文・作例 ナカドウガ
TV番組のオンラインエディターを経て、日本で唯一のテロップ漫談家を自称しながら、テロップについてのノウハウを発信している。
カーニングとは文字の間隔を調整すること。均整のとれた丁寧なカーニングはクオリティの高いテロップを作ることができます。基準がないため苦手意識が生まれやすい領域ですが、わずかな違いで印象がガラリと変わるカーニングの基準を学びましょう。
文字の形は様々なので、たとえ数値上では同じでも文字間が均等には見えないのです。そのため、視覚的に整って見えるように手動でのカーニングが必要になります。大事なのは見た目の美しさを優先することで、数値を過信しすぎてはいけません。最終的には自分の感覚を頼りに整えていきましょう。
POINT 個別の文字から徐々に全体を調整する
①広がって見える文字群を調整し、基準を決める
②決めた基準に沿って他の文字を見た目で合わせる
①〜②でおおよその調整をしたら、ここからがカーニングの本番です。画数の多い漢字が続く部分は、ゆったりと広げるようにし、逆に平仮名・カタカナは間延びしないように詰めましょう。記号や英数字が半角の場合は広げ、全角は詰める方が良いでしょう。このようにして数値ではない、見た目のキレイさを根拠にしたカーニングを目指しましょう。
③数字・記号のバランスを調整する
④最後にもう一度全体を見て調整する
POINT:シチュエーションごとにカーニングのポイントを紹介
例文を使って整えるポイントを見ていきましょう。逆三角形になっている「す」や縦長な「し」など、特徴的な形の文字が連続すると整えることが難しくなってきます。全体を見ると漢字が詰まっており、逆に平仮名はスペースが空いている印象です。特に目立つのは『す』と『し』・『こ』と『う』の間です。必然的にこのふたつは詰めることになるでしょう。
ここでの基準は『美味』の2文字とします。現状だと狭すぎて圧迫感がありますので、やや広げる方向です。この間隔を基準とすれば、おのずと他の文字も整えることができるでしょう。
①文節ごとにまとまりを持たせる
②助詞を小さくする
丁寧なカーニングは見た目の美しさだけでなく、誤読を防ぐことにもつながります。たとえば①のように文節ごとにまとまりを持たせるようにする、②のように助詞だけを小さくするなどの、カーニングを踏まえた上での工夫をすることで、見た目を美しく整えながら、読みやすくすることができるのです。
POINT :映像のテイストによってカーニングの基準を変える
カーニングには正解がありません。映像のテイストや書体によって着地点が変わるケースバイケースなものです。たとえば高級感や落ち着いた印象を出したいときは、文字間を広めにすることで柔らかい印象になります。逆に真面目さや緊張感を出したいときは狭くするなど、作品のテイストによって最適な基準を見失わないようにしましょう。
カーニングは感覚によるところが非常に大きいと感じます。形による錯覚や色や大きさによっても正解が変わってしまいます。
だからこそ苦手意識が生まれやすいカーニングですが、繰り返し練習することで必ず上達します。ぜひ自分の感覚を信じてがんばってください。
POINT :PhotoshopやIllustratorでの操作方法
PhotoshopやIllustratorではキーボード操作が便利です。文字ツールをアクティブにし、カーニングしたい文字にカーソルを合わせショートカットを使います。さらに選択した部分を一括で変更する場合は、トラッキングを使いましょう。カーニングとトラッキングの各ショートカットは、以下を参照してください。
一括で変更する場合
作業量の関係で、個別に調整している時間がない場合もあるでしょう。文字パネルのカーニング設定を「オプティカル」に変更しましょう。アプリ側で自動調整をしてくれるもので、ある程度整った見た目にできる場合があります。ただし「オプティカル」の状態から、さらに個別調整をしようとすると、破綻しやすいので注意してください。
POINT : カーニングが練習できるサイト「KERNTYPE」
英単語を使ってカーニングの練習ができます。遊び感覚でカーニング力を鍛えましょう。
今日のひとこと
ところでこのカーニングについての記事を書いている時、ふと思ったことがあります。それはカーニングの技術を学んで『間隔』の『感覚』を鍛えようというフレーズ。決して声には出しませんが、そんなことを思いました。
●VIDEO SALON2023年5月号より転載