Vol.1 動画広告の配信の種類
今回は、動画広告の基礎をまとめて解説しています。動画に直接関わらない基本的なことですが、まずはここから知っておきましょう
まさかビデオサロンに寄稿するチャンスをいただけるとは、というところではじめまして。
先月玄光社より「売り上げ・集客に繋がる 動画マーケティング トーク術&撮影・制作テクニック」という書籍を出版しました久松慎一です。
本書は商品やサービスのPRやセルフブランディングに動画を活用したいと思っていらっしゃる、特に中小企業や自営業・自治体の広報の方などに向けた実用書です。
テレビショッピングで嵐のように商品を売り上げるアナウンサーの江見真理子さんと映像ディレクターの私が、出方・裏方双方のビギナーに向けて解説をさせていただきました。
動画広告の需要がいっそう高まり、PRの方法が重要視される時代に
2019年はWEB動画広告が前年比157%と大きく成長(※)しました。2020年以降もYoY(Year on Year/前年比)10%以上の成長が見込まれています(この連載は他の記事に比べて数字がちょっとだけ多めに出てきます。なるべくわかりやすく解説いたしますので是非ともお付き合いいただき、数字を使いこなせるようになってください)。
※ 2019年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2020/0317-010029.html
コロナ禍での外出自粛が長引き店頭で商品を見てもらう、店員さんにご紹介いただくチャンスが激減する中、大企業・中小企業・自営業・個人に至るまでPRやマーケティングには動画制作が欠かせない存在です。
ネットでのマーケティングに関わる方の耳には、数え切れないほど入っているであろう“5G”も動画活用を後押しします。“5G”は今年2020年から普及が見込まれている、次世代のモバイルネットワーク(ざっくり言うと携帯電話・スマホの無線通信ネットワーク)です。3G、LTEというのは聞いたことがあるかと思いますが、LTEが4G(4th Generation)で、その次が5G(5th Generation)、というわけです(Wi-Fiの“5G”は周波数帯の“5GHz”の略なので別物です。ややこしい)。
5Gネットワークには多数同時接続、低遅延といったアドバンテージがありますが、とりわけ広帯域(通信速度がLTEの約10倍)であることと、多くのキャリアで通信量制限が撤廃、もしくは大幅に緩和されるといった点が動画活用に有利にはたらきます。
動画を見るためは、どうしてもテキストや静止画とは桁違いのデータ量の通信を必要とします。そのため、動画は再生開始まで時間がかかる、モバイルネットワークに接続する場合はパケット通信料を消費するなど視聴者に負担が掛かるので、マーケティング手段として発信側・閲覧側共に避けられる面もありました。
5Gになれば動画もサクサクと再生され、パケ死の心配もなくなるので今よりさらにストレスなくネット上で動画を楽しむことができます。
ちなみにライブコマースなどのリアルタイム配信の場合は先ほどの“低遅延”というアドバンテージが効いて、よりタイムラグの少ない双方向コミュニケーションが実現されます(こちらの話はまたいずれ……)。
それならば、と動画を作っても(本誌の読者の皆様にはお得意なところかと思います)それをどのように告知するのか、頭を悩ませることになります。いわゆる「PRのPR問題」というやつですね。
自社(自分)のWEBサイトやSNSに掲載するのは当然としても、自社を知らない、もしくは初期の潜在層に自力で拡げる、というのはなかなか大変です。
キュレーションメディアへの掲載を狙う、バズを狙う、YouTuberとのコラボレーションやタイアップなど積極的に企画を打っていくにもコストや時間がかかります。
拡散の手段の中でも簡単に低予算で始められる方法が、YouTubeやTwitter、FacebookといったSNSなどへの広告出稿です。YouTubeやTwitterなどの多くのSNSはテキストやバナー(静止画)広告と同様に動画広告のサービスを提供しており、中小企業や個人でも数千円程度から簡単に動画広告を始められます。Yahoo!等のポータルサイトにも動画広告のメニューはあるのですが出稿の実績の高い一部のクライアントのみに提供されている場合が多く、敷居が高くなります。
バナー(静止画)広告を、限られた面の中でより情報量豊かに伝え記憶に残りやすい動画広告に切り換える例が増えてきており、動画広告がWEB広告全体の20%を占めています。また先述の通りYoY157%で成長しています。ネット上の広告はWEBページに掲出されるもの、スマホアプリや特定のサービスに掲出されるもの等様々な形態のものがありますが、本連載ではまとめて“WEB広告(WEB動画広告)”と表記します。
WEB広告の運用方法は2種類!予約型広告と運用型広告
SNSへの広告出稿は基本的には運用型広告です。
WEB上の広告は購入の方法によって大きく「予約型広告」と「運用型広告」と呼ばれる2つのカテゴリに分類されます。
運用型広告は、例えば出稿してみたものの、ターゲットとなる層に見られていない、動画の再生途中での離脱(見るのをやめてしまう)が多い、コンバージョンする割合が低い、などの広告はその原因を考え改善します。
反対に予想以上の成果を出している広告は出稿量を増やしたり、その理由を検討しベストプラクティスとして次回以降の出稿の参考とします。場合によっては逆に予定していた広告費を削減してコストを抑えることもあります(商品の在庫が限られている場合など)。
自社サイトを閲覧したユーザには広告Aを優先してみせる、さらに特定のページを閲覧したユーザには広告B、その他のユーザには広告Cを優先して表示するなどユーザの行動履歴をもとに広告を切り替える(ターゲティング)などさまざまな設定で広告効果を改善します。
次回以降具体的に見ていきますが、課金の方法を変更するということもできます。運用広告は設定をリアルタイムに変更することで日々広告を改善し予約型広告より高い効果を期待できます。
その一方、配信する地域やメディア・時間・ターゲティングなど多大な設定があり、日々日々改善を行うので最大の効果を出すには運用に高い専門知識と労力が求められます。
動画に限らず、WEB広告では運用型広告が主流で日本国内で2019年は79.8%が運用型広告です。YouTubeや前掲のSNSをはじめ多くのサービスで運用型広告は個人のアカウントでも開始することができますが、上記の通り効果最大化のために知識と労力が必要なので代理店に依頼することが主流となっています。代理店に広告の目的や予算などを伝え、広告運用を任せます。クリエイティブの制作を依頼する場合もあります。
代理店は出稿額の20%、という形で広告運用の手数料を受け取ります。代理店に依頼をすると基本的には広告運用をその代理店のアカウントで行うため、広告主が直接的なデータを見ることができなくなります。週に一度もしくは月に一度の代理店からのレポートを見て運用状況を把握し、次のタームの方向性を話し合います。
私も大小スタートアップ他、さまざまな企業のWEBマーケティングを担当させていただく中で、自社で運用型広告を回せる知識も人的リソースもないが数字が見られなくなるのも困る、という板挟みに悩まされてきました。
高い専門知識が必要と書きましたが、それがなければ広告出稿ができないわけではありません。“最大限の結果を出すには”高い知識が必要なわけですが、少額から始められるメリットを活かして試行錯誤しながら知識をつけていけば、業務で無理のない範囲で自社で運用することも可能です。広告の知識では代理店にかなわなくても、自社(自分)の顧客、ニーズ、潜在マーケットに対する知識は代理店より敏感に感じているのではないでしょうか。それをもって取り組めば結果を押し上げ、代理店に依頼するより大きな効果を上げることも可能です。
代理店でも、運用に使っているツール(管理画面:写真下参照)は基本的にプラットフォームが提供している機能を使っており、個人アカウントでも同じものにアクセスできます(代理店の画面には多数のアカウントとまとめるための代理店向けの機能が追加されています)。
またデータの分析を補助するマーケティングツール(ソフトウエア)がサードパーティーから有料・無料共に多数提供されています。これらを用いることで運用の工数を下げたり1段も2段も深い分析を手にすることができます。ツールは小さな企業や個人には手の届かない高額なものもあります。
このようなツールを用いて、プラットフォームの提供するデータをさまざまな形で表にしたりチャートにしたりとあらゆる角度から分析することで、それまで見つけられなかった新たな発見があります(このツールをいじってるだけで楽しくなってきたら立派なマーケターです)。
反対に、広告のデータを眺めている中で市場のニーズだったり自社の得意分野がわかってくることもあります。当たり前だと思っていたことに強く興味を持たれていることや競合と差別化されているポイントが見えてきたら製品やサービスの開発へフィードバックするチャンス。このような面からも広告のデータは宝の山なのです。
さて、さきほど広告の課金に触れましたが、WEB動画広告の主な課金形態にもいくつか種類があります。
予約型広告・・・TVCMや雑誌の広告のように、予め広告枠を購入し出稿する広告。純広告とも呼ばれる。※メディアによっては、地域や期間など購入前に条件を設定できる。購入した後は基本的に出稿されてから、効果が出ることを祈り続けるしかない。
運用型広告・・・購入したらあとは天に祈る予約型広告に対して、広告の視聴数や商品の購入・資料請求といった成果(コンバージョン)など、閲覧者の反応を確認しながら広告設定やクリエイティブ(広告の表示内容)を変更しながら運用する広告。
▲Google アナリティクスのダッシュボード
▲アクセス解析のデータ可視化ツールの分析画面
広告の課金方法は4つ種類がある
運用型広告で主に用いられる課金形態は、インプレッション課金、視聴課金、クリック課金、コンバージョン課金の4つの種類があります。
・インプレッション課金
閲覧者のブラウザやアプリの画面などに広告を表示した回数に応じて課金される課金形態。購入やWEBサイト訪問といった直接的な行動を促す広告というよりは認知を拡げる、ブランティディングを行う広告に向いています。
・視聴課金
再生回数に応じて課金される課金形態。ユーザが自発的に再生する場合も、自動で再生される場合も含まれます。通常は“○秒以上で再生”や、“最後まで視聴”などの条件がつきます。ユーザが途中で再生をやめた場合は課金されず投資効率の良い広告手段です。
・クリック課金
動画をクリックしてWEBサイトに遷移するなど、動画に対してポジティブなアクションをとった場合に課金される課金形態。広告に費やしたコストと効果の関係がわかりやすいのが特徴。自社や商品の認知向上や関心の低い閲覧者への興味付けなどに向いています。
・コンバージョン課金
広告を通じて誘導された閲覧者が商品を購入したりアプリをインストールしたなど設定された成果の回数や金額に応じて課金される形態。アフィリエイト広告もこれに含まれます。広告費が直接的に成果につながるのでリスクを抑えるメリットがあります。
YouTubeや主要なSNSでは視聴課金とクリック課金のメニューが提供されています。このように動画広告に限って出稿形態・課金形態の面からだけみてもさまざまな出稿パターンがあり、それによってクリエイティブの作り方も変わってきます。
広告を見てくれる閲覧者にはさまざまな自社との関わり方の方がいらっしゃいます。
例えば家電販売であれば、以下のようなパターンが見受けられます。実際にはもっと細かく、一人一人の関心の向きや強さが異なります。
・まったく興味のない方
・「そろそろ冷蔵庫買い換えたいな」とぼんやり思っている方
・冷蔵庫について少し調べてなんとなく候補を絞った方
・ある程度調べたものの、忙しかったり調べて大方満足してしまって忘れかけている方
・価格.comなどでどこで買った良いか調べている方
・購入を決めてどこのストアで購入しようか最後の1歩を踏み出す直前の方
・購入後、体験をシェアしたいと思っている方
・就職先として検討している方
・自社製品の販売先を探している方
さまざまな広告手法やマーケティング手法を用いて興味関心を持っていただき、自社のお客様となっていただき、継続的な関係を築いていくことを「リードナーチャリング(見込み顧客育成)」と呼んでいます。
実際の広告運用では、(予算次第ではありますが)複数の手法やクリエイティブを並行して出稿し、閲覧者の関心の段階によって広告を出し分けてナーチャリングを促します。
近年のWEB出稿で外せないキーワードが機械学習です。人工知能などとも呼ばれますが、上記の専門的な知識と工数のかかる広告運用を機械学習されたエンジンが最適と思われる運用をしてくれる技術です。
Googleなど多くのプラットフォームが機械学習による自動化された運用のメニューを用意しており、運用の手間とコストを大幅に削減してくれます。
WEB広告の手法やトレンドはものすごい勢いで変わっており、有名なプラットフォームのメニューも激しくも激しく増えたり減ったりしています。私はあらゆる企業の広告主や制作の立場で関わることが多いのですが一人では心許ないので、実際の広告運用について相談し、依頼をしている株式会社援軍さんを共同執筆者に迎えました。Ex googlerを中心に立ち上がったWEBマーケティングの専門家集団です。最新の知識と高い専門知識で企業の広告運用・提案をくれるまさに「援軍」で、多数の案件をご一緒することで、刺激をいただいています。
株式会社援軍 – 東京「秋葉原」から世界へ総合デジタルマーケティング支援を行う会社
https://engun.co.jp/
連載初回、なんだか小難しい話になってしまいましたが次回以降は、援軍さんと共により具体的にWEB広告の制作・出稿などについて解説していきたいと思います。是非おつき合いください。
今回のまとめ!
動画広告の需要は年々高くなり、結果、クライアントの悩みは最適なPR方法の模索になる。
主な運用方法は2種類、課金方法は4種類。それぞれにメリットがある。運用や課金の設定によってコストと効果の考え方が異なる。
●VIDEOSALON 2020年9月号より転載