中・高・大と映画に明け暮れた日々。あの頃、作り手ではなかった自分がなぜそこまで映画に夢中になれたのか? 作り手になった今、その視点から忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。最近の作品には『百円の恋』『リングサイド・ストーリー』、『銃』等がある。現在、NETFLIXでオリジナルシリーズ『全裸監督』が公開中。abemaTVと東映ビデオの共同制作による『アンダードッグ』を制作中。『全裸監督』シーズン2も制作開始。『ホテルローヤル』は2020年冬、『銃2020』も2020年中に公開予定。

第64回 ブレックファースト・クラブ

イラスト●死後くん

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原題:The Breakfast Clubi
製作年 :1985年
製作国:アメリカ
上映時間 :97分
アスペクト比 :ビスタ
監督・脚本:ジョン・ヒューズ
製作:ジョン・ヒューズ/ネッド・ターネン
撮影 :トーマス・デル・ルース/デデ・アレン
音楽 :キース・フォーシイ
出演 :エミリオ・エステベス/ポール・グリーソン/アンソニー・マイケル・ホール/ジャド・ネルソン/ジョン・カペロス/モリー・リングウォルド/アリー・シーディほか

『ホーム・アローン』の脚本、製作を手がけたジョン・ヒューズの監督作。タイプの異なる5人の高校生がそれぞれ問題を起こし、罰として休日登校で反省文を書かされることになる。図書館での会話を通じて、日頃は関わり合うことのない5人に友情が芽生え始める。

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6月21日、ジョエル・シューマッカ監督が80年の生涯を終えた。代表作が『バットマン・フォーエヴァー』とニュースで表記されていたが、僕にとっては『セントエルモス・ファイヤー』の監督として記憶に残る。

この映画に出演していた俳優達が「ブラット・パック(小僧っ子集団)」と呼ばれ、80年代、90年代を席巻していたことを思い出した。特に1986年に相次いで封切られた『セントエルモス・ファイヤー』と『ブレックファースト・クラブ』の両作品に出演していたエミリオ・エステベス、ジェド・ネルソン、アリー・シーディが僕の個人的なお気に入りだ。

大学受験を済ませ上京したての僕は、池袋の文芸坐で2本立てで観る幸運な機会を得た。封切りから少し遅れて観た僕は、名門大学を卒業したばかりの7人の男女の物語『セントエルモス・ファイヤー』よりも5人の落ちこぼれ高校生の図書室での1日を描いた『ブレックファースト・クラブ』のほうが馴染みがあった。

『ブレックファースト・クラブ』の監督はジョン・ヒューズ。『フェリスはある朝突然に』という学校をサボったシカゴの高校生の1日を描いた傑作以降は『恋しくて』『ホーム・アローン』の脚本、製作を手がけた人。この人がウオーキング中に59歳で急死した時には呆然としてしまった。

僕は一時期、ジョン・ヒューズ作品と『ブレックファースト・クラブ』が好きだという人は皆良い人で信用できると思い込んでいる時期があったくらい、大好きだった。

普段ならば関わることのない 5人が集結する

この作品ではイリノイ州シャーマー・ハイスクールの1984年3月24日の土曜日の朝7時〜夕方16時の9時間を描いた。休日土曜日に問題を抱えた5人の高校生男女が罰則自習のため図書室に集結する。

学校中の嫌われ者の拗ねた不良ジョン(ジャド・ネルソン)、レスリング部の体育会系アンドリュー(エミリオ・エステベス)、優等生で自ら学校中の人気者という、お姫様気分のクレア(モーリー・リングウォルド)、秀才ガリ勉の数学部所属のブライアン(アンソニー・マイケルホール)、不思議ちゃんアリソン(アリー・シーディ)。この5人を指導監視する教師生活22年のヴァーノン先生(ポール・グリーソン)。

後に『ダイ・ハード』のベトナム帰りのイカれたFBI上司役で活躍してくれた先生役のポール・グリーソンは、本作でも実に憎々しげな先公を演じてくれる。この先生と5人の生徒、校務清掃人カール(ジョン・カペロス)、生徒達の送り迎えの父母達の出演者僅か13人、97分の驚くべき傑作だ。

エミリオ・エステベスは『地獄の黙示録』のマーチン・シーンの長男で、チャーリー・シーンのお兄さん。僕は『プラトーン』『メジャーリーグ』で人気の弟も好きだったが、『レポマン』『セントエルモス・ファイヤー』などで惚けた悪ガキぶりのお兄さんの方がお気に入りだった。後年、兄弟で共演した『ヤングガン』のビリー・ザ・キッド役の弾けぶりは最高だった。

反省文の課題は「自分とは何か」を1000字以上で。こんな高度な作文を書けるはずもない5人。5人の未熟な高校生達の出来の悪さが楽しいのだ。僕も1984年は高校2年生、不登校が始まり、映画館に通いまくった。親と教師を敵だと思い込んでいた。

5人の素性があらわになり やがて打ち解けていく

不良のジョンは執拗に他の4人が何をやらかしたのかを聞き出そうとする。お姫様クレアはお前達と一緒に自分がいる理由がわからないと。クレアにムカつきセクハラな言葉を連発するジョンにアンドリューがキレて一触即発。間の悪い秀才ブライアンの発言が火に油。不思議ちゃんアリソンは映画が始まって30分奇声を上げるだけで喋らない。

普段では決して友達になり得ない5人の高校生男女。彼らが職員室に戻ったヴァーノン先生の目を盗んで、ジョンのロッカーに隠し持ったマリファナをゲットして、図書館でマリファナパーティをするところから、徐々に自分たちのことを話し始める。

レスリング部の友人の尻に悪戯でテーピングを貼って剥がし、怪我をさせてしまったアンドリュー。工芸科目で赤点をとってしまい、自殺しようと持ち込んだ銃が発煙筒で、暴発してしまった秀才ブライアン。家で父親にDVを受けているというジョン。父親、母親からのプレッシャー故に悩む男子達。

歳をとったら自分たちも親のようになるのかと怯える。両親に無視されていると告白するアリソン役のアリー・シーディの演技が素晴らしいのだ。

何もすることがないからと補習に自主参加したアリソンは徐々に話始めるが、心を開かないクレアに同じ女性として挑発な言葉を投げつける。秀才ブライアンが月曜日にこの5人は出会ったら友達でいられるかな、と投げかけた問いに、クレアは「私は無視する」と。「スクールカースト」と言われるイジメの実態が暗示される部分だ。その言葉を聞いたブライアンの涙が胸を打つ。

5人の告白、悩みを打ち明けていく場面が素晴らしく、5人のカットバック撮影と編集が巧みだ。単独の5人のアップショットを単焦点レンズで捉えて、複雑な感情、内面の変化の機微を観客に的確に伝えてくれる。35年前の撮影と編集は新鮮なまま今でも通じている。

かつての若者たちも60代に かかろうとしている

「自分とは何か」という作文を強制することに意味がないことを教師達は知るがいいだろう。自分とは「不良」「スポーツマン」「お姫様」「ガリ勉秀才」「不思議ちゃん」であると自覚した5人は9時間後に『ブレックファースト・クラブ』の結成を名乗り挙げる。胸のすくラストシーンを観て欲しい。ブラット・パックと呼ばれた若者達も50代後半から、60代にかかろうとしている。

ヴァーノン先生と校務清掃人カールの中年男のやりとりに笑った。「生徒達が反抗ばかりで、あいつらがこれから国を担っていけるか心配だ。私は将来彼らの世話になるのか?」「当てにするなよ」

1984年高校2年生だった僕も今年で53歳になる。

VIDEOSALON 2020年8月号より転載