第10回 Adobe CC にVR制作用プラグイン Mettle SkyBox が年内に標準搭載へ
写真・文●染瀬直人
※この連載はビデオSALON2017年8月号より転載
※2017年7月31日現在は、Autopano Video Pro3.0はRC版になっています。
Mettle SkyBox Suiteとは
カナダ Mettle 社の360度VR動画制作のためのプラグイン SkyBox Suiteは7つのソフトの総称でグローやブラーなどのエフェクトの他、タイトルやトランジションなどを備える。下写真はプラグインの一つ・Mettle SkyBox Procect 2D を適用したもの。プラグインを使わないとVR動画視聴時にタイトルが大きく歪んでしまうのを防ぐことができる。
360度VR動画はステッチをして書き出しただけでは、作品と言えるまでに至らないことが多いです。編集をすることでストーリーテリングを紡ぎだし、トランジションやエフェクトをかけて映像をブラッシュアップして、タイトルを加えて仕上げていく。そうした映像作品として仕上げるために必要なワークフローをシンプルに作業していけるのが、編集ソフトのプラグインです。360度VR動画は通常の映像素材とは異なるため専用のエフェクトをかける必要があります。
Mettle SkyBox が Adobe CC にバンドルされることに
360度VR動画のポストプロダクションになくてはならないプラグインといえば Mettle 社の SkyBox でした。この6月21日、Mettle Skybox Suite プラグインがアドビに買収され、Adobe Creative Cloud に統合されるというビッグニュースが飛び込んできました。
「VRストーリーテリングのパイオニア」と米経済誌の Forbes に書かれたカナダの Mettle 社のCEO、クリス・ボボティス氏はアドビのプロフェッショナルビデオ担当ディレクターに就任しました。
昨年から Premiere が続々とVR関連機能に対応している
アドビは昨年の6月22日に Premiere Pro CC(以下Pr)にVRビデオ表示モードを実装。VRカメラで撮影された立体視も含む1:2のエクイレクタングラー(正距円筒図法)の動画データをネイティブにサポート。読み込んだ素材は YouTube やヘッドマウントディスプレイで視聴する状態のようにVR映像として確認しながら編集できるようになりました。これはマウスでドラッグをすればインタラクティブにパン・チルトができる機能です。そして、YouTube などで動画がVRであると認識されるためのメタデータを付加して書き出せるようになっています。
11月にはそのVRビデオが「平面視」か「立体視(左右)」、「立体視(上下)」のいずれかを自動検出する機能も搭載され、今年の4月には YouTube、Facebook 上での空間音声を出力可能にするなど相次いでVRのワークフローを強化してきました。それをさらに拡張するのが SkyBox のエフェクト群と言えるでしょう。
SkyBox は現在販売終了だが、アドビで無償提供している
Mettle はこれまでに Pr と After Effects(以下AE)用のVR用ツールセットとして SkyBox studio V2。ブラー・グロー・ノイズ除去・シャープネスエフェクトを収録する SkyBox 360 Post FX(AE用)/SkyBox 360/VR Tools(Pr用)。グリッチ・グラデーション・色収差・フラクタルノイズのエフェクトを収録 SkyBox 360 Post FX 2(AE用)、Pr上でOculus Rif でのVR動画のプレビューが可能になる SkyBox VR Player(Pr用)、VR用トランジションを搭載した SkyBox 360/VR Transitions・VR Transitions2 などをリリースしてきました。これらは総称して「Mettle SkyBox Suite」と言いますが、年内にPrとAEに統合される予定です。
現在、SkyBox のプラグインを購入できなくなっていますが、Adobe Creative Cloud 有料ユーザーであれば、上記の宛先にメールすることでプラグインの無償提供を受けられます。そして統合が完了するまで事実上 SkyBox のプラグインを使用できるのです。カスタマーサポートも継続されるようです。
アドビからZIPファイルで送られ提供される内容を見ると、Pr用はトランジション が8つ、エフェクトが6つ、 AE用は12種類となっていました。そして、Oculus Rift を使った360度VR動画のプレビューが可能な SkyBox VR Playerも。Wic用、 Mac用が個別に用意されており、CCのみならず 、CS以前のソフトにも対応しているようです。
Mettle の他のプラグインも
360度VR動画用のプラグインには Mettle の他にもスタッフやリグの写り込みの除去に威力を発揮するオブジェクトリムーバルやスタビライズ、マスク機能などを実装したAE専用の Boris FX社の mocha VR、トラッキングによってスタビライズや合成などを実行する同じくAE用の TORUSMEDIALABS の Canvas 360 Pro などがあります。
HMDでの編集環境も
これは余談ですが、2016年の Adobe MAX 2016 では開発中の機能を紹介する「Sneak Peeks(覗き見)」で Oculus Rift を装着したままでの編集デモが披露されています。
これは「Project CloverVR」と呼ばれ、ヘッドマウント内の映像に Pr のモニターやタイムラインが現れ、Oculus の専用コントローラーの Touch を用いて視点の中心を調整することができます。カットの切り替わったタイミングで視聴者に見せたいところを見せられるというわけです。未来のVR動画編集の一端が垣間見れて興味深いですね。
アドビにメールすると Mettle SkyBox Suite の無償提供が受けられる
●Adobe CC への統合は年内を予定している。統合されるまでの間、CCの有料ユーザーは「dvaplugin@adobe.com」に Adobe ID とアカウント登録している氏名をメールすることでプラグインの無償提供を受けられる。なお、既に SkyBox Suite を購入している人は1アカウントにつき10のパソコンにソフトを入れられるという。
▲Premiere用プラグイン。前述のタイトルの歪みを補正する Project 2D も含めたエフェクト6種類(上写真)の他8種類のトランジション(下写真)を使える。
▲After Effects用のプラグインは12種類を用意。
◆この記事はビデオSALON2017年8月号より転載