vol.29「実際に空撮するまでのプロセスとカメラワークを解説-その2」
文●野口克也(HEXaMedia)
東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空 撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/
前回に引き続き、実例を元にカメラワークや撮影に至るまでのプロセスを解説していきたいと思います。今回は筆者(HEXaMedia)のYouTubeチャンネルで公開している動画「高千穂峡」を例に、空撮時のカメラワークやドローンの操作、注意点などを紹介します。この撮影は当時使用していた機体(DJI Phantom3 Professional)のその当時の動作に基づいてお話します。
ロケハンでは障害物をチェック
このドローン撮影も「空から日本を見てみよう」のドローン部分の撮影でしたので、撮影許可は町の観光協会に取り、係員立ち会いのもとで飛ばしています。また、一般の観光客が少ない平日早朝に撮影を実施しました。
この日は本番の撮影とロケハンは同じ日に行いました。ロケハンでは、特に注意するのは小枝や電線、その他の障害物です。この動画でのメインビジュアルになったのは、「真名井の滝」が流れ落ち、両側が狭い岩壁に囲まれた場所でした。ドローンの電波が途切れないように奥まで見渡すことができ、なおかつドローンが離着陸できるスペースを確保できるのは「真名井の滝展望台」以外に選択肢がない状況でした。
機体にはプロペラ ガードを装着
この撮影では、ドローンにはプロペラガードを装着しました。プロペラガードは第三者やその所有物の近くを飛ばす撮影では装着するのですが、普段は風の影響を受けやすく飛行時の空力的安定を損なうこともあるので、あまり装着することはありません。ただし、この時の撮影ではプロペラが岩壁に接触すると即墜落に繋がるので、装着することにしました。
カメラを水平のアングルにしておくと、機体が少し動くだけでも、プロペラガードがわずかに写り込んでしまうので、気持ち下向きの画角にするしかありませんでした。
アティチュードモードで ドローンをマニュアル操作
この撮影ではドローンのGPSや各種センサーによって、ホバリングした機体を安定させる「ポジショニングシステム」を使用せず、気圧計でドローンの姿勢を保持する以外はマニュアル操作となる「アティチュードモード」で撮影しました。
完全な手動操縦での撮影になるため、風が極力少ないことが条件でしたが、この日の天気は薄雲の広がる晴れで、ほぼ無風だったので、最高の条件でした。
また、ドローンの個体にも注意しました。機体のバランスがキチンとれていなかったり、動き方に癖があったりすると、それを修正するための舵が多くなり、撮影に集中できないほか、少し気を緩めた時に流されて、プロペラが接触、墜落する事態にもつながりかねません。そのため、この撮影には、同じ機種でも癖の少ない個体を選んで撮影に望みました。
鬱蒼とした森に遮られ GPSの電波は受信できない
GPSの電波は宇宙の衛星と通信するため、機体から衛星が見通せる空が必要です。映像をご覧になるとわかるのですが、この場所は15mほどの切り立った岩壁があり、その上にも鬱蒼と木が生い茂っているので、GPS電波を受信するのは絶望的でした。そのため、目視とFPVカメラだけを頼りに操縦する技量がないと撮影できません。
ドローンが爆発的に売れたのは、ポジショニングシステムが確立された後からでした。そのため、ご存じない方もいるかもしれませんが、初期のDJI製品では、ドローンのフライトを制御するフライトコントローラーはGPSとコンパスが別売でした。筆者は、その頃からドローンを飛ばし始めているので、得意とは言いませんが、高千穂峡のような場所でも飛ばせるという自信はありました。
直線の動きに専念して、 機体を目視して慎重に撮影
編集した動画でなくて、素材のほうをご覧になっていただくと一目瞭然なのですが、様子見で滝の手前まで直線で飛ばしたあと、滝の先の少し広いところまで行って帰ってくるか、バックで帰ってくるという動作の繰り返しでしかありません。
カメラワークとしてはいろいろ考えたいところでしたが、この条件で、私の技量では実現できそうになかったので、直線を行って帰るのみに留めました。
また、普段は離陸すると早めにコントローラーに装着したタブレットに視線を落としてカメラ映像に集中するのですが、この時ばかりは撮れていることを願って、機体を注視したフライトに徹しました。
滝の先のボート乗り場でターンしてくる時だけは、どのくらい回ったか目視しづらい距離なので、タブレットに視線を落とし、キチンと停止していることを確認しながらゆっくりターンをして戻ってきています。
また、緊張のあまり、露出がオートのままで、段付き露出になるというドローン撮影としては「失敗」なカットにもなっています。そして、後で素材を見返すまで気が付かなかったのですが、着陸直前にほぼ認知していなかった小枝にヒットしていて、墜落の可能性もあったことは、重大な反省点でした。
ビジョンポジショニングの 挙動は機体によって異なる
当時撮影に使用したPhantom 3は地表の形状を認識して機体を安定させる「ビジョンポジショニングセンサー」もついていましたが、現在の製品ほどキチンと止まらず、水面などは不規則に変化するため、誤動作を起こすリスクが高かったため、ビジョンセンサーもOFFにして飛ばしました。
現在の機種だと、ポジショニングシステムをOFFにできなかったり、OFFにできてもGPSの電波が受信できない場所では、そもそも離陸しないものもあります。機種やバージョンによって異なるのですが、Inspire、PhantomはOFFにしても離陸できますが、MavicはOFFにできないか、そもそもOFFの設定がありません。ビジョンポジショニングのリファレンスとなる機体の下の地面が水面だったりすると安定しなかったり、最大高度や最大距離の制約が出てくることもあります。このため、筆者が撮影に持参する機体は、最低限Phantomクラスになることが多くなっています。
GPSを受信しづらい似たようなシチュエーション(谷底や崖の下、垂直な穴の中、完全な室内等)での撮影は、機体やアプリで設定できる範囲を事前にキチンと確認し、充分な技量と機体との信頼度を深めてから撮影に挑みましょう。