第12回 じわじわ広がる ヒマスタ型自宅スタジオのムーブメント
写真・文◉川井拓也(ヒマナイヌ)
自動スイッチングによるヒマスタ型システムの特徴はマルチカメラでかつ出演者が複数いるにも関わらずスタッフをゼロにできることにあります。このシステムを自宅に取り入れようという動きが生まれているので紹介したいと思います。
人の話を聞くのが 大好きな編集者が作った 神保町「ロビスタ」
編集者の表ロビー純平さんは神保町にある自宅に4カメの配信システムを常設し「ロビスタ」として知人を招いて対談などの配信をしています。仕事で取材した内容のごく一部しか誌面に採用されないことをいつも残念に感じていたそうです。「ならば自分で興味ある人の話をとことん聞いてノーカットでアーカイブできるメディアを作ってしまおう!」とヒマスタ型スタジオを家の中に作ることを決意しました。もともと複数台の動画カメラやオーディオミキサーを持っていたため、スイッチャーを追加するだけで配信スタジオになるので、投資費用は安く抑えられたそうです。
V-1HDを中核に FZ1000とハンディカムを組み合せた4カメシステム
「ロビスタ」の特徴はLUMIXの1型センサーFZ1000を2台とハンディカム2台を組み合せた全カメラズームレンズの機動力。自宅に知人を呼んでの対談に飽き足らず地元千代田区の区議会選挙をドキュメンタリー的に追ったり、書家をしているご自身の祖父のイベントを配信したりとアクティブに情報発信しています。表ロビーさんがスタジオを作ったきっかけは「ヒマスタ神田店」で行われたJUNS山中さんと筆者による対談でした。番組の中に飛び入りしたり、番組ホストの人と仲良くなったりとFacebookの友達も100人以上増え、まったく新しい人脈ができてきたそうです。
編集者が自宅に作った自動スイッチング型スタジオ「ロビスタ」
編集者の表ロビー純平さんのスタジオ。ローランドV-1HDの自動スイッチング機能を活かし、自宅内に構築しスタジオ。パナソニックFZ1000とソニーのハンディカムそれぞれ2台を組み合わせた4カメ体制で対談番組を配信中。
◉実際の配信動画をチェック
音声連動先回り スイッチングを実現した「白金ピアノスタジオ」
音楽レーベルで働く木村 玲さんは元ミュージシャンでもあり、自宅のプライベートスタジオは防音仕様の本格的なものでした。仕事でアーティストなどのライブ配信を担当していく中で配信に関する知識を身につけ、自宅スタジオに配信機能を追加したそうです。
カメラはヒマスタと同じ4台のGH2を使っていますが、特徴的なのは「音声連動先回り自動スイッチングシステム」です。「マイク1の入力レベルが上がったらカメラ1に、マイク2が上がったらカメラ2に」というような音声連動スイッチングは既存のスイッチャーにも同様の機能が備えられていますが、音声レベルを感知してからスイッチングするため、やや遅れが発生します。
優秀な手動スイッチングの場合、話者のしゃべり終わりやしゃべりはじめを先回りできるので気持ちのいいスイッチングになります。この卓越した手動スイッチングを自動で再現するために木村さんはユニークなシステムを組みました。
音声を先に処理して ディレイさせた画と音を スイッチング!
各チャンネルの音声信号を電子楽器用のMIDI信号に変換して、それをさらにOSCという通信方法に変換して、ブラマジのATEMのスイッチングを自動制御するのですが、画と音を同時にディレイ(遅延)させることでまるで先回りしてるかのようなスイッチングを実現させたのです。
文字で説明するとわかりにくいのですが、そのシステムで収録された動画を見るとびっくりします。まるで熟練したオペレーターによる手動スイッチングに見える完成度の音声連動の自動スイッチングなのです。
2人の会話が重なったときや無音になった時にどの画に逃げるかといいったこともチューニングを繰り返し設定した複数のパターンをランダムに取り入れているという凝り方。メーカーが用意した機能を使うだけではなく感性の領域でチューニングしている世界最先端の自動スイッチングスタジオです。
独自にプログラムを組み、先回りの自動スイッチングを実現した「白金ピアノスタジオ」
音楽レーベルに務める木村 玲さんのスタジオ。元々はレコーディング・スタジオとして構築したものに、配信機能を増設した。音声信号をMIDIからさらにOSCに変換し、その情報を元にブラックマジックデザインのATEMでスイッチング。画と音にディレイをかけることで、音声を先回りした自動スイッチングを実現。
◉実際の配信動画をチェック
「ヒマスタ神田店」からはじまった自動スイッチングのムーブメントは、それを見て刺激を受けた人の新しい解釈と探究心で新しいフェーズに入ってきました。次回は1時間3000円からはじめ認知が広がるに連れ適正価格に近づけてきた自動スイッチングスタジオの料金体系について解説します。
●ビデオSALON2019年7月号より転載