vol.13「空撮用ドローンの使い分け」
文●野口克也(HEXaMedia)
空撮用ドローンの使い分け
現在、空撮用に使えるドローンは市場シェアの7割を占めると言われるDJI社のものだけでも数種類が発売になっています。これからドローン空撮を始めようとする方なら、「どれを選んだらいいのか?」悩むほどでしょう。今回は空撮用に限って、どんな種類のドローンを選んだらいいのか、筆者の観点からセレクトしてみました。
ドローン、特にDJI社製のものは、モデルチェンジまでの期間が短く、カメラ・機体・センサー等の機能はどんどん進化しています。この連載を書いたタイミングで知る限りの使い分けを説明しますが、常に最新の機材をチェックして頂きたいところです。
Matrice 600(M600)
以前にあったS800、S900、S1000の後継機にあたる機体で、大型の17インチヘキサコプター。ペイロードに余裕があるために様々な機材を搭載できます。以前から使われていたZ15シリーズのジンバルに、GH4、α7、BMPCC等が搭載可能。アタッチメントを追加することで後述するInspire 1用のジンバル一体型カメラX3やX5、およびXT赤外線カメラなども搭載できます。また、 同時発売された空撮に最適化されたジンバルRoninMXを搭載すると、対応する4〜5kg程度のシネマカメラや高画素スチルカメラなども載せられます。
RoninMXのおもなターゲットはRED、ARRI ALEXA Mini、キヤノンEOS Cシリーズなど。搭載重量の都合で、すべてのカメラのオプションを搭載できるわけではありませんが、およそRED+PL レンズ+バッテリー+SSD程度が、搭載重量の限界付近になるでしょう。
M600は機体の位置を測位して安定させるGPS、機体の傾きや慣性を計測するIMUなどをそれぞれ3つずつ備え、冗長化も進んでいます。常に3つのユニットで通信しあってエラーを補正することにより、機材トラブル時のフライトの安全性も確保しています。
いいことづくめのようですが、いくつか問題点もあります。まず、機体の折りたたみができるとはいえ、折りたたんだ状態でケースに入れると、一人ではハンドリングできないほどの大きさになります。
また、TB47/48シリーズのバッテリーを一度に6本使うので、(2×3並列での冗長化の安全性はあるが)バッテリーを大量に消費します。5フライト分で30本。バッテリーの運搬、管理も必要で、一人ではまず運用できないでしょう。
使い分け的には、シネカメラでの撮影に特化していて、またTB47を6本を使って長時間飛ばせる機体なので、長い時間滞空することが要求されるような撮影に向いています。ただ、整備された飛行環境で、車を横付けできるような場所でないと運用が難しいでしょう。
Inspire 2
先代のInspire 1の後継機で、現段階では空撮用ドローンの真打ちとも言えます。カメラは同時発売されたZenmuse X4sやX5sを使用でき、見た目はよく似ているものの、Inspire 1シリーズ用のカメラとの互換性はありません。これはInspire 2からカメラの映像処理エンジンや記録部が本体に内蔵されたため。ちなみにバッテリーも前モデルとの互換性はありません。
X4sは1型CMOSを採用するカメラで4K/60p撮影に対応し、ビットレートは100Mbps。X5sはマイクロフォーサーズ規格のレンズ交換式。最大5.2KのRAW撮影に対応しています。
機体前面には障害物検出のためのステレオビジョンセンサーと上部に赤外線センサーを備え、さらに下部に設置されたポジショニングシステム(高度10mまで有効)によって、GPS信号が受信できない場所でも安定した飛行を可能にしています。また、バッテリーは並列接続となり、GPSとIMUも二重化されており、機体への信頼性が大幅に向上しました。
特筆すべきはバッテリーヒーター。Inspire1ではバッテリー性能を維持するためにバッテリー温度が15度以下では機体が離陸しないシステムになっていました。そのため、飛行前にバッテリーを予熱する必要がありましたが、Inspire 2は自己発熱機能が搭載されているため、自分の電力を使って、最適な温度を維持するようになりました。
従来通り2人体制でのオペレーションが可能で、機体とカメラオペレーターが別になることで、より高度な撮影が可能になっています。
オールラウンドで運用できますが、Inspire 2になってやや大型化されたため、2名以上の運用が必要になることが多くなりました。運用環境さえ整えば、最高のパフォーマンスを得られる機体です。
Phantom 4 Pro
2016年末にPhantom 4 ProがPhantomシリーズに加わりました。マイナーチェンジかと思いきや、撮影用ドローンとしてはかなりの進化となりました。まず、撮像素子が従来の1/2.3型から1型CMOSに大幅アップ。ビットレートが100Mbpsになり、4K/60pが撮影できるようになりました。
また、絞りも操作できるようになり(Phantom 4はF2.8固定)、真夏の日中ではND必須とはいえ、シャッタースピードの上昇を抑えて撮影ができるようになりました。
また1型CMOSを採用することによって感度が大幅に向上。そしてビットレートアップと、適切な絞りを調節できることと相まって、より細部が潰れにくい本当の「4K」画質になったと言えるでしょう。
カメラはヘディング固定(パンができない)のジンバルなので、運用の基本は1名+補助となります。Phantom 4 Proの詳しい記事はP.38の特集を参照してください。
Mavic Pro
昨年発表以降、人気で品薄状態が続いていましたが、やっと手元に届き始めたコンパクトドローン。その特徴はなんといっても高性能なのに小さく折りたためることです。この連載でも以前記述したので詳細は省きますが、Phantom 4レベルの安定性と画質が得られるというのは驚きです。
これはもう、いつでもクルマの中に、なんだったら出張のトランクにだって忍ばせておけるレベル。今までにドローンを持ち込むには困難だった、山登りなど、車を降りてからしばらく歩くような場所にも躊躇なく持っていける大きさです。
ジンバルシステムやレンズなどがかなり小さくコンパクトになったので、時折、揺れが発生することがあったり、逆光時のフレアが目立つなどのネガティブ面もあるものの、それでもその機動性はありがたいものです。筆者は自然番組などのドローン撮影によく引っ張り出されますが、そうした場合には、「まさにコレ!」の機体です。
※この連載はビデオSALON2017年2月号より転載