライト中、何度かこのステレオビジョンセンサーに助けられたことがあるので、可能な限り作動させたままフライトすることにしているのですが、狭い場所をすり抜けたり、できるだけ被写体に近づけたい時などには、センサーをOFFにしなくてはならない時もあります。

また、Phantom 4 Pro には、後方にもステレオビジョンセンサーが備え付けられています。撮影用カメラには写らない後方に引いて飛んでいくカットの時にも動作してくれるので、可能な限り作動させたいのですが、着陸場所が不安定でハンドキャッチしなくてはいけない場合などには、自分の手にも反応してしまいます(笑)。私はそんな時、センサーが作動してしまう機体の真後ろではなく、斜め後方からアプローチしてハンドキャッチするようにしています。 Inspire 2 ではランディングモードになると、ステレオビジョンセンサーが自動でOFFになる仕組みになっているので、助かります。

また、朝方や夕方などセンサーに直接太陽光が差し込むようなシチュエーションの時は、まれに誤動作して、ブレーキがかかる時もあるので注意が必要です。

なお、Phantom 4 Pro の側面に搭載されている赤外線センサーは、ビギナーモードと低速飛行のトライポッドモードの時のみ動作します。センサーの検出範囲を狭める「ナローセンシング」を発動すると、木々に囲まれた森など細い場所を通り抜けられるようになりますが、徐々に細くなるトンネル内などで、ナローセンシングの作動以下の距離で左右を囲まれてしまうと、その時点で身動きが取れなくなることもありました。

下方のビジョンポジショニングシステム

ビジョンポジショニングシステムは Inspire 2、Phantom 4 Pro、Mavic Pro とも下方に向かって1組搭載されています。GPSが受信できない環境下で、機体を安定してホバリングさせるための補助センサーとして、Inspire 1 から採用されました。Phantom 4 以降の機体ではポジショニングカメラが2台に増えて、より精度が高まっています。

私自身はGPSが搭載されていない時代からドローンを飛ばし始めたので、操縦技量による位置固定もできますが、それでもこの下方ステレオビジョンセンサーの搭載によって室内での安全性、安定性が向上したことで、より撮影に意識を集中できるようになりました。

これはDJI製のドローンが、単なる「カメラが搭載されたドローン」から「撮影機材」として大きく躍進することに大きく貢献した、素晴らしいデバイスと評価したいと思います。Inspire 1 にはじまり、Phantom 4、そして Mavic Pro へと受け継がれ、このシステムのチューニングの精度は上がり続けていて、むしろ屋外のGPSのみよりも、安定したホバリングを実現できるほどになっています。……と、ベタ褒めしてきたのですが(笑)、もちろんこの下方センサーにも、苦手なシチュエーションはあります。

前方・後方のステレオビジョンセンサーと同じ構造なので、基本は可視光線の光学センサーです。なので光量の少ない環境では正常に機能しません。つまり室内でも十分な明かりがあれば作動するけれども、光量が足りないと作動しない。

また、特性上ランダムな木目や汚れ、シミなどがある床などで作動するのですが、模様のない床、または全く同じ模様が連続する床などは認識できないことも多いのです。イベント等でDJI社がデモに使うカーペットは、この事を考慮した模様が入っているので、注目してみると面白いかと思います。実際の撮影ではセンサーが作動しない場面でのフライトもあるので、作動条件を理解し、作動しなくても操縦できる充分な技量を保持することにも日頃から心がけていきましょう。

また、性能の保証範囲が高度10m程度なので、GPSが併用できない条件で Positionモードのままにしているとそれ以上上昇しないという安全装置が働くようになりました(私としては、渓谷内等GPS信号が乏しい屋外環境でも上昇しなくなるので、これはちょっと改悪と考えています…)。

▲InterBEE20 16でのDJIデモフライトの模様。カーペットにはビジョンポジショニングが正常に動作するように模様が入っている。

水面での飛行は要注意

上記のように可視光線によって真下の距離を測定し、位置を固定する仕組みなので、ドローン下部の模様が連続的に変化するような水面などは苦手です。苦手なだけならば良いのですが、流れがあり、かつ、あまり波立たないような静かな川などでは、ドローンのプロペラで起こる波紋を機体が認識してホバリングするものの、その波紋自体が川の流れによって移動すると、それに付き合うように機体も移動してしまう…過去にはそんな動作も確認されています。つまり川の上で、低空で浮かせていると、知らず知らずのうちに川と一緒に機体位置も流されていることがあるのです。