なぜ自分は映像作品を作るのか? 悩んでいる時に出会った一冊の本から生まれたモノローグビデオ

取材・文/編集部 一柳



原田圭介さん 
https://www.youtube.com/@keisukeharada


THE ORIGIN なぜ映像作品を作るのか


これまでの作品を総集編としてひとつの映像にまとめながら、自分にとって映像とは何なのか、なぜ作品を作るのか、モノローグがテロップとナレーションで入る。岡 潔の著書「春宵十話」にインスパイアされて生まれた作品。


「なぜ映像作品を作るのか」

YouTubeでハッとさせられる作品に出会った。 『THE ORIGIN なぜ映像作品を作るのか』 。小誌としてはそれを言われると元も子もないというか…。この率直な問いに好感と興味を持って作者にアポイントをとった。

作ったのは福岡で映像制作をしているビデオグラファーの原田圭介さん。映像を始めたのはコロナのタイミングだった。経営している自動車販売店がコロナで打撃を受けて先行きがまったく見えなくなったときに、YouTubeでシネマティックなトラベル動画を見て感動し、勇気を与えられたという。

「海外にもともと興味があったのですが、映像を見てたらすごく楽しそうに世界を回って映像にしている。しかもそれをひとりで撮影から編集までやっていることを知って、自分でも挑戦したいと思ったのがきっかけですね」

手持ちのソニーのαは動画にも強いということを知り、自分も練習すれば映像が作れるんだと思い、オンラインサロンやYouTubeでひらすら勉強しては撮影というサイクルを繰り返していった。そうやって映像の魅力に取り憑かれた原田さん。映像の面白さとは、今まで自分が体験した嬉しかったたことや悲しかったことが映像と重なる瞬間があって、それを映像作品に落とし込めるところだと言う。会社が大変なときに映像づくりが救いになっていたのかもしれない。

一冊の本に出会った

そんな感じで映像を始めて夢中になって制作してきたが、会社の仕事もあるので時間に余裕がない。それこそ睡眠時間を削ってやってきた。

「これは何のためにやってるんだろう、何に繋がるんだろう、自分にとってどんな意味があるんだろう、とふと考えることがあったんです。そんなときに一冊の本に出会いました」

数学者である岡 潔さんの『春宵十話』だ。

「すごく腑に落ちました。自分の中で最も大切にしていたことが、岡さんが言う情緒だったんだなということに気がついたんです」

ただ好きな映像を食べて生きている

現代の生活は合理的な考え方に支配されがちだ。そこに「情緒」は入る余地もない。しかし岡 潔は人間に最も大切なものは数値では測れない繊細な感受性であり、音楽を聴いて感動する力、自然の美しさに心を揺さぶられる感性、他者の痛みに共感できる繊細さ、人は美しいものに触れたとき言葉にできない感動を覚える。その感動が情緒を形作ると言う。この本に共鳴した原田さんは、自分が映像を始めた初心に戻って、このステートメントを入れたビデオを作りたい思った。

「まずは文章を作りました。最初は誰か得意な人にナレーションをしてもらおうと思ったのですが、この作品では、下手でもいいから自分の気持ちを自分の声で入れたいと思いました。話すのは得意ではないのでかなりテイクを重ねて時間がかかりました」

映像は自分が作ってきた作品の総集編的なもの。ただ以前作っていて頓挫していたものを完全に壊して、ストーリーに合わせて再編集した。まったく違う作品の素材をこうやって組み立て直してみると別の意味になってくるというまさにモンタージュ的に気持ちのいい編集。

印象的だったのは「私はただ好きな映像を食べて生きている」というセリフだ。これは岡 潔の本のなかにあった「好きな数学を食べて生きている」という文章をオマージュした。

「作品をキャリアに繋げなければと考えていた時期もありますが、この本を読んで、純粋な感情むき出しのままで別にいいんだなと思ったんです。この気持ちを大切にしたい。自分は人を撮りたいという気持ちが強くて、いまストーリーができているものもあるので、セリフを入れて短編映画のようなスタイルものを作りたいと思っています」


原田さんのその他の代表

約束

セリフとテロップなしでストーリーを伝えることに挑戦した。帰省する彼を約束の場所で待つ彼女。ふたりで出かけた3年前の雨の花火大会の映像が印象的に挿入される。

PERSONA

初めてモデルさんにお願いして作った作品。当初屋外撮影を予定していたが雨の予報で急遽古民家でお面を小道具として使うことにしてストーリーを想像して撮影していった。

FORD 1966 MUSTANG

車に関わる仕事をし、車好きな原田さんだが、映像では人を撮るのが好き。ただこちらはかつての愛車フォード・マスタングをイメージ的に撮影、印象的にグレーディングした。



VIDEO SALON 2025年11月号より転載