文●岡 英史
本誌が最近、色が変わってきたと感じている方は多いはず。実は筆者もその一人。ライターでもあるがビデオサロンという雑誌はこの業界に入ってからは欠かさず全部…とは言わないが定期的に読んでいたので、今これを読んでいる方と同じファンと言ってよい。そんな筆者がビデオサロンでレギュラーコラムを書かせていただいていたことは自分でも興味深い。こんなことを書いているのは、今回でこのコラムが終わってしまうからだ。最後は何を書こうかいろいろ考えた結果、筆者が一番聞かれることを書いてみたい。
モノを書く/描くということ
カメラマンは光で画を描く職業と言われるが、筆者も同じく光で…と言いたいところだがまだまだその域には達していない。せいぜい落書き程度だろう。街のビデオ屋さんの場合、台本を書いたり絵コンテを書いたりと、実は「書く/描く」という行為はよく行なっている。
書くと言えば、「このようなコラムをどうして書いてるの? 」とよく聞かれる。それが自分でもよくわかっていない。カメラマンとライター業の2足の草鞋を履きだしたのは2000年のマックワールドEXPOでFinal Cut Proのレビュー/セミナーをやったのがきっかけだった。ライターという職業をやっていると時々アンチ(?)的な匿名メールが来たり、掲示板に「あいつはダメだ」「それは違う」ということを書かれる。それ自体は全然構わない。むしろ批判されるということは記事を読んでもらっているのだから。それまでのテクニカル系ライターと筆者の違いは、筆者は現場で使って何ぼの話を書いていることで、それが良いと言われるのは嬉しい限りだった。
もう一つ、メーカーに対してもユーザーの代表としてモノが言えると思っている。メーカーに対してSNSやブログで書いてもなかなか伝わらない。その伝わらない事柄を伝えるのもテクニカルライターの役目かもしれない。筆者が書き始めた頃は現役技術者で物書きしている方は皆無だったが、今では本誌も含めて各方面で活躍しているクリエイターが書くようになった。それを見て自分ならこういう視点で書いてみたいという人も多いはず。そのためにはどうしたら良いか? 紹介や人づてが多いが、一番早いのは編集者(ライター)に直に会って話をすることだ。唯一共通する時間を持てる場がある。それが各地区で開催している放送機器展だ。
放送機器展のすすめ
放送機器展には間違いなく編集者(ライター)が来ているので、探せばすぐに見つかるはず。顔が分からなくても一般客とは違うスタイルで取材をしているので一発で分かる。しかも、この手の展示会はメーカーの方ともしっかり話せるチャンス。SNSやブログで書いても伝わらないことがダイレクトに繋がる。そして逆にWEBでは載ってない細かい仕様も分かる。テクニカルライターをやりたいなら間違いなく足を運ばなければ駄目だ。年間通じて展示会に通うと流れも分かってくる。大体のスケジュールを列挙してみる。
6月関西放送機器展(KBEE)
今年で4年目の放送機器展。今まで関西地区でこの手のものがなかったのが不思議。パナソニックのお膝元なのでやはり一番大きくブースが出ているのが特徴。東京からも新幹線・飛行機で行きやすいが大阪中心部よりやや遠いのが難点か(新大阪より40〜50分程)。どちらかと言うと放送局向けの色が濃い展示会なので、その方面が得意な方は以外はガラパゴスかもしれない。
7月九州放送機器展(QBEE)
福岡県の海沿いの一角で博多駅より20〜30分のところで開催している。QBEEの特徴は年頭に発表された製品が実機としてひっそり展示してある可能性が高いこと。ちょうど海外に行ったデモ機も回収されたタイミングなのか、高確率で新製品が展示してある。東京からはやや離れているが、飛行機の早割を使えば大阪に行くより安い。会場も1日あれば充分に回り切れるサイズで、メーカー側の人間と直接話せる機会が多いのも特徴だ。
11月国際放送機器展(InterBEE)
この展示会を知らない業界人はいないと思うが、実際に参加した方は少ないのではないか? 世界三大展示会の一つであるInterBEEはいろいろなことを聞いて吸収できるチャンスだ。WEBの情報だけでは絶対わからないことが数多くある。ライターをやりたいなら、この展示会は3日間フルに参加するべきだ。テーマを絞って行くと、さらに面白い方向性が見えてくる。
2月 Camera & Photo Imaging Show (CP+)
カメラの祭典&展示会として世界でも3本の指に入るくらいの大きな展示会。写真の展示会になんの用事があるんだ? と首をかしげる方も多いと思うが、DSLRやミラーレスでの動画撮影が当たり前の今、この会場の片隅に動画専門のエリアがある。大判センサーやDSLRならRIGの組み合わせ等、参考になる物は多い。InterBEEでメーカーの方と仲良くなったのならVIPルームにて取材も可能な場合も多い。
4月 National Association of Broadcasters (NAB SHOW)
1年の始まりはNABにあり! と言える世界最大の放送機器展。開催場所はアメリカ・ラスベガスコンベンションホール。さすがに日本国内の展示会のように気軽に行ける場所ではないが、ここに気軽に行けるようになるといろんな世界が見える。間違いなくその年のメーカーの動向が読めるようになる。ココの情報はいち早く、しかも詳しくWEB等でアップされているように思われているが、実は違う。ここでの情報は自分の財産にもなるので全部は出ていないのだ。またグローバルスタンダードが何かを感じとれる場所でもある。筆者は「NABに来ずに業界を語るな!」と言われて、NABに行くようになった。
以上の5か所のうち半分くらいは押さえたい。とは言えコストを考えると躊躇してしまうだろう。筆者の昨年度の予算は以下の通り(東京発着の場合/交通費・宿泊込み、食事代別、早割)。
KBEE=1泊2日で約3万円
QBEE=2泊3日で約3.5万円
InterBEE=3泊4日で約3.5万円(交通費含まず)
CP+=2泊3日で約2万円(交通費含まず)
NAB=9泊11日で約20〜25万円
飛行機はLCCを使えばさらに安くなるかもしれない。NABを安くみるか高くみるかは微妙なところだが、筆者が誘ったテクニカルライターは、皆それ以降ほぼ毎年参加している。それだけ魅力があるということだ。
ライターのすすめ
文章を書くのが苦手でうまく表現できないというのは技術者によくあること。そのために編集部というものがある。彼らは校正のプロ、筆者のような迷走気味のコラムも綺麗に修正してくれる。後は自分で感じた物、見た物を自分の環境(撮影スタイル)に照らし合わせて文字にすればいい。簡単ではないが、それほど難しくもない。自慢じゃないが筆者はバリバリの理系なので文章を書くのは超苦手だ。それでもビデオサロン誌で書くことができたのは編集部のおかげだ。個人的なSNSやブログで自分の意見を書いても、プロの現場にはまったく届かない。YouTubeもコンシューマならともかくプロフェッショナルの業界には届かない。責任をもって発言できる場所に書いてはじめて声が届く。個人ブログ等で本当によく書いてるものを見かけるが、もったいないとしか言いようがない。テクニカルライターという言葉が苦手なら、別のスタンスでもよい。いろいろな言葉が業界を盛り上げるのだから、ぜひチャレンジしてくれたら、本誌でコラムを書いてきた身としては嬉しく思う。
最後に…。
筆者の仲間でもある運野 貢カメラマンが遠い所に旅に出た。もう少し筆者の仕事を手伝ってもらいたかったが、またどこかで会えることを願って良い旅になることを祈りたい。
●ビデオSALON2019年11月号より転載