vol.31「どこに立つ!? ドローン操縦者の立ち位置の重要性」
文●野口克也(HEXaMedia)

東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/

普段、ドローンを操縦する時、操縦者の立ち位置(ホームポイント)について深く考えたことはありますか? もしかしたらあまり意識せず、「ドローンが飛ばしやすい場所」くらいの認識しかしてなかったりしませんか。今回は地味だけれど、本来はとても大切な、ホームポイントについて解説します。

電波を遮る障害物は必ず避ける

一般的なドローンの操縦電波は2.4GHz帯で、比較的直進性の高い電波です。ドローンが物陰などに入った瞬間に電波が途切れる特性を持っています。

操縦者が持つプロポ(コントローラー)からは、常に電波として指令がドローンに飛ばされています。プロポとドローンとの間には、いつ何時でも、電波を遮る障害物があってはいけません。ドローンが近距離(100m以内程度)にある時には肉眼でも注意しやすく、あまり問題にならないものですが、遠距離になるにつれて思わぬ障害物や地形による電波の陰に気づきにくくなるので要注意です。

場合によっては目の前であっても、電波を遮られたら操縦ができなくなることもあります。というわけで、常にドローンは自分から見える範囲・遮るものがない状態において置かなければいけません。

たとえ遠距離でドローンを肉眼では視認できないとしても、プロポの性能の範囲内であれば、障害物がなければ無事に電波は届きます。肉眼で確認できなくて、不安な時は、ドローンのカメラで操縦者のいる方向を振り返ってみましょう。モニター上で操縦者の位置を確かめて、操縦者が見えていたら電波が遮られていないと確認できます。

操縦者の近くを飛ばせばいいというわけでもない

この「間に障害物がない」を判断基準においてホームポイントを探しましょう。一昔前のドローンでは、映像伝送や操縦できる距離が短く、なるべく撮影対象に近い場所で飛ばす必要がありました。

しかし、現在のDJI機などの伝送性能を考えると、撮影対象に近い場所が必ずしも操縦に適した場所、というわけではありません。撮影対象に近いほうがいいだろうという基準だけでむやみに撮影対象に近づいた場合、場所によっては建物や木々など、障害物が多いことはよくあります。

そんな場所は、ドローンを飛ばすホームポイントとして適していません。むしろ、少し離れた広い場所や、開けた場所に面した地点などのほうが、常に電波遮断障害物のない位置にドローンを置いておけるので、ホームポイントに適していると言えます。

ただしもちろん、カットを割って、近接した撮影を精緻なドローンワークで行いたいなどという場合は、撮影対象とドローンに近い場所がベストなポジションでしょう。

実例からホームポジションの選定について解説

では、具体例を挙げて解説していきましょう。例えばこの、松山城の場合、ホームポイントは2ヵ所に分けて撮影しています。

冒頭の俯瞰カット、城を見上げて進むカットは二の丸庭園の池の横、城の周辺のカットは本丸の手前の広い場所です。二の丸庭園は壁に囲まれているため、壁よりの場所から低空に下ろすと電波が遮断されてしまいます。

また、その場所から山の上の城を撮影しようとすると、山の裏側などはほぼ電波が遮断される場所に入ってしまいます。というわけで実際には、本丸手前の広場の中で、どの建物や壁からも一番遠い場所を選んで立っています。

壁や建物に近いと、どうしてもそちらの方向に、障害物に隠れる場所が増えてくるからです。2分45秒あたりの城を大きく旋回で回り込むカットも、映像の中の自分の立ち位置を把握しつつ、本丸の向こうにドローンが回り込まないように、探りながら撮影しています。

▲ 画角に見切れているものの、電波が途切れない立ち位置を選んでいる。目立たない色の服を着るなどの工夫もしている。

なるべく高い位置に

特に遠距離での目視外飛行の場合に言えるのですが、場所を選べるならば、なるべく高い地点から飛ばすように心がけましょう。紙幅の都合で細かい説明は省きますが、プロポを持つ人がいる高度が5mでも10mでも上がることによって、有効な電波が数倍にも増えたりします。遠距離を飛ばす時は、階段1段でも2段でも、高い場所から飛ばすことを心がけましょう。

身近な障害物を気にする

「プロポとドローンの間に電波的な障害物を入れない」ということで、見落としがちなのが、ごく身近な…、自分の身体が障害物となってしまうこと(笑)。ありがちなものとしては、「ドローンを背にした位置に立つ」というのがあります。体の中でも最も肥沃な部分……腹回りですとか(笑)、立派に電波障害物となってしまうことがあります。

飛行の際には必ずドローンの方向に向かって立ち、プロポのアンテナをドローンに対して直角に向けるということを意識しましょう。

ドローン操縦の立ち位置を選ぶ際に気をつけたいポイント
①障害物を操縦者とドローンの間に挟まない

▲ ドローン操縦に使われる電波では主に2.4GHz帯周波数の電波が使われている。この電波は直進性に優れており、開けた場所で明瞭な電波を届けることができるものの、障害物に弱いという特性もある。建物等の影に隠れない位置にドローンを配置するのも安全な操縦のポイントとなる。

②アンテナはドローンに対して直角に向ける

▲ アンテナの電波が届く範囲をフレネルゾーンという。アンテナがドローンに対して直角になるように向けると、フレネルゾーンを外れにくくなる。

③アンテナはドローンに常に正面に向ける

▲ ノーズ・イン・サークルなどの操作でドローンが操縦者の背後に移動するような場合も自分の体が障害物になり、電波が途切れることもあるため、プロポが常にドローンに対して正面に向くように意識する。

金網には要注意

また、鉄柵、金網、ガードレールなど、自分の目の高さからははっきりとドローンが見えていても、プロポからは障害物になっている場合もよくあります。金網は電波を通すように見えて、電波周波数と金網のピッチによっては、全く電波を通さない場合もあるので、特に注意が必要です。ここでも1段2段高いところに立つことで、電波状況が格段に良くなることがあります。

映像撮影的に映像の中に操縦者が映り込んでしまう……「見切れる」というのは、本来避けるべきことです。可能な限りそうすべきだと私も考えます。

ただ、安全にドローンを飛ばすことを考えるとカメラの画角に「見切れる」場所こそがベストなポジションでもあります。それをうまく使い分けるのが優秀なドローングラファーであると言えるのではないでしょうか。そんな私はいつ見切れてしまってもいいように、普段着る服までがどんどん真っ黒か、カーキ色一色になりつつあります……(笑)。

 

◉この連載はビデオSALON 2018年8月号に掲載した内容を転載しています。

◉ビデオSALON2018年8月号(電子版